第二話 俺の正体と神傑会議

 ニアに背を向けて再び歩き出す。民衆の声は100m離れたここでも余裕で聞こえるほど燃え上がっている。


 「そんな盛り上がるものかな……」


 確かに神傑剣士は憧れられる存在だとは分かる。だって強いからな。でもキャーキャー言うほどの存在ではない……こともなかったな。顔が良かったな……。


 全員の顔を序列順に思い出すとみんな美男美女で鳥肌が立つ。やめてくれよ顔が良くないと力に恵まれないみたいに思ってしまうだろ。


 ちなみに神傑剣士は国王の次に高い権力を持つ。男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵、大公といった上位貴族ですらその権力を持つことはない。貴族の中から神傑剣士が現れたら話は別だが、それは考えられない。神傑剣士になるには決闘を申し込み勝つか、実績を越えるしかないから、可能性は0に等しい。


 いろいろありながらこれが俺のいつもの1日だと振り返り玄関のドアを引く。家に帰ってくるとテンランがお帰りというが今は会議のためそれはない。これが唯一のいつもと違うとこだな。


 自室に入りベットに横たわる。


 「はぁぁぁ、疲れた。明日もいじめられるのか……憂鬱だな」


 なんて思うのはやられるフリをしないといけないから。


 「なんで第7座の俺が、王国最強とも謳われる俺が学院でいじめられないといけないんだよぉ!」


 枕に顔をうずくめて叫ぶ。多分誰にも聞こえていない。


 そう、俺は俺こそが先ほどの民衆が言っていた第7座、そして有名人である序列無視の最強剣士のレベル6。神傑剣士のシーボ・イオナだ。


 なぜ、俺が序列無視――いやわざとだから序列隠しと言おう、序列隠しをしているかというと、神傑剣士11名による投票によってだ。


 詳しく言うと、俺はまだ学院生であり正体がバレると良くないことだらけらしいので名前、性別含めて全てが極秘となり、その結果何も実績を残さなかったので神傑剣士第7座として動かないのだ。つまり自分で隠したくて隠してるわけではなく、隠さないといけないので隠してるだけだ。


 とはいえ実力は全員一致で最強というように負けたことがない。まだ18歳だから他の神傑剣士と比べて戦ってもないから自慢はできないが。


 「くっそぉ、リュートのやつめ。絶対にボコボコに仕返してやるからな」


 ボコボコにできるチャンスがあるのは卒業前日に行われる、フリード学園伝統の一騎討ちだけだ。そこでは全神傑剣士が揃い、その目の前で戦うという贅沢かつ緊張度マックスの空間だ。


 俺はもう慣れているので何ら問題はない。


 その一騎討ちまで残り3ヶ月もある。その間ボコされるのはめんどうなので逃げたりして味変してみるのもありかもな、なんて考える。


 するとその時家のドアが空いた音が耳に入りテンランが帰宅したことが分かった。思ったよりは早く終わったみたいだ。


 「おかえりテンラン」


 「ああ、帰ってたのか。ただいまイオナ」


 「どうだった?会議と言う名のお茶会は」


 「相変わらずよ。何の話もまとまらない。結局は全部デヴィート伯爵に任せたわ」


 「そっか」


 この会議、声が漏れないことを良いことに民衆にバレないように真面目な顔で適当に話をしては、なんの利益も生まない時間となっている。曲者揃いの神傑剣士にはありきたりなことだ。


 テンランはまともな方でまとめ役を担うこともあるらしいが最近は諦めたらしい。話が通用しないみたいでそれを聞いて笑ってしまった。


 「そういえば近々12神傑剣士会議フォースドが行われるらしいよ」


 「え、まじで?なんで?」


 12神傑剣士会議フォースドとは神傑会議とは違い、国王が直々に神傑剣士を招集するので参加しなければならない強制参加の会議だ。


 緊急の時によく行われる。あまり良くないことで招集されるので避けて通りたいが、参加しなければ神傑剣士としての地位を剥奪され、以降1度たりとも神傑剣士になれないので行くしかない。


 神傑会議とは違い、民衆には見られることがないのでそこの心配はない。


 「最近王国内で怪しい集団が見かけられるって。それもレベル5ばかりらしくて、一般の王国剣士じゃ対応できないとかなんとか。そこらへんは会議で話されると思うから詳しくはそこで頭に入れなさいな」


 「了解」


 それにしてもなぜ神傑剣士がいるのにそんな奴らが出てくるのか俺には理解できない。勝つことは不可能に近いのになぜ王国を敵にするようなことをする?


 バカなのか、復讐か、それに似たものなら命は惜しくないとでも思っているのか?どっちにせよ王国を裏切る者、王国を脅かす者、王国を敵にする者は皆等しく罰する。


 それが俺がここにいる意味だ。


 「テンラン、一騎討ちの予定とか早めれないのかー」


 机に伏して気怠げに語りかける。テンランは晩御飯を作っている途中だ。


 「あら、そんなに退屈?」


 「相手がテンランみたいに強かったら全然退屈しないんだけどな」


 テンランは神傑剣士の序列第10座。


 「私が相手しても君を退屈にさせるのは変わりないけど。終焉の剣士さん」


 「……やめてくれ。そんな味もしなさそうな異名」


 「ふふっ」


 神傑剣士には1人ずつ異名がある。俺は敵として会えばその瞬間命が落ちたものと同じということで終焉の剣士。テンランは空虚の剣士、由来は戦闘スタイルが静かで、夜によく現れ1人で音も立てずに戦い、相手を憐れむような表情が、心の拠り所がない剣士として勘違いで記憶されたから。


 これを勘違いからくる異名だと知るのは神傑剣士だけだ。


 異名を考えるやつはそれ専門でいるのだろうか。なぜこうも異名がつけられるのか気になるな。

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