第28話

「キチキチ?」


死をようやく実感したようだ。


細胞壊死術式発動


念のため細胞の一片たりとも残さぬように細胞は全て壊死させる。


「魂強化」


魂強化術式確認、星辰体、精神体の強化、さらに深層部への侵入を遮断いたします。


「魂乗っ取るタイプも多いし、これくらいはしておかないとねえ。

 潰れろ。」


「……ぎ…………ち……」


「本当なら実験材料として生かしておきたかったけど、命令系統を活かすと碌なことが無いんだよねえ。」


死んだ細胞の構成と本能的構成物質、魔術波を分析。

身体強化に不必要なものと判断。

抗うつ剤に近い反応アリ。


「これだけやってようやく殺せるか。

 酸素を下に戻してっと。

 ルルさん来ても良いよ。」


固有結界への入り口を作り、ルルさんを手招きする。


「これがあなたの拷問って、死んでる……」


おびただしい血の量と、血に含まれる鉄の匂いが充満している。

魔王の種族は血も人間と一緒で赤いらしい。

酸素を送り込んだせいで血が深紅に染まっている。


彼女はショックを受けているのかそのまま床に膝を付けてへたり込んでしまった。

心なしか唇は震え、瞳はどことなく焦点が合わず恐怖に染まっている。


「確か冥界の住人には帰ってもらうのが目的だから死体を見るのは初めてか。

 気持ち悪いなら帰って休んだら?」


俺の気遣いも恐ろしく思えるだろう。

戦場での当たり前は日常での非日常。

特に銃が無い日本ではネズミより大きな動物の死体を見るのは初めてに近い出来事。


幾ら戦闘に主を置く獣人と言えども日本の平和には叶わなかったようだ。

死体を見ただけで会社を一月、もしくは仕事すらやる気が起きない人も数多く、社会問題にもなっている。


「いえ、あなたの実力なら冥界の住人ですら二度殺せるのでしょうね。」


なんとか声を出しているが角上相手と認識したのか敬語がより丁寧になっている気もする。

手のひら返した感じが嫌だな。

権力者がより強い権力者と知ると頭をペコペコと下げ始める。


自分の地位が脅かされるのがとても嫌、プライドが高いのは目に見えている。


学校一の美少女象がどんどん崩れていくなあ。

つまり学校一の美少女の地位を脅かす存在が現れれば彼女のキャラクター性は崩壊するか。


「この人は冥界の住人ではないだろうねえ。

 彼女自体言っていたけど、地球の固有種で間違いはないだろう。

 人間とはだいぶ違うけど地球にしかない波長を持ってる。」


「え?

 あなた殺人を……」


「まあ、俺が殺したわけじゃないけどねえ。

 そこにある虫は見える?」


「気持ち悪い奴なら。」


あの生物の死体は生理的に受け付けないらしい。

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