第4話

 フローラは神殿に着くと眠りについた。

 日が変わり、朝に早くにドアをノックする音で目を覚ました。

「起きて下さい、神子様」

「……おはようございます、レイス様」

 フローラはまだ眠かったが、起き出して、新しい制服に着替えた。


「ずいぶんとお早いお目覚めですね」

 レイスは嫌みを言うと、ふうとため息をついた。

「遅くなってしまい申し訳ありません」

 フローラがそう言うと、レイスは首を振った。

「あら? 靴が汚れているようですわね」

「え? そうですか? 昨日の夜に、馬車を降りたときに土がついたのでしょう」

 

 フローラは外出していたことがレイスに知られないよう、ごまかした。

「まあ、良いですわ。神子様に何かあったら怒られるのは私ですから、あまり面倒なことは起こさないで頂きたいですわ」

「……気をつけます」

 レイスはフローラと二人きりの時は、フローラよりも偉そうに振る舞ったが、フローラは何もしなかった。


「クリフ様とカイル様が祈りの部屋でお待ちですわ」

「はい」

 フローラはレイスに着いていった。

 祈りの部屋に着くと、レイスはしおらしく振る舞った。

「神子様がお見えになりました。」

「おはようございます。クリフ様、カイル様」

「おはようございます、フローラ様、レイス様」


 朝の祈りを捧げると、朝食の時間になった。

 フローラとレイスは食堂へ行き、それぞれの席に着いた。

「いただきます」

 フローラが食事を始めようとすると、レイスが横目で見て鼻で笑ってから言った。

「天の神、地の神の恵みに感謝致します」

 フローラは慌てて食事を中断し、レイスと同じ言葉を言った。


 フローラが先に食事を終え、食器を下げようと歩いているとレイスが足をかけ、フローラは転んでしまった。

「あら、神子様、大丈夫ですか?」

「……はい」

 レイスはニヤニヤと笑っていたが、フローラは無表情のまま食器を拾い集め、食堂のわきに置いて行った。


「神子様、お昼にはまた祈りの部屋へお越し下さい」

「わかりました」

 フローラはレイスにそれだけ言うと、書庫へ向かった。

 書庫には古い本が沢山並んでいた。

 神にまつわる神話の本が多かったが、時々、町の歴史や自然に関する本も紛れ込んでいる。 フローラはお昼の時間まで、簡単な神話の本と、町の歴史の本を読むことにした。


「退屈ですね……」

 フローラはレイスの事を考えた。

 レイスはフローラを置き去りにして、自分の仕事をしている。

 身の回りの世話はレイスがすると言われたが、実際には自分でしなくてはならないだろう。 フローラはふと、汚れた靴と昨日着ていた服のことを思い出した。

「そうだわ、洗濯をしなくては」

 フローラは慌てて部屋に戻った。部屋の中にはレイスが居た。


「なにをしているんですか? レイス?」

 レイスの手の中には、フローラの日記があった。

「神を信じない神子なんて、ゆるされるとお思いですか?」

 レイスは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「これはクリフ様に提出させて頂きます」


「人の荷物をあさるなんて、非常識です!」

 フローラはレイスから日記を取り返そうとしたが、レイスはするりとフローラのわきを抜け、部屋から逃げ出した。

「……油断していました」

 フローラはかけて行くレイスを見つめることしか出来なかった。

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