第5話

「ふーん。なるほどねぇ」

 約束の時間通り、茜音の家の前で待ち合わせて、部屋で女子会になった。

 逸樹のことを出会いから今日の出来事までを全て話し終えたところだった。茜音は、缶チューハイ片手に何か思案している。

「それってさ、桜空がその人のことを好きってことなんじゃない?」

「え……?」

 予想だにしなかった言葉に唖然とする。

「一目惚れってやつじゃない? ほら、桜並木歩いてる時の笑顔に心を射貫かれちゃったんでしょ?」

 茜音が酒でほんのりと赤くなった顔を近づけた。まじまじとお互いに見つめ合う形となり、すぐに後ずさりながら、自分の髪を意味もなく触る。

「え。え? そ、そういうことなの?」

「恋、だよ。こーいー」

「そんなことある!? だ、だって、たったの一回会っただけで」

「恋に落ちるのは、突然なんだよ」

 やけにハッキリと答える茜音。経験者の茜音が言うのだから、きっとそうなのだろう。

 だが、自分が逸樹に恋をしたなんて、俄に信じがたい。

「会いたいなぁとか、ふとした時にその人のことを考えちゃってたり、しない?」

「うぐ……。する」

「そういうこと」

 茜音は、手にしていた缶チューハイを一気に飲み干す。その姿をぼんやりと見つめながら、わたしはそっと呟いた。

「わたしが里中くんに恋……」

 言葉にした途端、頬が熱くなる。なんだか恥ずかしい。

「まずは、その人と連絡しゃきを交換するところきゃらだね」

 茜音が目を輝かせながら、もう一本、缶チューハイを開けようと手を伸ばした。もう五本目でいつもよりペースが早い。慌てて、彼女から缶を取り上げて問い返す。

「連絡先の交換?」

「ほう! 仲良くにゃるための手段っ!」

 人差し指を立てて、大きな声で言うや否や茜音はそのままテーブルに突っ伏してしまった。

「もう……、飲み過ぎ」

 テーブルの上に転がっている缶を片付けながら、茜音の言っていたことを思い返してみる。

 確かにまずは、仲良くなる所から始めてみるのがいいかもしれない。

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