第6話

「こちらです」

「はい、分かりました」

 フローラは、アルフレッドに連れられて彼の屋敷に向かった。

「見えてきました」

「はい、そうですね」

 見えてきた屋敷は、町ではお化け屋敷と呼ばれている、古びた洋館だった。


「ただいま、トレヴァー、お客様をお連れした」

 トレヴァーは赤い髪を束ねていた。黒い瞳が闇に光る。

「ご主人様、とうとう人をさらってきてしまったのですか?」

 トレヴァーはため息をついて言った。

「犯罪だけは犯さないようご注意申し上げておりましたのに」

「おいおい、失礼だぞ? トレヴァー。こちらは……」


「フローラ・リースと申します」

 フローラが名乗ると、トレヴァーも自己紹介をした。

「申し遅れました、トレヴァー・グリフィンです。ダグラス家の執事をしています」

 フローラは30代前半に見えるトレヴァーが、執事として働いていることに驚いた。

「林の奥で会ったんだ。この神子様は空腹らしい。なにか食事を出してくれ」

「はい、かしこまりました。ご主人様はいかが致しますか?」

「私も少しいただこう」

「かしこまりました」

 トレヴァーはそう言うと、屋敷の奥に去って行った。


「こちらへどうぞ」

「失礼致します」

 フローラはアルフレッドについて行くと、入り口の近くの大広間に通された。 

「こちらで待ちましょう」

「はい、大きなお屋敷なのに、トレヴァー様以外の気配がしないのですが」

「悪魔の屋敷で働く物好きなんて、中々居ないでしょう」


「……」

 フローラが返答に困っていると、アルフレッドは笑った。

「お待たせ致しました、ご主人様、フローラ様。お食事の用意が調いました」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「こちらへどうぞ」


 トレヴァーは食堂に二人を案内し席に着かせると、ポトフとパン、紅茶を並べた。

「あいにく、大した物は用意できませんでしたが」

「上出来だよ、トレヴァー」

「……こんな夜中に、申し訳ありません」

「いいえ、夜中には慣れておりますから。冷めないうちにお召し上がりください」

「そうだな。神子様、どうぞお召し上がりください。それとも毒味が必要ですか?」


「いえ、そんな」

 フローラはそう言うと、ポトフを一口食べた。

 暖かく優しい味が体に染みる。

「美味しい」

「ありがとうございます」

 トレヴァーが頭を下げると、アルフレッドが言った。


「私も食べよう」

 フローラは久しぶりの温かい食事に、涙がこぼれた。

「おや、なにかお辛いことでもありましたか?」

 アルフレッドの言葉にフローラは首を横に振った。

「……いいえ、何も」

 フローラが食事を終えると、アルフレッドはそろそろ神殿に帰るように言った。


「ありがとうございました、アルフレッド様、トレヴァー様」

「いいえ、困ったときはお互い様ですから」

「ええ」

 アルフレッドとトレヴァーの笑顔を見て、フローラの顔に久しぶりに笑みが戻った。

「またいらっしゃい。大したおもてなしはできませんが」

「はい、ありがとうございます」

 フローラはお辞儀をすると、神殿に戻っていった。





 

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