第六話 12神傑剣士会議

 午後の授業はいつもと変わらない。模擬戦だ。いじめられることは変わりないと思われたがテンランが見ていることもあってかリュートたちが俺に刀を向けることはなかった。


 良かった。あの勢いのまままたニアのことをバカにしてきたらテンランも止めることのできない速さで喉に短刀を刺していただろう。たとえそうなってもリュートが自分でしたことになるだろうから気にしないが。


 短刀とはいえ俺の剣技なら音速なみの速さで扱うことができる。つまりは目の前で動かされる短刀を目で追うことは不可能ということ。


 そして結局なんてことない午後の模擬戦を経て教室に戻る。久しぶりに全員集まってさよならができた。これもいじめられなかったから味わえる学園生活ってとこだな。


 青春とは程遠いドス黒い思い出ばかり刻まれるがそれは神傑剣士になったとき覚悟していたことだ。学園生活を捨てる代わりに今この地位に入れるのだから満足だ。


 ちなみにテンランは最後まで俺が学園生活を捨てることに反対していた。やはりテンランは最高の親だ。


 そして時は会議まで迫っていた。学園を出てすぐ家に戻る。学園とは違う神傑剣士の制服に着替えることが必要なのだ。学園の制服よりもかっこよくキレイで、質がいい。さすがは王国トップ。


 ささっと着替えた俺は家の屋根に出る。ここから王城内まで5kmほどあるがその距離をバレないよう行かなければならない。難しいと思うが、今まで1度たりとも見つかったことはない。いや、正体がバレてないと言うのが正しいな。


 そうして俺は足に力を込め王城を目指した。


 走る際、受ける風が日に日に強くなることでスピードが上がってることを感じ成長してることを実感する。最高だこの気持ち。


 幸せそうな人、良くない1日を過ごしたような人、王国を走り回りながらたくさんの人を見かける。そしてその度この人たちを俺が守るんだと決意するのは、会議前に心がけていることだ。


 フードから顔がはみ出さないよう細心の注意をはらいながら進み続けることおよそ1分、俺は王城についた。神傑剣士と我が王国国王、シュビラルト国王以外は俺の存在を知らないのでこっそり作られた秘密の道を通り誰の目にも入ることなく会議室にたどり着く。


 これまでの道のりが特別感あって好きなんだよな。そう思う年頃なのだ。


 会議室には俺が最後の1人だったようで11名の剣士と国王がすでに席についていた。まぁこれも慣れたことだ。いつも1番遅いのは俺。わざとでも怠惰だからではなく、これはいろいろな条件により仕方ないことなのだ。


 「遅かったな、イオナ」


 「すみません。国王陛下」


 「はっはっは、冗談だ。さぁ、席についてくれ」


 「はっ!」


 シュビラルト国王は俺たちのことを気に入っており、態度も柔らかい。しかし国民の前では威厳のある国王として切り替えはしっかりとしている。だからこそ俺たち神傑剣士も従いたいと自ら思う。


 そうして第7座の席に腰を下ろす。あー久しぶりだ居心地がいい。高級なものだから座るだけで疲労が取れていく感じする。いじめられてるので余計に。


 「では早速12神傑剣士会議フォースドを開く!」


 国王の言葉により会議がスタートする。そして同時に神傑剣士が立ち抜刀。刀を胸の前に掲げる。これは12神傑剣士会議フォースドが始まる前に必ずする、忠誠の証とこれから決められることに従うことを意味を示す。


 12神傑剣士会議フォースド以外でもすることはあり、俺ら神傑剣士が神託剣士に、神託剣士が部下、レベル5がレベル4以下といった下のレベルの剣士に対して指示が出されたときに行う。構えたならそれを遂行するのが義務になる。


 俺は気に入っている。シンプルで分かりやすい。きっとあのバカでも分かるぐらいのことだ。


 皆、1秒キープすると刀を鞘に収めて着席する。神傑剣士ともなるとやる機会がこれぐらいと少ないが個人的には何度もやりたいとは思う。


 そして全員が座るのを確認して国王は話を始めた。


 「今日も全員集まってもらって助かるよ。まず集めた理由から言うとここ最近でレベル5の拘束者が増えていてね。それも捕らえたレベル5は皆揃ってこう言うんだ『我らは滅ぼす。何があっても』と」


 「最近の子供でもそんな痛いこと言いませんよ。相当な洗脳を受けてるのでしょうか」


 国王に対して反応したのは神傑剣士第9座のハッシ・ナイト。ハッシは神傑剣士でありながら盲目という障害を持ち、それでもここまで上り詰めた天才だ。機能する感覚が鋭く、気配切りで右に出る者はいない。24歳という若さで、視力を失ったのは3歳の頃だと聞いた。異名は盲目の剣士。


 そんなハッシの発言は捕らえられたやつが洗脳されてなかったら相当心にくるようなことだった。そこかよ!ってツッコみたいがここでは真剣でいなければならない。


 「それは分からない。だがここ最近レベル5剣士の敵が増えてきたのは厄介だ。神託剣士ですら負けることもあると聞いた」


 そこまで来たらやられた神託剣士はもう神託剣士名乗れないだろ。神託剣士が同じ神託剣士か神傑剣士に負けること以外は敗北は許されないってのに。


 「そこでこの件は君たち神傑剣士に任せようと思う。国民には隠しているが死者まで出ている問題だ。なるべく早く解決しなければ死者が増えるばかりだ」


 ともなればここでやる気を出すのは……。


 「任せて国王!私がそいつらボコボコにして国民を早く安心させてあげる!」


 だよな……。今日も元気いっぱいで国王に敬語を使わない唯一の存在。神傑剣士第4座のシウム・フォースがテンションアゲアゲでこの雰囲気に合わない言葉遣いをする。年齢は23歳。異名は桜花の剣士。


 ボコボコとか最近聞きすぎてるからもう聞きたくないんだよ。やめてほしい。


 そんなことはシウムには関係なく、やりたいようにやる主義なので誰も手に負えない。

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