第26話 一安心

「……ふむ……」


 ボニーさんが謎の眠りについてしまった為、マルティン様にわざわざ来てもらって診てもらってるんだけど、さっきからあまり良さそうな感じがしない。


「これ、なんか変なのくらったか?」

「えっと、白いガスみたいなのを……」

「なるほど。睡眠系の魔法を改良したものか」

「睡眠魔法……その名の通り、寝ちゃう魔法ですか?」

「ああ。基本魔法の一つだから、よく知ってる。解除もな」


 解除もわかるなら、すぐに治せそうだ! あぁよかった……わたしの問題にボニーさんを巻き込むだなんて、本当に申し訳なさしか無いもの。


「だが、こいつは改良型だ。それもかなり改良して、魔法の力を上げている」

「つまり……?」

「魔法の解除をしないと、ばあさんはこのまま死ぬまで眠り続ける。そして、その解除が相当難しい」


 ずっと……それって、二度と目覚めないって事……? うそ、やだ……ボニーさんには、まだまだ教えてもらいたい事がある。一緒に過ごして、たまには甘えて、孝行もして……平和に過ごしたいのに!


「信じたくねぇだろうが、事実だ。でもどうしたもんか……ここまで高度な魔法の解除が出来る人間が、そんなおいそれといるわけ……」

「魔法の解除……います!」

「なに?」

「わたしも呪いを解呪してもらった事がある、凄腕の魔法使いがいます!」

「それを早く言え! なら、俺の馬でいくぞ! つっても人数が……誰かから馬車を借りてくるから、お前はここで待ってろ!」


 一旦小屋を後にしたマルティン様を見送ったわたしは、すぐに通話石を使ってリュード様の元に連絡をした。


『こんにちは、今日は随分と早いね。どうかしたのかい?』

「その、何から話せばいいか……とにかく、これからそちらに行くので、ボニーさんを助けてください!」

『ボニーさんを? 随分とただ事じゃなさそうだね……僕じゃないと駄目なのかい?』

「はい。魔法で眠らされちゃって……リュード様じゃないと駄目です!」

『うん、わかった。いつもの所にいるから、いつでも来て』

「ありがとうございます! 一旦切ります!」


 よし、これでリュード様に事前に行くと伝える事が出来た。あとはリュード様の元に、ボニーさんを運ぶだけなんだけ――ど!?


「おう、待たせたな!」


 家の外の方からした大きな音に驚きながら家を出ると、そこにはマルティン様が元々持っていた馬と、大きな馬車が準備されていた。


「持つべきものは酒友だわ。快く貸してくれたぜ。さっさとボニーの婆さんを乗せっぞ!」


 マルティン様を主に、力を合わせてボニーさんを馬車に乗せると、わたしもその隣に座った。


「よし乗ったな。ここらへんは道がガタガタだから、舌を噛まないようにしろよ。んで、目的はどこだ?」

「国境沿いの森にある大きな滝に!」

「はぁ? そこは自殺の名所だろ? そんな所に会いたい奴がいんのかよ!」

「います!」

「ちっ……わかったよ。んじゃそこに向かうぜ!


 そう言うと、馬車は結構なスピードで走りだした。このスピードなら、思ったよりも早くリュード様の元に行けるだろう。


「ボニーさん、調子どうですか? どこか痛くないですか?」

「んー……むにゃむにゃ」


 なんていうか、とても幸せそうに寝てるだけにしか見えない。でもこれが魔法によるもので、二度と目覚めなかったら……当然栄養不足で死んじゃう。それだけは避けたい。


「大丈夫ですからね。きっとリュード様が助けてくれますから」


 自分で言っておいてなんだが、自分の力で助けられないのが、凄く歯がゆい。わたしの魔法は好きだけど、もっと誰かを助けられる魔法が欲しい。


「ほれ、着いたぞ。あそこで呑気に釣りしてる奴か?」

「そうです! リュード様ー!!」

「やあセレーナ……っと」


 リュード様の姿を見たら、色んな感情が爆発しちゃって……リュード様に力強く抱きついてしまった。


「わたし、わたし……!」

「話は後でゆっくり聞くよ。まずは彼女を調べよう」


 リュード様は、ゆっくりとわたしと離れてから、眠っているボニーさんの体を調べると、急に険しい顔つきになった。


「基本に忠実に、そこから複雑な派生。中々のやり手だね。想像以上だ」

「治せないんですか……?」

「そうだね、治せない。僕なんか歯が立たない……なんていうわけないだろう? 僕の魔力、舐めてはいけないよ」


 リュード様は、ボニーさんの額に手を当てると、手に光が集まっていった。それから間もなく、ボニーさん体からは大量の白いガスが溢れ出ていった。


「おぉ……今のは魔法か何かか?」

「ええ、あれが体にあったら、永久に眠らされてしまうんです。とりあえずこれで大丈夫です。すぐには起きないでしょうが、二、三日たてば起きるでしょう。もし起きないようなら、お手数ですがまたここに連れて来てください。僕は諸事情があって、ここを離れる事が出来ないので」

「ああ、わかった。感謝するぜ若造。セレーナ、ばあさんはうちで数日入院させるから、また入院セットをよろしく頼むぜ。明日までにはよろしくな」

「わかりました。わたしはここでリュード様と少し話したいので、ボニーさんをお願いします」

「おう」


 やっと落ち着いたからか、煙草をふかしながら、マルティン様はボニーさんをつれて去っていった。


 ……本当に良かった。一時はどうなる事かと思ったよ……。もし本当に、二度とボニーさんが起きなくなったらって思うと……考えただけで倒れちゃいそう。


「リュード様、ありがとうございました。このお礼は必ずさせてください」

「お礼なんて……じゃあ、お礼の代わりに、なにがあったのか教えてくれないか?」

「……元婚約者とその相手が来て、わたしに仕事の依頼をしに来たんです。その時にボニーさんが庇ってくれて……結果あの眠りの魔法を」

「元婚約者だと……!? まさかこちらの国に来るとは……!」

「多分、わたしの名前が広まったからだと思います。レイラ様とエレノア様がわたしの評判を広げてくれてるので、尚更だと思います」


 こんな事になるくらいなら、名前を変えておけばよかったかもしれない。今更言ってももう遅いんだけど。


「とことんふざけた人間だ。それで東の国の王族をしているのだから頭が痛くなる……まあいい、とにかく君が無事でよかった」

「わぷっ……!」


 リュード様は、わたしの事を強く抱きしめながら、安堵の息を漏らした。


 突然の事でビックリしたし、胸が爆発しそうなくらいドキドキしているけど、変な事があって緊張していたから、リュード様の感触や、冷たい肌が心地よくて……気がついたら、わたしはリュード様の背中に手を回していた。


「わたし、怖かった……またあの地獄が戻ってくるんじゃないかって。ボニーさんがわたしのせいで、もう起きないかもって……怖くて泣きそうでした」

「うん、よく頑張った。昔の君なら、一人で泣いていたかもしれない。本当に良く成長した。頑張ったよ……!」

「リュード様……うっ、うわぁぁぁぁん!!」


 リュード様の胸に顔をうずめながら、わたしは声を上げて泣いた。それほどに不安だったのが何とかなり、同時にリュード様の優しさが、わたしには凄く嬉しかったから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る