ぼくのお姉ちゃんは悪役令嬢

第21話 ぼくはとてもいい気持ち

　ポメ先（せん）ぱいが本当にケガを治したという報告を皇宮にセルゲイでん下（か）がして、ぼくも伝令でパパに伝えて、ちょっと時間がかかったけど、お姉ちゃんを治してもらうために病院へ行くことになった。

　ポメ先（せん）ぱいと別の馬車になって、ぼくは先に病院に着いた。

　パパが玄関のところで待っていて、ぼくが馬車からおりたら、だき上（あ）げてぎゅっとしてきた。

「パパ！　そんな子どもじゃないよ、やめて！」

　ぼくがそう言ってばたばたすると、パパは泣きそうになりながら、それでも離してくれない。

「おまえにまでなにかあったらどうしようと、気が気じゃなかった……よかった、よかった」

「だいじょうぶだよ、ポメ先（せん）ぱいはちゃんとケガを治せる聖女だった」

　パパはまだうたがっているみたいで、「それは、わからない」と言う。

　大きな馬車がまた二台来て、セルゲイでん下（か）とポメ先（せん）ぱいがそれぞれおりてきた。

「ジェグロヴァ公爵、ご紹介します、ポフメルキナ嬢です」

　すぐにセルゲイでん下（か）がそう言って、パパはちょっとだけおこったような顔でそれを受けた。

　ポメ先（せん）ぱいは「はじめまして」と言って、ちょっと頭を下げた。

　病室前でママがおろおろしていた。

　ぼくたちを見たらママはちょっと泣いて、ポメ先（せん）ぱいに「娘を、お願いいたします」と、しゅく女（じょ）の礼をした。

　ポメ先（せん）ぱいはうなずいて、「はい、すぐに」と言う。

　お姉ちゃんは、特別に広い病室なので、みんなで入ってもだいじょうぶだった。

「お姉ちゃん」

　ぼくが声をかけると、目を開けてちょっと笑ってくれる。

「……レオ？」

　ぼくはその顔を見てちょっとだけ悲しくなって、でもいっしょに笑った。

「あのね、お姉ちゃん、ポメ先（せん）ぱいがね、治してくれるって」

　そう伝えて、ポメ先（せん）ぱいに場所をゆずった。

　お姉ちゃんの前に立って、ポメ先（せん）ぱいはちょっとつらそうな顔をする。

「……すぐ来れなくてごめんなさい、覚醒、遅くなってごめんなさい」

　そう言って、ポメ先（せん）ぱいはお姉ちゃんのキズがある、左のおなかのうしろあたりに手を当てた。

　お姉ちゃんがふしぎそうな顔をする。

　さっき従者さんのキズを治したときみたいに、ぼやっと光る。

　と思ったら、すごく光が大きくなっていって、ポメ先（せん）ぱいもちょっとあせってて、ぱんっと音がしてはじけた。

　いっしゅんまぶしくて目をとじたけど、すぐ開いたら、お姉ちゃんが起き上がっていた。

「お姉ちゃん！」

「イネッサ！」

「ああ、イネッサ！」

　ぼくとパパとママが、ベッドにつかまった。

　セルゲイでん下（か）はいっしゅん手をのばしかけて、戻した。

　ママは泣いてるし、パパも泣きそうになりながら、ポメ先（せん）ぱいに向き直って「ありがとう、本当にありがとう」と頭を下げた。

　そしたら、今度は病院のどこかちがうところから、「うおおおおおおおおお‼」っていう男の人のさけび声が聞こえて、そのあとにいろんなところから、悲鳴とかいろんな声が聞こえた。

　ポメ先（せん）ぱいが「……やっちゃった？」と言った。

　ろう下（か）でバタバタといろんな人が走ったり笑ったり、おどろいたりしている声がする。

　ノックがあって、ママが応えたら、お姉ちゃんの主治医が入ってきた。

「ジェグロヴァ様、じつは今、病院内で突然患者様たちが快癒する事件が起きまして……ああ、やはり、こちらもですか……」

　みんないっしゅんポメ先（せん）ぱいを見たけど、ポメ先（せん）ぱいは知らない顔をしていたので、なんとなくみんなも知らない顔をして、パパが「それは、喜ばしいことですな」と先生に言った。

　ぼくも口内炎が治った。

　ここでポメ先（せん）ぱいが聖女だってバレちゃうと、いろいろ大変だからっていうことで、だまっておくことになった。

　そして、皇宮からの命令で、しばらくポメ先（せん）ぱいのことを、ぼくのうちで預かることになった。

　ポメ先（せん）ぱいの家はけいび上よくないのと、聖女として公表するのに、いろいろ準備が必要だからって。

　お姉ちゃんは自分の足で立って、家に帰ることができた。

　家の者が総出でむかえてお祝いして、パーティーみたいになった。

　ぼくはとてもうれしくて、それなのにちょっとだけ泣きそうになって、でもみんなといっしょに笑った。

　今日はとてもいろんなことがあって、つかれたけど、ぼくはとてもいい気持ち。

　とてもいい気持ち。