第4石 エメラルド
第16話 癒しのエメラルド魔法
庭を眺めていた。充分な広さがあった。手作りで野菜を作りたい。でも畑作りの知識はなかった。誰かに聞く必要があった。
「何か困りごとがあるのですか。難しい顔をしていました」
いつの間にかプレシャスが横にいた。
「料理の素材で野菜が欲しいから、畑を作りたいと思ったのよ」
「わたしも知りません。街の人間に聞くのが一番でしょう」
「買い物に行ったときにでも聞いてみる。今日の午後はハンターギルドで、お金の価値と回復魔法について聞くつもり。事前に回復魔法を作りたい」
「回復魔法を覚えれば、旅や魔物討伐が楽になります。もちろん無茶はいけません」
「最初は身近な怪我や病気を治したい。遠出は魔物に慣れてからにする」
トリプルボアーを思い出した。下位魔物だけれど私は脅威に感じた。余裕で倒せる実力がないと旅は無理そう。
「時間はあります。ゆっくりで平気です。わたしは宝石魔法が気になります。どの宝石を使うのですか」
「ルビーとサファイアで作ったから次はエメラルドね。四大宝石で揃えたい。緑色で癒し効果がありそう」
「もう一つの宝石は何ですか」
「ダイヤモンドよ。最強の硬度で光の屈折率も高い。それに見合った魔法にしたい。でも今日はエメラルドを見せるね」
宝石魔図鑑を出現させた。該当の頁をプレシャスに見せた。
「吸い込まれそうな濃い緑色です」
「美しい緑色はエメラルドグリーンとも呼ばれている。カットにも特徴があってエメラルドカットが存在する。原石は六角柱で表面に緑色が集まっている。緑色を効率よく残すために生まれたカットね。鉱物の種類はアクアマリンと同じベリルよ」
「今までの宝石と形状が異なっています。この形がエメラルドカットですか」
宝石魔図鑑に立体映像のエメラルドが浮かんでいた。
「その通りよ。例えばダイヤモンドに同じカットで加工しても、エメラルドカットと呼ばれる。面白いでしょ」
「他にも特徴があるのでしょうか」
プレシャスが近寄ってきた。興味があるのね。
「エメラルドを語る上で外せないのは傷と内包物よ。内包物はインクルージョンとも呼ばれている。産地によって色味と内包物に特徴がある。立体映像のルースは高品質で中身が透き通っている。でも多くのルースはここまで綺麗ではないのよ」
「綺麗な原石を探してカットしているのですか」
「滅多に綺麗な原石はないから普通はオイル処理よ。透明な液体を染み込ませる。中身の傷や内包物が見えにくくなって綺麗に見える」
「アイ様がいた世界では、宝石に工夫を凝らしているのですね。まだ宝石に興味はありますが、魔法にも関心があります」
宝石魔法は自由度が大きいけれど、イロハ様の世界にある魔法を参考にしたい。神聖魔法の常識も覚えていきたい。
「神聖魔法はどの程度まで回復できるの? 宝石魔法で作った回復の威力が、異常に高いと驚かれる。神聖魔法程度の回復量にしたい」
「一人前と言われる神官では、怪我や病気と状態異常が治せます。各神殿に一人いるかどうかの大神官では、大きな怪我や病気まで治せます」
「魔物退治で大怪我しなければ、神官がいれば平気そう。リリスールさんは神聖魔法を使える。ハンターの仕事で使うのなら神官相当かもしれない。聖女様は特別なのよね」
「重傷や重病を治せます。魔物を弱体化できます。国にとってはある意味、国王よりも重要視されます」
聖女様が王都に住んでいる意味が分かった。王都を魔物から守れる。王族が重傷になっても治せる。国にとって欠かせない存在の意味がわかった。
「聖女様には凄い魔法があるのね。死者でも生き返るの?」
「自然の摂理に反するのでできません。大聖女でも同じです。ただ大聖女はイロハ様に会った影響で特別な魔法が使えます。重体や難病を治せます」
「神聖魔法の効果が把握できた。神官くらいの回復を考えてみる」
旅や魔物退治用に汎用性が高い回復魔法が必要だった。もう一つは疲労回復の魔法が面白そう。寝る前に唱えれば、目覚めのよい朝が迎えられる。
「二つの魔法を作るつもり。一つ目は鮮やかな緑色で知られる地域のルースを使う。二つ目はトラピッチェが見た目で楽しそう。トラピッチェは黒い六本の筋が放射状に広がっているのよ。六角柱の成長と一緒に六本の筋も成長する。魅惑的な現象よ」
写真をプレシャスに見せた。ルースで表示されるので六角柱ではなかった。その状態でもトラピッチェは存在感があった。
「不思議な現象です。宝石魔図鑑の宝石には興味がつきません」
「知らない宝石も多いから、私も楽しみにしている。宝石の種類が決まったから魔法の効果を書くね。一つ目は日常の病気や、魔物退治での怪我や状態異常が治せる。二つ目は精神と肉体が完治する魔法にする。疲労回復ができれば疲れもなくなる」
呪文も考えた。宝石魔図鑑への記入も終わった。
「今回の魔法も見た目が凝っているのでしょうか」
「光の粒子や閃光で回復している感じを出した。試したほうが早そう。最初は一つ目の魔法を唱えるね。
自分の胸に手を向けて唱えた。ルースから緑色の光が粒子となって溢れ出た。私の胸を覆った。数秒で緑色の粒子は消えた。
「幻想的な雰囲気です。効果や威力はどうでしたか」
「傷などないから体に変化はないと思う。次は二つ目の魔法ね。
別のルースが出現した。緑色の六条光が花火のように飛び散った。最初の魔法に比べて強い光だった。私の体に降り注いだ。光の壁に包まれた。手を伸ばしても光の壁に阻まれる。一分間程度で光の壁がなくなった。
「アイ様、大丈夫ですか。光の壁が出現して、中に入れませんでした」
「予想外の演出だった。でも清々しい気分になって、体も軽くなった。疲れも取れたみたい。ただ見た目で誤解を招きそう。普段は真緑エメラルドがあれば充分ね。あとは実際に怪我などを治して確認したい」
「わざと怪我するのはお止めください」
「痛いのは私も嫌い。ハンターギルドに行ってみる。魔物退治で怪我した人がいるかもしれない。ピミテテさんにお金の価値も聞いてみたい」
プレシャスと一緒にリガーネッタの街へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます