第5話 「絶対領域・展開!」(ミス)





 増田の言葉が理解できなかったのか目を点にする琴音。自分の口からつい口走ってしまった言葉が理解できない増田。


 両者は無言で顔を見る。


 ただ、そんな中、一足先に増田が動く。


「──あ、あぁ! ごめん! と言おうとしたんだ。うん! きっとそうだ!! 朝ごはんもまだだし間違い無い!!」


 無理矢理笑顔を作る増田は今もこちらをみてキョトンとしている琴音に伝える。


 ただ、増田の話を静かに聞いていた琴音は何を思ったのか、その場でおもむろに立ち上がると──履いていた制服のスカートを恥ずかしそうにたくし上げる。


「──っう」


 目を瞑り、真っ赤に顔全体を染める琴音。


 そこから見えるのは──世の男性諸君を魅了するであろう大胆な黒いパンテ……下着が露わにされる。


「──おぉ」


 その光景を馬鹿の様に、いや、馬鹿みたいに直視で眺める馬鹿。


「そ、その、純ちゃんだったらいいよ。いずれ、か、か、彼女にも、なるんだし。その先も……きゃっ!!」


 何を考えたのか琴音は右手でスカートをたくし上げながら左手で自身の頬を抑え。頰を桜色に染めながら「イヤンイヤン」と身体を左右にくねらせて。

  

 ただ、増田はそんな琴音の話など既に耳に入っておらず……。


 お、おなごのパンツ、パンテ……下着。それに、それに……。


 下着に目がいき。増田はふと下を向く。下着の下にあるものは──


 そのすらっとした脚線美。そのしっかりとした肉付きの良い太ももは、完全に手入れされた高級感を放っている。すべすべとした艶。若さから出る瑞々さ。細いけれどそこにある確かな柔らかそうな絶妙な曲線──


      FUTOMOMO


 要は、太ももをガン見していた。もう、ヨダレを垂らすぐらいに。


 増田にはある性癖があった。それは──


 今も舐め回す様に琴音の太ももだけをガン見する増田変態


「──んぅっ」


 その視線に気付いた琴音はスカートを戻すとその場で座り込む。好きな人に見られることは問題ないが、そこまで穴が開くほどにマジマジと見られるのはまだ心の準備が必要。


「──ぁ、あぁ」


 哀しそうな声を出す変態。


 ……良い。実に良い! 俺の脳内ホルダーにはしっかりと保存済みだ。これでソックスやホットパンツを履いてもらって太ももの強調をもっと出してもらえれば……我が念願の夢である、太もものが見れる!!! そこに頰を挟めたなら俺は恐らく昇天するだろう……。


 そんな事を宣う。流石に声には出さないが、実現させようとする意思はある様で。


 出来たらこんな「」は早くにでも太ももの「」を見て天に召されて欲しい物だ。


 ここまで来ると一種の呪い。


 まぁ、そんな馬鹿な話は今は置いといて。


 咳払い一つして意識を切り替え。


「──ん、んんっ! えーと、琴音ちゃんは俺に何か話があったんだよね?」


 威厳(手遅れ)を出す為にわざと咳払いをすると優しく話しかける。琴音は先程の自分のはしたない行動が今になって自分に返ってきたからか下を向きながら。

 それでも増田に話を振られたことでなんとか顔を上げる。その顔は真っ赤に染まるが目線はしっかりと合わせて。


「う、うん。お母さんがね、この頃純ちゃんが顔を出さないから久し振りに家に招待しなさいって言っていて。……あっ! もちろん私も純ちゃんに家に来て欲しいからね!!」


 そんなことを忙しなく伝えてきたと思ったら慌てて琴音自身も家に来て欲しいむねをアピールするのも忘れない。


「はは、そうか」


 必死に取り繕う姿に苦笑いを浮かべ相槌をうつ。


 本来なら目の前にいる「愛沢琴音」達、美少女を目前にしたらテンパリ何も話せなくなる。それはと割り切ればなんとか話せた。元々のこの世界の「増田純一」が女性慣れをしていたからなのかもしれない。なので今は普通に話せる。


