全日本MTB観戦 ①ちょっとシビアな思い

 11月20日 全日本MTB観戦。


 本来ならば7月に行われるはずの全日本が延期されて、普通ならオフシーズンに入っているこの時期に行われた。


 さて、何を書こうかな?

 書きたい事は色々あるけれど、深く長く関わってきた競技だけに他人事のように書けない難しさがある。

 言うだけなら簡単、書くだけなら簡単な事は重々承知の上で、思った事を書いてみたい。

 たま〜にレース会場に行って、あれこれ書くのもどうなのかな? って思うけれど、そこは恐れずに‥‥‥。

 ちょっとシビアな内容になってしまうと思うし、今回は俺口調は無しで書く事にした。



 会場は静岡県の修善寺。日本サイクルスポーツセンター内。


 2014年、同じ会場で行われていた全日本MTBでその事故は起きた。

 その大会には私も出場していた。

 レース中に激しく転倒したNがドクターヘリで運ばれた。

 Nは一命を取り留めたけれど、頸髄損傷の大怪我を負い、その後車椅子生活を余儀なくされるようになった。

 その後のN、そして彼を通して知り合った同じ障害を負った人達と関わる中で、私の人生観のようなものが大きく変わった。

 私はそれまでは小説を書こうなんて思った事もなかったのに、それがきっかけとなって初めて小説を書いた。



 2020年、オリンピックが東京にやってきた。MTBの会場は東京ではなく、静岡県にある日本サイクルスポーツセンター内に決まっていた。

 実際は一年延期の2021年に開催されたが、2019年には海外選手を招き同じコースを使用したプレオリンピックが開催された。

 その時、Nは車椅子ユーザーの立場として会場視察の任務を授かっていた。


 オリンピックのコースは非公開で新たに作られ、プレオリンピックの公式練習日に初めて公開された。そのコースは訪れていた海外の選手達も度肝を剥くような難易度で、何年もワールドカップを転戦してきた日本一の男でさえ「これまで走った中で最もハード」と言葉にした。

 コースウォークと二日間か三日間の試走後にレース。

 さすがに世界の一流選手達は短期間でコースを攻略し、素晴らしいレースを魅せてくれた。

 ただ、激しく岩だらけのコースは転倒のリスクが大きく、世界チャンピオンを含む女子の何名かは試走での負傷によって本戦を欠場する程だった。

 岩場の転倒は顔面から落ちる事が多々ある。美人ぞろいの女性選手が顔に傷を負う姿は目を覆いたくなるものだった。


 それでもオリンピックコースは大好評だった。

 コースは美しい。ポイントポイントに地元や日本にちなんだ名前が付けられている。

 起伏と岩、競り合いが魅力の「天城越え」。

 沢山の大きな岩が縦に並んでいる所を選手達は滑るように下ってくる。まるで滝のように見えるそのセクションは「浄蓮の滝」。

 木や岩をすり抜けて進む「枯山水」。

 二本の大きな丸太を置いた「箸」。

 1.5メートルの落差を桜のように舞い降りる、観客を唸らせるジャンプポイント「散り桜」。

 入り口と出口に日本らしい朱色の橋が架けられ、伊豆半島をかたどった芝生とコスモスのエリア「伊豆半島」。

 など、世界に向けて日本や地元をアピール出来るコースを選手達が駆け抜けた。


 日本にこんなコースが出来るなんて誰もが驚いていた。


 ほとんどの競技が無観客で行われた東京オリンピックだったが、数少ない有観客競技となったMTB。

 私も男子レースを現場で観る事が出来た事は本当にラッキーだった。

(その時の事は、ふうこの小説「コロロンウイルスと東京2020+1」の出だし「付録のようなメインのようなノンフィクション」に掲載)

 素晴らしいレースだった。


 このコースをオリンピックレガシーとして残し、活用していく為の活動は非常に困難なものであっただろう。

 オリンピック後このコースは閉鎖されて荒れてしまっていたが、レース開催の声と共にコースは再び整備され、一部がトレーニング出来るように開放されて、10月末に再びレースが行われた。



 そして全日本。

 大会は二日間で、メインのエリート+U23は男子も女子もスタートは二日目の午後だ。

 一番懸念されていたのが二日目の天気。一週間前からの週間予報で日曜日に雨マークが付いて、それはずっと変わる事がなかった。

 天気の良い日がずっと続いていたのに何故にこの日だけ?

 ドライでも危険なこのコースに雨が降ったら危険極まりない。

 オリンピックの時も女子の前日から朝方に雨が降り、コースコンディションはかなり難しいものになったのだが、このコースで雨の中のレースは誰も経験した事がなく未知数な所が大きかった。


 Nはこの二日目の観戦を予定してたようだが、車椅子での移動に雨だと行動制限が大き過ぎるので、一日目に行く事にしたらしい。

 メイン以外のレースの他に、選手にも会えてオフィシャルトレーニングを観る事が出来るのでその選択はナイスだと思った。

 彼は何を思って観ていたのかな?

