ツール・ド・北海道での事故について

 今年の1月に書いたエッセイを最後に、しばらくここには入れていなかった。

 ここしばらくは姉妹編の『風羽の記録🦵頑張れ!膝くん』の方に色々と書いていたのだけど、今回は自分の膝とは関係ない事でどうしても書いておきたい事があったのでここに記す事にした。


 どう書いたら良いか難しくもあり、ヘタに書けないという思いもあって中々手をつけられないでいたのだけど、時はどんどん進んでいく。

 書く事自体辛いけれど、この大切な事に向き合って今の気持ちを書いておきたい。



 先週の金曜日、9月8日にその事故は起こった。

「ツール・ド・北海道」という日本では数少ない自転車ロードステージレースの初日だった。


 買い出しに行っている時に、レース中に起こった事故の為に今日のステージは中止されたという事を知る。

 どんな事故なのかは分からないが、中止という事は只事ではない。

 いったい何が起こったのか、選手達は無事なのか、気になって仕方がなかった。

 レースには知り合いや応援している選手達もたくさん出場している。彼らが絡んでいる可能性もある。


 少しずつ少しずつ、事故の詳細が明らかになっていく。

 事故にあった20代の男性が心肺停止の状態で病院に搬送された、との情報。

 今回の大会全てが中止になったとの事。

 大学名が明かされ、事故現場の映像が流れる。


 道路に置かれたヘルメット

 折れた自転車

 付けられたゼッケン


 名前は公表されなくても、この選手の名前はイヤでも明らかになる。


 このレースで絶対的に規制されていたのは道路の片側のみ。危険箇所に関しては出来る限りの両側規制が促されているものの、基本的に選手には片側車線のみの走行が義務付けられていたようだ。

 見通しの悪い山間部の下りでセンターラインを越えて走った選手と対向車が正面衝突という、何とも恐ろしくいたたまれない事故。

 大きく穴の空いた車のフロントガラスとポッキリと折れた自転車のフレームが事故の凄まじさを物語っていた。


 その選手は翌日、帰らぬ人となってしまった。



 なぜこのような事故が起きたのか、現場検証が進められ、様々な問題点が指摘されている今、その辺りの事はここでは詳しく書けないけれど、安全対策に問題があった事は確かだ。


 ロードレースという競技には様々な危険がはらんでいる事は確かで、そこに関わる人達も選手もその事は充分承知の上で真剣勝負をしている。

 安全対策も出来る限りの事がなされているはずだ。

 それでも事故は起きる。

 どうしようもない事故もたくさんある中で、今回は起きるべくして起きたというか、いつかこのような事故が起きてもおかしくないと誰もが思っているような状況の中で起こってしまったという事がやるせない。


 この事故が今後に繋がるように、などと言って今後ルールが改善されたとしても、失われたものは戻ってこない。

 遅すぎた。

 そう思わざるを得ない。


 後から知った事だけれど、対向車が危険という理由から優勝候補であったあるチームは大会参加をやめていたらしい。

 大切な選手を守る為にもチームとしてそうした決断もこれからは求められる事になるのだろうか?



「ツール・ド・北海道」は私が大学生だった時に初開催されたレースだ。

 北海道という広大な大地の公道を駆け抜けるステージレース。レースは男子のものでしかなかったので、私はサポートカーに乗せてもらって選手達を応援した。

 私もこんなレースを走りたいと心から思ったものだ。


 今回の事故を受けて。

 危ない。もう出来ない。やめましょう。日本では自転車のサーキットや限られた範囲の周回をグルグル何周もするレースだけにしましょう。


 そうなってしまうのか? それはロードレースを愛する人達の本意ではない。そうなってしまったらきっと亡くなられた選手も悲しむ事になるだろう。



 昨年の8月。

 このエッセイにも「学生合宿」の事を書いた。


 亡くなってしまったI君は食事の時いつもあの席に座っていたね。

 10日間もの長い合宿。

 トレーニングにも少しだけ混ぜてもらい、リカバリーの日は一緒に走った。マウンテンバイクにも一緒に乗った。


 口数は多くなくて、自分の事をアピールするような感じではなかったけれど、応援したいって思わせる選手だった。

 合宿後、出場するレースは気になって応援していたし、逃げに乗り続けて粘りを見せたり、少しずつ良い結果も伴ってきていた。

 大会の直前には本場のヨーロッパに武者修行に出ていた。

 いよいよこれからだっていう選手がなぜ‥‥‥


 たったこれだけの期間の少しの時間を共有しただけで、こんな悲しい思いになってしまうのだから、チーム関係者や親しい人達、ご親族の方々の想いは計り知れない。

 時間は掛かっても、どうかこの辛い状態を乗り越えて頂きたいと願わずにはいられない。


 自転車競技が大好きな私達は、こんな形で大好きな人達の命を奪われる事によって、自転車競技が大嫌いな物にはなりたくない。


 I君のご冥福を心よりお祈りしております。

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