第6話

 まさかの大学内で桜空と遭遇した翌日。

 店長にまた急遽呼び出された。店にいくと奥の作業場に通されて、そこには何故かもいた。

「里中くん、悪いね。さくちゃんがどうしてもキミに話したいことがあるって言うからさ」

 店長が口元に笑みを浮かべながら、「ごゆっくり」と意味深げに囁いて、店内に戻った。

「こ、こんにちはっ」

 桜空が椅子から立ち上がり、緊張したように上ずった声で挨拶した。

「どうも」

 とりあえず返事をしつつ、相手が話し出すのを待つ。桜空は、深呼吸を何度か繰り返し、やがて意を決したように僕の目を見て、口を開いた。

「あ、あの! もしよかったら、れ、連絡先を交換しない? その……、もっと話したいなと思って……」

 後半、だんだんと声が小さくなっていき、俯く彼女。その仕草さえ、可愛いと思ってしまう。

 桜空からの思ってもみなかった提案に、僕は内心、気分が上がっていた。表情かおには出さないようにしつつも、つい口元が緩んでしまう。

「いいよ、僕でよければ。僕も話したいし、と思ってた」

「……!」

 さらっと、言葉が勝手に口から発せられた。自分でも驚くぐらいにすんなりと自然に――――。

「あ、いや、その」

「嬉しい……。わたしも同じ気持ちだったから」

 ほんのりと頬を赤くしながら微笑む桜空に、いつぞやと同じように目を奪われる。

 ダメだ。勘違いしちゃいそう。

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