第45話 父 7

あの百万だけ払うというのは、餌だとは分かったが、問題は


誰がそれを知っているのか? だった。父だけの案なのか?


それ以外で仮にこの手の案を出して来るのは、叔母であった。


私は状況を探る為に、それから毎日では無いが、数日に一度は


一緒に夕食を食べるようにした。


しかし、あくまでもこちらからでは無く、今まで通り呼んできた時


だけにしようと決めた。


私の持論を、逆手に取られないようにする為でもあった。


本気で百万程度の餌で私に協力させようとしているのかが、どうしても


分からなかった。未払い金は最低でも5、6百万もあるのに対して、


しかも、父と弟たちと言うのが、どうしても引っ掛かった。


一人の叔母は、祖母が死んだ後、追うようにして死んだ。


今、生きているのは、父を入れて4人兄弟。


一人当たり25万程度なんて、一族からすれば小銭に過ぎなかった。


実際、お金に困っていたのは、盗んでいたであろう遠縁の一族であり、


叔父は薬剤師であったが、子供もまだ小さい子もいて、金持ちとは


呼べない程度だった。それに加えて、あの頭のおかしい息子と母親の家は、


かなりお金には困っていた。タンス預金の三千万も上手くやれば独り占め


出来る状況にありながら、頭の悪さと焦りから、その事は露見ろけんした。


父の親友であり、父の妹である叔母と結婚した一族は、金には全く困ってない。


実際、三回忌で問題になりそうになった後、叔父は相続人を辞退した。


ある種の会社を作り、一代で日本一にまでした。その辺りの事は私の予想も


交じってくるのだが、最初に少しだけお金の支援をしたのか、それとも物資的援助を


した可能性は高い。何故なら私の一族は会社等は作らなかったが、物資やお金、


コネなどはあった。そして父から聞いていたのは、叔父は一人で会社を始めたと、


言っていた。高校生にして会社を始めたと聞いた。


仮に、いくら父と古くからの親友であっても、政略結婚以外は有り得ない。


私の父はまあ例外だ。やりたい放題なんでも自由に出来たからであっても、


広島に戻れば、絶対に結婚相手は選べる訳は無い。当時の財閥の長男は、


何でも好き勝手は出来るが、結婚となると話しは別だ。


しっかりとお互いを結び付ける相手としか結婚は許されないのが普通だ。


父はそれに気づいていたから、兄に心酔する弟を立会人として、母と結婚した。


東京の弟を立会人にしたのも、私くらいしか気づいていなかったが、ちゃんとした


理由はあった。父の弟は、東大の医学部だ。コネとしては最高峰のコネを持つ。


後に何かしら問題が起きても、父の弟子のような弟に言えば、父に力を貸す。


我々の一族は建前だけであって、腹黒い連中ばかりだ。


私は酷い教育を受けたおかげで、人の心を深く読むスキルを得た。


相手から話しを引き出すスキルも、要点を押さえれば簡単に聞き出せる。


私は親族だけでなく、父母も一切信用してはいけないという前提で産まれた。


そして、運良く、頭の良い教授の叔父に好かれた。


人のめぐり合わせだけは、私は良い。しかし運は悪い。


だからそれを補う為に哲学を学んでいる。


父母には理解し得ない世界の知識で、対抗するしか手が無かった。

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