第7話「赤い死神」

 Side 野盗のリーダー ダマスカ


 夜道を爆走していた自分達の車が次々と爆発、四散していく。


 町が視界に入ったところで突然の”たった一台の赤いパワーローダーの奇襲"。


 木之元 セイが駆る第三世代パワーローダー、月光の手によるものである。


 ある程度生き残りの部下――グランダから報告で聞いていたが――速すぎる。


 本当にパワーローダーかと思ってしまう。


 ただただ赤い残像が自分達の傍を通り過ぎると仲間が死んでいく。


 まるでゴーストだ。


 自分達が放った銃弾が掠りもせず、逆に味方に当たって被害を拡大させてしまっている始末だ。


 ダマスカも待ち伏せは想定していたが――まさかここまで速いとは思っていなかった。


 気がつけば半数近く倒された。



 Side 自警団リーダー ガモフ


(何と言う少年じゃ・・・・・・)


 ガモフは長いこと機会鎧――パワーローダーとも言う――の使い手を見てきたが、ここまで強いとは思っていなかった。


 単独での奇襲。


 懐に潜り込む同士討ちを誘発させる計算された動き。

 

 芸術的と言っていい。


 もう逆に相手が不運に感じてしまう。


 それ程までに相手との実力差がありすぎた。


 気がつけば木之元 セイの赤いパワーローダーは何事もなかったかのように空から着地して戻ってきた。


『叩くなら今です』


 そう言われてガモフはハッとなって『ボサッとしている暇はないぞ!! 攻撃開始じゃ!!』と指示を飛ばした。


 他の自警団の隊員や第1201小隊の女性隊員達も魅入っていたのか慌てて攻撃する。


 大勢は決した。


☆ 


 Side 木之元 セイ


 戦いその物は決着がついた。


 ここで取れる手は撤退だ。


 あらかじめ退路に地雷を蒔いたのでそれに引っかかって倒される野盗も多かった。


 夜間でしかも戦闘中、圧倒的不利な状況ですぐに逃げなければ死ぬかも知れないと言う恐怖が地雷に引っかかりやすくしているのだ。


 この戦術はやり過ぎると相手が死兵となり、よけいな損害が出てしまうのでやりたくても出来なかった。


 戦場で死の覚悟を決めて戦う兵ほど恐い物はない。


 が――相手は野盗。


 ここで殲滅しなければまた何処かで被害を出す輩だ。


 こうした輩は戦時にも脱走兵として時偶遭遇して相手して、優先的に排除された。


 なにしろ人が沢山住んでる大都市でビームやレーザー、ミサイルや軍用車を蜂の巣にできる重機関銃をパワーローダーで使用されたら大惨事になる。


 場所を選べば3秒もしないうちに地獄絵図の誕生だ。


 相手はそれを率先してやろうと言う連中だ。同情すればいらぬ被害が出る。


 追い詰められた野盗は突撃をかましてくる――派手で厳つい車両に乗った、無駄に世紀末風にされたアメリカ製のガードナーⅡがリーダー格だろう。


 戦時中のアメリカは技術力も高いが資本力、経済力、工業力も日本とは段違いだ。

 日本と違い、次々と様々なパワーローダーを開発して実戦投入して一部は日本にも提供した。


 ガードナーシリーズもその一つで何百年経ってるかも分からない、マトモに整備されているかも不明な野盗達が使える程にタフで優秀な信頼出来る傑作機だったんだなと木之元 セイは思った。


『敵の指揮官機と思われる機体が突撃してきます』


 月光のAIが言う通りガードナーⅡはブースターを噴かして突撃。

 手には大きな鉄の棍棒に対装甲目標用のショットガンを持っていた。

 

『囮か何かでしょうか?』とAIが思案するがセイは「いや、たぶんやぶれかぶれになって突撃してきたんだと思う」と返しておいた。


 ガードナーⅡの操縦者の腕は素人もいいところだが装甲は伊達ではなく、此方の攻撃を物ともせずに前進してくる。


 自分が討ち取るしかないだろうと思った。



 Side 野盗のリーダー ダマスカ


 この神も仏もおらぬ世界で、暴力こそが全てのこの世界にいる、目の前の赤いパワーローダーは何者なのだ?


 不条理だ。


 不条理にも程がある。


 だが――ダマスカはガードナーⅡを奮い立たせて突撃させる。


 手持ちの武器は射撃武器で破壊され、的確に攻撃を当ててくる。


 装甲を強化していなければ今頃やられていただろう。


 だがそんな事実など――もう味方は残ってもいないことなど、今のダマスカには関係なかった。


 ただただ怒りに任せて敵に突撃する。


 眼前には赤い死神が背中のブーストを噴かして突っ込んで来て――


『ガハッ!?』


 気がついたら左腕のシールドで顔面を殴られていた。

 いくらガードナーⅡが並の銃弾すら耐えられる程に頑丈にできていても中の人体は違う。


 ましてや此方もブースターで全速前進していた時にシールドによるカウンターを食らったのだ。

 

 頭が粉砕されるか、千切れ飛ぶかしなかったのは奇跡だと言っていい。 


『ま、まへ――』


 待てと言おうとしたが上手く声が出ない。

 相手は此方が怯んだところでシールドを顔面にもう一度叩き付ける。

 容赦など欠片も感じない。

 ただ殺すだけの一撃。


 意識が遠退く、顔面が潰れたヘルメットに圧迫されて無事なのかどうかも分からない。


 そんなダマスカの気持ちなど知らず、最後の一撃が叩き込まれる。


 それが野盗のリーダー、ダマスカの最後だった。



 Side 第1201小隊所属 アンドウ・ミソノ 二等兵


 オカッパ頭の心優しい少女は銃弾を撃つ機会に恵まれず、ただ呆然と眼前の光景を眺めていた。


 死屍累々。


 自分達を殺そうとした敵が大勢死んだ。


 それを成したのは――あの優しそうな少年。


 自分と歳がそんなに変わらない男の子。


 木之元 セイ。


 現実味がなかった。


 この場に居合わせた他の人達も同じような気持ちに違いない。


 倒れ込む死体、炎に包まれる車両群。

 夜なので炎による明かりがとても目立つ。静かに燃え盛る炎はとても幻想的で――その周りに死んだ人がいると思うと悲しかった。


(一人で野盗を片付けちゃった・・・・・・)


 ミソノでさえも、そんなの物語の中の存在だと思っていた。


 だがあの人はそれを成した。


 恐ろしいことだと思う。


 だが同時に、短い時間ながら彼と接触していたせいか興味のような物が湧き出てしまった。


 こうして特に被害が出ないままに戦いは終わった。

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終わりの炎、はじまりの光 MrR @mrr

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