第五話 触れてはいけない

 それからこの日はテンランのご飯を食べ、入浴も済ませすぐに就寝となった。12神傑剣士会議フォースドとなれば長時間になる可能性があり、なおかつ真剣な話となるので今のうちからしっかりと体力を温存しておかなければ。


 翌日、相変わらずリュートは殴る蹴るしか知らないようで休み時間になれば俺の体を隅々までボコボコにしていった。こいつ絶対暇してるだろ、毎休み時間ボコボコにしやがって。


 愚痴すらもこぼすことのできないこの生活から早く離れたい。あと3ヶ月がまだ3ヶ月に感じてため息をこぼす以外やる気が起きない。


 それでも学校に行く理由は前言った通りだか、それに加えてこのフリード学園を卒業すると国外に通行書なしに行くことができるのでそれのためでもある。


 ヒュースウィット王国は栄えている。だが外の国はもっと栄えているかもしれない、逆も然りだが。それを俺は目にしたいのだ。それにどれだけ猛者の剣士がいるのか知りたい。


 なによりも、魔人と戦ってみたい。


 この世界には魔人と呼ばれる規格外の力を持つ剣士が存在する。恨み妬み嫉みなど負の感情を強く残して死んでいった剣士の、成れの果てと言われている魔人はレベル4以下が存在しないという常識外れのバケモノだ。


 そう、人間ではなくバケモノ。この世では魔人は人間の扱いをされない。なぜなら我々人間を襲うから。


 そんな魔人もたまにこの王国を襲うこともありそのたびに神傑剣士が対応をする。それほどの実力が無ければ戦うことは困難なほどに強い。


 だからこそ王国最強の剣士である俺はこの国を出て旅をしながら世界を知りたいと思うのだ。生まれて1度も国を出たことはない俺は外の国という好奇心に勝てなかった。


 そんなこんなで俺はこの3ヶ月を我慢しながら卒業まで行こうとしていたのだが……。


 「ゴミクズ、今日は特別にお前の短刀でお前に指導してやるよ」


 「だ、だめだよ。俺の短刀はニアが俺だけのために作ってくれた刀だから……その……」


 相変わらず恥ずかしさをこらえながら演技を続ける。にしても短刀で指導とかなんの意味もないだろ。このバカはやっぱり剣技だけレベル5で頭がレベル0なんだよな。


 1人でリュートを煽る。脳内再生なので自己満足だ。


 「ニア?あーゴミクズ専属の刀鍛冶か」


 ホントに申し訳ない。俺がレベル3なばかりにニアまで被害に遭うようなことを。


 「ゴミクズの専属なんだからニアもさぞ、ゴミクズなんだろうな」


 リュートがそういった瞬間、俺は怒りに満ち溢れた。殺意?いやそんな甘ったるいものではない。それ以上のオーラを発する。


 俺は自分のことをバカにされるのはどれだけでも我慢できる。だが、テンランやニア、俺が慕っている、俺を慕ってくれる人間をバカにすることは決して許さない。


 「ほら、短刀だせよ!」


 ホルダーに手をかけるリュート。俺はそんなリュートに向かって言う。


 「1度しか言わない――離せ」


 「あぁ?聞こえねぇよなんて言ってんだよ」


 リュートはよく聞こえなかったようで構わずホルダーから短刀を抜く。聞こえなかったというよりかは聞こえてたが適当に対応したのかもしれない。いや、それはないな、これだけの圧を纏って放つ言葉に本能が反応しないわけがない。


 その証拠にリュート以外の生徒は全員異変に気づいて腰を抜かすやつもいる。常人には耐えられない圧だ、無理もない。


 バカなのは頭だけではないようだ。こいつは本能までもバカになってるみたいだな。そんなリュートに俺はさらに圧を強める。まだ4割程度。レベル2ならとっくに気を失っている。


 「っ!?なんだこの圧は!」


 さすがにバカでも気づいた。俺から発せられるものとはこのクラス誰もが気づいてないが。俺の怒りは静まらない。1度しか言わないと言ってしっかり聞いた上で離れなかったと捉えた俺はこいつをボコボコにすることしか考えていない。


 「忠告は――」


 「なんだか騒がしいね。休み時間とはいえ少し静かにしてくれないかな」


 俺の言葉を遮り現れるのは理事長テンランだった。


 「テ、テンラン様!」


 テンランにはしっかり怖気づくんだな。なぜ俺には気づかないのか……はぁ……こいつは本物のバカだ。


 「リュート、君の最近の行動は目立つ」


 「は、はい!以後気をつけます!」


 丁寧に一礼する。え、こいつ一礼できたのか?とふざけたことを考えれるほどに俺は落ち着いていた。テンランが来たのは俺の圧が漏れていると察知したから。それにしてもテンランには悪いことをした。わざわざ呼び出したみたいなことをしてしまって。


 圧が強まったタイミングでテンランが来たので、クラス中ではテンラン様のご機嫌がよろしくないとか言ってテンランの圧ということになっていた。リュートがすぐにペコペコしたのもそのせいだろう。ホントにすまないテンラン。でも分かってくれ、テンランやニアを悪く言われるとどうしても許せないんだ。


 テンランが現れたことによりその場で俺のいじめは終わり、短刀も適当なとこに捨てられていた。ホントはそれだけでもリュートの足一本切ってもいいレベルのことだったが俺はバカじゃない。そんなことはやらない。


 午後の授業が始まる。ヘラヘラした俺に完全には戻れないが、まぁそこまで思い込みすぎるのも良くないので忘れることにした。

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