第3話

 朝。

 ピチュピチュと窓の外では小鳥が鳴き、朝露の滴る木の葉をつついている。

 昼間の太陽でアスファルトの溶ける匂いも、騒がしいトラックの匂いも薄い、この時間帯早朝


「…」


 ボー


 っと、俺は布団から上半身だけ起き上がらせて、ただただ無心に前にある台所を見つめていた。

 意味は無い。

 今日は土曜日。

 当然仕事も休みで、急ぐ必要も無い。


 なのに…なんで、俺の体はいつもより1時間も早く起きたんだろうな。


 枕元にある目覚まし時計を見ると、時計の針は数字の6の所を指していた。

 いつもの土曜日よりも2時間も早く起きてしまった。

 社会人になってからこの方、土日は目覚ましを切ってたっぷり寝るのが日課で、その習慣を体も覚えているはず…なのだが。


「…」


 はぁ…


 心の中でため息を着いて、俺はポリポリと頭をかいた。

 そして再度再開した俺の思考には、ある1つの事が浮かんでいた。

 それはもちろん、この嬉しくもない早起きの原因とも言っていいもの────それは一重に、あの少女の事であった。


「はぁ〜…」


 柄にもなく普通にため息をして、俺は歯磨きをする為洗面所に向かった。


 ────その後歯を磨き、飯を食べた俺は、人生で…初めてか?となる散歩に出ていた。

 ポケットに両手を突っ込んで、鼻栓も忘れずに。

 俺はとぼとぼと例の場所に向かった。


 流石にいないだろうがな。


 無駄足だと分かっていてもこうして少女の方に向かっているあたり、俺ってば少し優しいらしい。

 自分で言うのもなんだけど。

 …。

 なに自問自答してんだか。

 自分で言っておいて自分で恥ずかしくなって、全く本当に手に負えない体である。

 と、そんな事を思っていると、例の少女の居た壁の角────すぐ側まで来ていた。

 俺は「まぁ、流石に居ないだろ」と呟いながら…道の角を曲がった。

 …そこには。


「嘘だろぉぉ…」


 あの少女が居た。

 初めて見かけた時と服も姿勢も場所も変わっておらず、およそその時からずっとこの場所にいるのだろうと思われた。

 まじかよ…。

 え、まて…生きてるよな?

 ふと、そんな考えが浮かんだ。

 そりゃカバンを背負った小学生女の子が、一日中ずっと同じ場所で、ボロボロの格好でいたら誰しもがそう思うであろう。


 流石に今度は素通りは出来ず────


「おい、本当に大丈夫か?名前言えるか?」


 今どきの鼻栓の性能に感謝しながら、俺は躊躇なく声をかけた。



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子供嫌いの俺がパパになる 四方川 かなめ @2260bass

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