第10話 ぼくはお姉ちゃんのどれいだからね
お姉ちゃんが変だ。
「わたくしの奴隷、命令です」
きりっとした顔で、お姉ちゃんは言う。
「いますぐわたくしと一緒に書庫へ行って、お花に関する本を探しましょう」
馬車に乗ってる間、お花に顔をつっこんでくんくんしてた。
そんなことしなくてもけっこう、香りが強い花束なのに。
お姉ちゃんが変だ。
花束のせいだ。
あの花束はキケンだ!
「さあ、わたくしの奴隷! 参りますわよ!」
家の者たちがみんなにこにこしている。
お姉ちゃんが人前でぼくを『どれい』よびするときは、はずかしいときだってみんな知っているんだ。
いつもは本当にぼくとふたりだけのときにしか言わない。
わかってるよ、第二皇子がくれたお花が、お姉ちゃんはすごくうれしかったんだよね。
ぼくはちょっとそれが気に食わないだけさ。
お花は、玄関入ったところの、だれでも見られるところにかざるらしい。
自分のお部屋にかざらないの? と聞いたら、見るたびに
……やっぱりキケンだ‼
お姉ちゃんの命令通り、ぼくもお花についての本をさがす。
うちの
ぼくが一生けん命さがすのと同じくらい、いやもっと熱心に、お姉ちゃんもさがしている。
手始めに、ぼくでも読めそうな本を取る。
たくさん見つかったものを、ぜんぶテーブルにまで持って行った。
お姉ちゃんもたくさん積み上げていた。
お姉ちゃんはぼくが持ってきた本をひとつずつ手にとって中を
すると、とある本をめくっていたとき、お姉ちゃんはカッと目を見開いた。
「……でかしました、わたくしの奴隷! これで、謎を解明できるかもしれません。
わたくしは自室に戻り、この本を読み解きます。
あなたはお花が長持ちする方法を調べてください、いいですか、命令です!」
お姉ちゃんは、どきどき☆なんとかっていう本をだきしめて立ち上がり、キリッと言った。
ぼくは深くうなずいてその命令を実行する。
色々な本をひっくり返して調べていたら、片付けるの大変だからもうやめてくれないか、と司書が言ってきた。
なんと、ぼくにはお姉ちゃんからの特別な任務があるというのに。
ぼくの行動の正当性を伝えたら、庭師に聞いてみたらどうかと言われたのさ。
さすがだね、ジェグロヴァ
彼はきっと歴史に名を残すね、ぼくにはわかる。
庭師のところへ行った。
小さいころ、ぼくにパラレリピペドゥスオオクワガタのつかまえ方を教えてくれた恩師だよ。
だからきっとお花についても知っているにちがいない。
ひさしぶりに行ったからか、あいさつするとすごく喜んでくれて、
昔から彼はぼくにこれをくれるんだ。
しみるね、つかれた体にはこれが一番だよ。
お花を長持ちさせる方法があるか聞いた。
すると「あるには、ある」と小声で教えてくれた。
――なんと、毎日
そして庭師はとっておきのものをぼくにプレゼントしてくれた。
彼はきっともう歴史書に名前がのっているね。
こんなものを造り出せてしまうだなんて、もしかしたら神学書の方にのっているかもしれない。
お花にとっての
きれいなお水に五てき入れるといいらしい。
ぼくはその小さいびんを、うやうやしく受け取った。
――やはり、彼女もそのキケン性には気づいていたらしい。
ぼく一人に任せられないから、毎日彼女自身が手伝うとまで言ってくれたんだよ。
泣けるね、良い家の者を持てて、ジェグロヴァ
お花の様子を見に行くと、お姉ちゃんがどきどき☆なんとか本を抱きしめながらお花をの前をうろうろしていた。
ぼくが声をかけると、びくっとしてこちらを見た。
「わたくしの奴隷……あなたに折り入っての頼みがあります」
ぼくはおののいた。
なんと……『命令』ではなく「たのみ」……だと?
「この手紙を……セルゲイ様に渡して来てほしいのです。
今から行けばちょうど最後の授業が終わるところでしょう。
どうか――頼みましたよ」
まるでいのるような目で言われた。
ぼくは深くうなずいて、その重要な手紙を受け取る。
たぶんメッセージカードみたいなものが入っているんだろう、とてもうすかった。
「いって、きます」
ぼくは戦場に向かう気持ちで言った。
「いって、らっしゃい」
お姉ちゃんは馬車に乗りこむぼくを見送り、手をふりつづけてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます