第三話 この世界と羞恥心

 とにかく、明日も学校に行かなければならないのは決まったこと。休んだら休んだでリュートからいじめられる原因を作るだけなのでめんどくさいことはしない。


 休むならテンランに言えばすぐなんだが、なかなか休ませてもらえないので結局は何も変わらない。


 ちなみにテンランは28歳。俺と10違うがテンランは20歳のときから俺をここまで8年も育ててくれた親みたいなものだ。俺は8歳の時、親に捨てられそれから2年間1人で生きてきた。人の良心に漬け込んで泊まらせてもらったりしながら。


 その時はまだテンランは神傑剣士では無かったので大事になることもなかった。テンランには感謝してもしきれないほど恩がある。


 「はい、どうぞ」


 「おー、今日はグラタンですか」


 匂いと視覚に捉えた瞬間でグラタンと認識した。俺の大好物でテンランの得意料理でもある。思わず机に伏してた体もグンッ!と起き上がる。


 空腹に大好物は最高の組み合わせだ。


 テンランと他愛のない話から、神傑会議についてなどいろいろと話して俺は自分の部屋に戻り1日を終えた。なんてことのない普通の日常。これが気に入っているのは全てテンランのおかげ。


 瞼は23時になると落ち始める。それに抵抗することなく俺は夢へと誘われた。


 ――「よぉ!ゴミクズくん。今日は模擬戦だぞー。弱い弱いゴミクズくんのためにこのレベル5のリュート様が直々に指導してやるよぉ!」


 翌日の午後の授業。なぜ今日は模擬戦をしているのか、それは3年の卒業が近づいてきているから。もう3ヶ月しかないので少しでも腕を磨き、優秀な生徒を送り出すため頻繁に模擬戦がおこなわれる。多少ケガすることは許されているのがいじめの悪化に繋がっているが。


 声を荒らげながら俺に模擬刀を叩きつける。もちろん注目の的で俺を見ていない人はいない。


 つま先から脳天までどこでも打ち込まれる。しっかりヒットしているので傍から見れば痛いと思うかもしれないが、そんなことは全くない。むしろマッサージ程度に気持ちよく感じている。


 この世界は剣技が全てなのだが、その才は生まれたときから決められている部分もある。それが体力。走ったりすれば体力は上がるが限界は皆等しくあり、それを超えると体は悲鳴を上げて壊れていく。


 しかし俺は生まれたときから体力の限界がない。走れば走るほど体力はつく。人間離れしているのだ。


 でも限界がないだけで、無限というわけではない。つまり1年間寝たきりならその分の体力は削られる。常にトレーニングをしなければならないのは変わりない。


 そしてその体力はこの世界で1番と言っていいほど重要な基礎能力。体力が高ければ高いほど受けるダメージも少ない。だから俺は今どこを叩かれてもリュートの攻撃を痛いと感じることはない。それほどリュートの剣技の才を俺の体力が上回っているということ。


 アザができないことや、骨が折れないことに気づかないリュートはバカ中のバカだ。普通なら気づくんだがもういじめすぎて感覚がおかしくなってきているんだろう。


 「や……やめ……て」


 いやーこれが恥ずかしい。痛くないのに泣き目で痛いふりをするとかマジ無理!ほら、みんなの視線が可哀想とかそういうのに変わってるって!やめてくれよぉ!恥ずかしいだろ!


 「よく聞こえねぇなぁ!ほら、立てよ!お勉強は頭の中に入れるもんだけじゃねぇんだぜ。こうやって!体で覚えるお勉強もあるんだよ!」


 俺の制服を掴み無理やり起こす。そしてすぐに模擬刀を右腹に打ち込む。


 「あ"ぁ"!!」


 とか言ってるけどホントは、え?弱すぎない?と思っている。


 だから!みんなそんな目で見ないでって!マジ恥ずかしいじゃん!穴があったら入りたいってまさに今の俺だわ。


 情けなく叫びながら適当に飛ばされて転がる。このまま誰か知らない人にぶつかってやろうかな、なんて考える。その人に助けてと頼めばどんな反応するんだろう。


 ゲスの考えが働き始める。


 「止め!今日の模擬戦はここまで。各自使用した模擬刀はホルダーに戻すこと」


 卒業まで残り5ヶ月になると理事長、テンランが3年の指導に当たる。テンランの呼びかけにより今日の午後の授業は終わった。


 ホルダーとは1人1個持っている刀を異空間に収める道具のことで、最大5本収めれる。


 「今日もよく耐え抜いたなぁ。はっはっはっはぁ!」


 高笑いしながらトールとシドウと帰る。


 リュートが笑うのは分かるけどトールとシドウが笑うのはなんでだよ。取り巻きとかまじで存在感ないな……。


 ホルダーに収めながら2人の心配をする。もしかしたら嫌だけど付き添ってるだけかもしれないから、その場合助けてやらんこともない。


 いや、やっぱやーめた。ダルいし、1回でも叩かれたならもうやり返される準備はしてるってことだろうしなぁ。やり返される覚悟持って打ち込んだんだろうし。


 一騎討ちは5人の学院剣士と勝負をする。その相手は3年なら誰でもよく、指名しても指名されてもフィールドに出て戦わないといけない。5回すでに終わらせた剣士は選択不可能になる。


 俺はリュートたち3人は選ぶことを決めているが、残り2人は適当に決めるつもりだ。


 「んで、何の用が?」


 「気配に気づくのが早い。君が気づいたとき私はまだ50mは離れてたぞ」

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