「うん! それで、どうかな? 今日は土曜日で私も学校も無いし純ちゃんも仕事はお休みだよね。なら今から家に来れないかな?」


 そのお誘いを聞き考える。


「そうだなぁ〜」


 直ぐに誘いを乗ることはなく。


 今日が土曜日であり自分の仕事はなく明日も合わせて休みなのは知っている。それにこんな自分のことを慕っている美少女に"お願い"をされたら断る男性陣はいないだろう。


 ただ、今の増田には少し乗り気ではなかった。その理由わけもしっかりとある。今日から三日、ないしは五日後までに自分の身の潔白を証明しなければ「東堂姫乃」により仕事を辞めさせられ、職を失う可能性がある。それだけならまだマシな方だろう。もしかしたら増田が犯した?「覗き」が公にされ警察の厄介になる可能性もあるのだから。


 それに、だ。


 記憶通り……というかもう確定で「愛沢琴音」の幼馴染が俺なのは確実だろう。琴音本人からも親しげな雰囲気が伺えるし。

 ただ、琴音のママンである……「愛沢若菜」さんには少し会いにくいな。作中では名前は出てきたがどんな女性なのか姿も結局未公開のキャラだったからな。「愛沢若菜」さんと会うことで何かしらの悪いにでもなれば最悪だ。さて、どうしたものか。


 琴音の母親「愛沢若菜」は『ルサイヤの雫』で名前はある。それでも最後まで姿を見せることはなかったキャラクターの一人。

 そも『ルサイヤの雫』では色々な分岐点があり、例に出すなら「○○○ルート」などが上がるだろう。そんな各分岐点のルートでも「ハッピーエンド」だったり「バットエンド」と呼ばれる物が存在する。あるキャラクター同士が出会ったことで悪いことが起こる可能性、良いことが起こる可能性。

 「ハッピーエンド」の展開なら願ったり叶ったりでも「バットエンド」の結末になってしまうと言葉の通り……「死人が出る」があるため用心するに越したことはないだろう。


 キャラクターの行動、性格、起こるイベントの内容を知っていれば対処の仕様があるが……琴音の母親である「愛沢若菜」の情報は『ルサイヤの雫』を5週プレイした増田ですら何も知り得ないのだ。


 頭の中では「はとても良い人で美人でナイスバディーな女性」とわかっていてもどうしてか増田純一今の自分が会話をしたわけじゃないから少し警戒をしてしまう自分がいる。


 増田が出した答えは──



「ごめん! 本当に、ごめん!! 琴音ちゃんのお誘いを断る形になっちゃうけどちょっと色々と立て込んでいてさ。それが解決できたらいつでもお呼ばれされるからさ、ね?」


 誠心誠意込めて謝ること。


 「愛沢若菜」に会いたくないということは伏せる感じであくまでも「」ということを伝える。


「──残念。純ちゃんが忙しいならしょうがないね。うん。別にいつでも家に来れるしこうして会えるもんね!!」


 こちらの提案を飲んでくれたようだ。


 さすがは『ルサイヤの雫』の良心。


「この借りは必ず返す。また近い内に俺の方から琴音ちゃんに伝えるからさ」

「うん! その時を楽しみに待ってるよ!」

「あぁ、楽しみにしていてくれ」


 お互いそう言い合うと笑い合う。増田はこれで解放されるから「覗き」の対処法を考えられると思った。


 そう、思ったがことはそんな簡単には進むはずがなく──


「──それで、「立て込んでいる」って何が立て込んでいるの? 何かあったの? 何かあったのなら私に相談できるよね? これでも顔は広いよ? もし、言えないならやっぱり──"女"なんでしょ?」

「……お、ふっ」


 顔を覗き込む様に真下から生気のない顔で見てくる琴音。そんな琴音は増田が疾しいことを考えているからと思ったらしい。


 そんな琴音に上手く言葉を返せない。


 どうやらまだ危機は脱せていないようで。











 

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