第21話

「避けるのは上手いわね。」


「誉め言葉として受け取っておくよ。

 ねえ、それよりもさ。

 この周り、淀んでるんだけど気のせいかな。」


「澱んでる?」


「違うよ。

 滞りそうになっている。

 本来あるべき空間の循環が遅い。」


世界は循環に満ちている。

魂の循環、大気の循環、炭素の循環。

それらが滞りそうになっていることを淀みと呼ぶ。


「私には何も感じないけど。」


「何も感じないは感じないで大丈夫?

 まあ、対処はしておくから先に行ってて。」


「いや、私もいる。

 気になるもの。」


この淀みを感じていない時点で人間の枠組みを超えていない証拠。

足手まといだから先に行ってほしいという意味だったのだけども、対抗心を燃やしてしまったらしい。


「心を読んだけど私が足手まといになるんでしょう。

 なら、なおさら見ないと。」


「わふ!」


犬よ。お前さんもここに来たのか。


「メルだめだぞ。

 家族から離れたら、俺が怒られるじゃないか。」


なんせ目の前には、身体強化を覚える前に遠目で見た魔王に匹敵する実力を持った異形が姿を現しているのだから。


「ここに居るのは、冥界のモノだけのはずだが、ふむ、人狼と純粋な地球人が一匹。

 純粋な地球人で我々の存在を感知できるのがこの時代に居るのはとても珍しいねえ。

 昔は腐るほど居たが…。」


「15世紀に人間たちによって排除された歴史がある。

 それも、人間たちが勝手にだ。

 アンタたちの思惑とは別にな。」


「正解と言っておこう。

 よく調べたモノだ。

 我々の書物は在留していないと思っていたのだがな。」


「メルが話してくれたけど?」


「わふ!」


この犬結構おしゃべり。

元々は俺の祖先が祀っていた狗神で、冥界に行ってからは暇つぶしに骨をしゃぶっているような柱だったと自慢話をされていた。

精神年齢は幼いのか6歳くらいの口調で話されたときは驚いたけど。


「なるほどねえ。」


「私に心を閉ざしているのに。

 それよりもあなた冥界の奴らね。

 現世から出て行くか決めなさい!」


「あー、そこの犬っころは無視していいから。

 実力差がどうにもわかっていないようでな。」


「まあ、彼女の言いたいことも最もだ。

 なんせ君らで言う不法入国をしているようなものだからね。

 警察や軍隊程度では私たちは滅ぼしてしまうから、意味は為さないがね。

 それで、君はどうする?

 実力差を身に染みてわかっているようだけど、私を止めるかい?」


とりま、一発殴ってみてから決める。


体重3トン、空気抵抗無、地面強度相応、酸素量普段の三倍、肉体内臓系統最適化、反応思考能力速度1/2、気圧正常化完了。


身体強化発動。

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