第31話
「こちらでお待ちください」
教会に着くと、アルフレッド達は礼拝堂に通された。
「さあ、どうなるのかな?」
アルフレッドは肩をすくめて苦笑いした。
「よく来てくださいました、アルフレッド様」
クリフ神官長が、神官のカイルと御子のレイスを連れて現れた。
「ごぶさたしております。クリフ神官長」
アルフレッドがにこやかに挨拶をすると、クリフ神官長は苦々しいという表情でアルフレッドを見据えた。
「先日、フローラ嬢が魔女の刻印を教会に断りもなく消したという噂を聞きましたが、本当のことでしょうか?」
クリフ神官長はいきなり本題に触れてきた。
「……ええ、助けてほしいと言われたので、最善を尽くしました」
アルフレッドは真面目な顔で答えた。
「……アルフレッド様は……教会を軽くみていらっしゃるところがございますな……」
クリフ神官長はため息をつきながら言った。
アルフレッドは、少し悲しげな表情で言葉を発した。
「教会は……人を助けると言いながら、高額な寄付を要求します。神は、どんな人々にとっても平等な存在ではないのでしょうか?」
アルフレッドの問いかけに、クリフ神官長が黙った。
「神の力を得るには、対価が必要です」
神官のカイルが言った。
「魔女の刻印を教会に断ることもなく消した。これは神の力を否定することです」
クリフ神官長がそう言うと、レイスが静かにフローラのもとへ歩み寄った。
「あなたは、魔女です。フローラ嬢。レイス、さあ!」
「はい、クリフ神官長」
レイスはフローラの額のあたりに右手をかざし、呪文を唱え始めた。
「……魔女の刻印を刻むつもりですか!? フローラ、逃げて!」
アルフレッドの言葉を聞いたフローラは、目を閉じて自分を守るように自分の体を抱きしめ、小さな声で呪文を唱えた。
「!?」
レイスの呪文が唱え終わった瞬間、まばゆい光がフローラから発せられ、レイスの首元に光が収束した。
「まさか!?」
クリフ神官長の叫び声と、レイスのうめき声が礼拝堂に響く。カイルがレイスの首元を見て、かすれた声を上げた。
「……レイス様に……魔女の刻印が……刻まれています」
レイスは苦しそうに息を吐きながら、ゆっくりとその場に座り込んだ。
「大丈夫ですか!? レイス、今、魔女の刻印を……」
「自分で消せるわ! 放っておいて!」
レイスは差し出されたフローラの手を払った。
「……これがあなたの答えなのですね、アルフレッド・ダグラス伯爵」
「……フローラは、自分の身を守っただけです……」
アルフレッドは凛とした表情でクリフ神官長たちに言った。
「私たちは、教会に敵対したいわけではありません。しかし、助けを求められたなら、できることはしたいと考えております」
「助ける? 神の前でよくもそんな不遜なことを口にできますね」
クリフ神官長の額には怒りで青筋が立っているのが見えた。
「……おかえりください。あなたたちとは話しても無駄なようです」
クリフ神官長に言われて、アルフレッドは丁寧におじぎをしてから教会を出た。
帰りの馬車で、フローラはアルフレッドに聞いた。
「大丈夫でしょうか? 教会と……対立してしまったようですが……。それに、レイスの具合も心配です……」
「僕たちにできることは……今は無いよ」
アルフレッドは、口元に手を当てたまま、何かを考えているようだった。
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