第34話 結ばれた想い

「元々五百年の間で魔力体を維持するのに、それなりの魔力を消費した。一応食べ物で気持ち程度の回復はしてたから何とかなってたが、最近魔力を消費しすぎた。その影響で、普段はあまり意識を保っていられない」

「ひょっとして、最近声をかけても反応が遅いのは……」

「そういう事だ……あと僕がどれほどこの世に居られるかわからない。それに、魔力が完全に消えたら……僕はきっと彼らの仲間になってしまう……本当に申し訳ない」


 確かに、最近のリュード様はボーっとしている事が多かった。それでもわたしと話している時は普通だったから、何か考え事でもしているだけかと思ってたのに……。


「……わたしのせいだ……わたしがリュード様に頼りっぱなしだったから……!」

「君は何も悪く無い。全て僕が望んだ事だからね」


 リュード様は優しい方だ。だから、そう言ってわたしに責任を感じさせないのはわかっていた。わかっていたからこそ、リュード様の言葉を素直に受け取る事は出来ない。


「リュード様、お願いです。わたしに罪滅ぼしをさせてください! リュード様の大切な時間を奪った罪深いわたしに……!」

「なら、一つ頼まれてくれるかな?」

「はい、わたしに出来る事ならなんでも!」

「君がここに来た時にいつもしてくれる、亡霊を天に還すのを、時々でいいからしてほしいんだ」

「わたしの魔法の事ですよね……?」

「そうだ。君の生活の範疇でいいから、彼らを救ってあげてほしい。僕の力不足を君に押し付けるような形になってしまうが……」

「わかりました。どれくらい年月がかかるかも、どれくらいの人を助けられるかわかりませんけど……わたし、やります!」


 わたしの意思を示す為に、顔を上げでリュード様の事をジッと見つめる。リュード様も、わたしの決めた事を見極めるように、視線を全くそらさない。


 これは逸らしたら負けだ。逸らしたら、意思の弱さを出す事に繋がると思う。だから……絶対逸らさない!


「その目……やる気満々だね」

「はい! わたし、あなたのバトンを受け継ぎます! お店の事があるので、すぐにとはいきませんが……それでも!」

「それで大丈夫だよ」

「ありがとうございます。それで、その……わたしの言葉の続きを聞いてください!」

「……ああ、僕なんかで良ければ」

「リュード様以外に適任な人はいません。わたし……後悔したくないから、今はっきり言います」


 今しかチャンスが無い。ここを逃したら、もう絶対に告白なんて出来なくて、リュード様がいなくなって、後々後悔して生きていく。


 そんなの嫌だ! 後悔なんてしたくない! わたしは、リュード様と一秒でも長く一緒にいたいの。だって……だって……!!


「わたし……リュード様を愛しています! 出会った時からカッコいい人だと思ってました。その後一緒にデートしたり、ここで話しているうちに……あなたの事が頭から離れなくなって……会えなかった時も寂しくて……それくらい、あなたの事が……!」

「セレーナ……ありがとう。君の気持ち、とても嬉しいよ。僕も……君の事を愛している。こんな僕だけど、付き合ってくれるかい?」

「はい!!」


 どうしよう、嬉しくて涙が止まらない。こんなに嬉しくて、胸が暖かくなったのは生まれて初めてだ。


「リュード様……!」

「セレーナ……」


 わたしは顔を上げると、そのまま目をゆっくりと閉じる。すると、暗闇の向こうから僅かな息遣いと、唇に感じる冷たくて柔らかい感覚を覚えた。


「ふふっ、生前はずっと一人身だったのに、死んでから長い時を過ごした後に……こんな素敵な女性と結ばれるだなんて、思ってもなかったよ」

「わたしだって、お城で虐げられていた頃は、恋人なんて一生縁が無いと思ってました」

「もしかしたら……セレーナに僕の声が届いたのは、ある意味運命だったのかもしれないね」

「そうですね。それじゃわたし、この幸せな気持ちを使って……彼らを助けます!」

「ああ、よろしく頼む」


 わたしは離れ際に、ちょんと唇同士を軽く接触させてから、滝つぼの前に立つ。


 さあ、これから儀式を行う。丁度今のわたしには、幸せでいっぱいになってるから、きっと今までで一番強力な、ちょっぴり幸せで素直になる魔法が使えるはず。


 だが、それを邪魔するように、わたしの周りに赤黒い泡が、ボコボコと音をたてながら出現した。


『ヤ  メ   ロ』

『コロロロロロロ』

「つらかったよね……すぐにわたしが開放してあげるから」


 わたしを呑みこもうとする泡達に一切怯まずに、わたしは魔法を使う。すると、赤黒い色だった泡が、真っ白に変わった。


『あたたかい……嬉しい……うれしいよぉ!』

『もう殺さなくて済む……ありがとう!』

「どういたしまして。ゆっくり眠ってね……」

「彼らだけじゃないよ。君達も……さあ、旅立ちの時間だ」

「はい。いきます……!」


 リュード様の愛のおかげで、かつてないほど幸せな魔力が溜まっているわたしは、魔法で作った白い光の玉を、滝の下に落とした。すると、いくつもの光の粒子が生まれ、ゆっくりと空と昇っていく。


『ありがとう……苦しかった……ようやく孫に会える……!』

『やっと先に死にやがった恋人に文句言って……ぐすん、やれるじゃねーがぁ……!! ありがとよぉ!』


 それぞれが律義にお礼を言いながら、天に向かって飛んでいく。それも一つや二つじゃなく、何十個の光が、天へと向けて旅立っていった。


 よかった、この調子でいけば、いつかこの地で苦しんでる人達をみんな助けられるかもしれない。


 けど、あの小屋からここまで往復するのが大変だ。どうしてもその間にお仕事が出来なくなっちゃうから。


 どうしたら……うーん……あ、そうだ。これならいけるかもしれない……許してもらえるかはわからないけど、リュード様とボニーさん……それにレイラ様とエレノア様に相談してみよう!


「あの、リュード様……ちょっと相談があるんですが」

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