第7話 小学校の頃のこと

 最近は以前より家のポストを覗くことが増えた。

 実際、文通していることは家族も知っているのだから今更気を使うこともないのだが、それを見られるのは少し恥ずかしい。

 父が器用に作ってくれたポストは、森の木に備え付けらた鳥の巣箱のような形をしている。一応、鍵も掛けられるのだが、いままで掛けたことはない。その箱の中から真新しい封筒を取り出す。近頃は私の影響を受けたのか、アダムもそれとなく封筒や便箋に気を使い始め、その種類も増えてきた。


「ディア、イブ。

 いきなりですが、いじめの話をします。参考になるか分かりませんが、小学校の四年生の時のことです。

 学級会でいじめの話が持ち上がりました。主に言葉のいじめのことです。

 その頃、あだ名のことで嫌な思いをしている女子がいました。彼女は一年生の時も僕と同級でした。


 一年生のある日、彼女は教室でお漏らしをしてしまったのです。たまたまその子の苗字が(守)だったので、その頃から四年生まで、ずっと、(おもり)って一部の男子から呼ばれてきました。お漏らしをしたことを含ませてのあだ名です。

 恥ずかしいことですが、僕もその一部の男子です。

 当時、何かにつけて『やーい、おもり、おもり』と彼女のことをからかいはやし立てていました。勿論、先生の前ではそのあだ名で呼ばなかったのですが、やはり、気づかれてしまいました。


 先生はクラス全員のあだ名をみんなから聞き出し、黒板にそれを書き連ねていきました。全員にあだ名が付いているわけではなく、あらかたが出揃いました。ずるいもので、『おもり』と云う言葉は誰も口にしません。

 そこで、先生は、

「まだ、あるでしょう。守さんのことを何て呼んでいますか」

と、全員にきつい視線を向けながら問い詰めてきます。一人の男子(僕のことです)が当てられて、ぼそぼそとその名を呟きました。


 それから、みんなで黒板に並べられたあだ名の良し悪しを話し合い、良いものには丸をつけ、悪いものにはバツ印をつけていき、それが終わると、

 先生は、

『あだ名を付けて呼ぶことは、親しみがあって悪いことではないと思います。でも、呼ばれる人を嫌がらせたり、辛い思いをさせたりするあだ名は良くないでしょう。これからは、この丸印を付けたものだけを使いましょう。いいですか」


 今、改めて思えば、彼女を長い間、苦しめていたんだよね。

 僕が思うに、クラス内での問題は全員で解決策を考え、導き出すべきことではないでしょうか。いじめをする人も、いじめを受ける人も、そしてそれを見たり聞いたりした人全員がその当事者なのだから。

 長くなりました。詳しいことはわかりませんが、あまり、無理をしないで下さい。

                                アダムより」

 

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