 多くの選手と言葉を交わして、充実した一日を過ごせたのかな?

 彼と言葉を交わした選手達は何を思ったかな?

 Nがここに来るには大きな勇気と複雑な気持ちがあっただろうけど、彼の存在に気づいていた人はどれ位いたのだろう?


 コースはあの時とまるっきり変わっているけれど、今回走る選手達の中には、2014年のあのレースを走っていた選手もいるし、あの事故の事など全く知らない選手も多い。

 リスクを恐れていては何も出来ないけれど、そうしたリスクがある事も忘れてはならない。



 二日目。

 午前中に行われたレースは雨を免れたけれど、エリートのレースに合わせるように雨が降り出した。

 どんどんと悪くなるコース状況。

 冷たい雨に打たれながらの厳しいレース。

 乗車できない区間が増える。

 レースとなれば安全にとも言ってられないけれど、大きなリスクを犯す事なく、しっかりとした判断をし、しっかりと集中をしてレースを行う選手達。

 中にはより良い順位を諦めたり、走れなくなったわけでもないのに自らレースを降りた選手もいる。

 私はそうした判断は正しい判断だと思う。

 大きな事故なく大会が終えられたのは、参加した選手や大会関係者の行き届いた準備や正しい判断の賜物だと思う。


 そうは言っても、このコースでのトレーニングや試走、大会の中で本当に多くの選手達が大なり小なり多くの怪我を負ってしまったようだ。

 MTBレースに怪我のリスクは避けて通れないとは言っても、本当にこれで良いのか? とも思ってしまう。

 世界基準のレースコースでのレースが必要というのは確かな事だとは思うけれど、ただでさえ少ないMTB選手達がどんどん怪我をしていっては、走れる選手がいなくなってしまうじゃない? って真剣に思う。

 少しずつステップアップ出来る環境は必須だと思う。


 何を、どこを目指しているのかによって、その人の技量に合わせて、用意されたコースを追いかけるだけでなく、どの会場のレースを走るのかを選択していく事も必要だと思う。


 MTBレースに限らず、人生の中で求める物と、その為のリスクは切り離せない物だと思うけれど、そこで自分は何を選択するのかがとても重要だと、このレースからすごく感じた。


 大きな怪我のリスクを少しでも減らす為には、過激なセクションにはもっと安全なエスケープループが必要だと思うし雨天時には閉鎖すべきセクションもある思う。

 雨天時にバイクを押してもまともに下れないようなコースで、危険を冒して攻めなければ勝負にならないようなセクションは、あまりにもリスクが大き過ぎるように思う。


 それにやっぱり会場は寂し過ぎるなって思った。

 プレオリンピック、オリンピック、世界的な物でなくても、先日の野辺山CXなどのイメージがあるから、それはすごく感じた。

 悪天候、時期的な物、会場の場所など、観客を集められない理由は色々とあると思うけれど‥‥‥。


 私には応援したい選手が大勢いて、選手達が頑張っている姿や成長を見れる事がすごく嬉しい。

 しばらく会場から遠ざかっていたから知らない選手だらけだけど、頑張ってる選手達を応援したいと思う。

 だけど、一般の観客が見て、楽しいレースかっていうと、「?」って思ってしまう。

 セクションセクションに見所はあって盛り上がっていても、会場全体がレースで盛り上がっている雰囲気はまるで無い。

 必死に頑張ってゴールをくぐっても、それを迎えるのは数少ない関係者だけといった感じ。


 大きなエネルギーと時間を費やしてここにやってきて、強い気持ちを持って走った選手に自己満足の気持ちはあっても、それを賞賛する物があまりにも小さ過ぎるような気がする。


 一年前の大怪我を乗り越えて、別次元の走りを見せた男子エリートの優勝者。

 序盤の激しい転倒に屈する事なく、抜群の集中力と圧倒的な力で女子の総合一位に輝いたU23の優勝者。

 二人の走りはずば抜けて素晴らしかった。

 二人だけじゃなくて書けばキリがないけれど、もっともっと走った選手達を賞賛しようよ! って思ってしまう。


 悲しいな、寂しいなって思った事も色々あった一方で、嬉しい思いも色々あった。


 このコースを初めて見た時、世界のトップクラスの人達しか走れないって思っていたのに、短期間のうちに多くの選手達がテクニックを磨いてコースをかなり攻略してきていた。

 ドライコンディションであれば、普通にレースとして成り立っていくものだと感心した。


 ユースクラス(13〜16歳のクラス)の充実ぶりも嬉しかった。

 女子は一日目だったので結果と情報しか分からないけれど、ハイレベルな戦いであった事は充分に分かる。

 男子はドライコンディションの中とはいえ、難しいセクションをガンガン下り、ビュンビュン飛んでいて、参加人数も多くて今後がとても楽しみだと感じた。

 この年代から、この難コースを普通に走っていれば世界中のコースを恐れる事無く走れるだろうなって思う。


 課題は沢山あると思うけれど、このオリンピックコースがオリンピックだけで終わらずに、ここで全日本が行われた事にも大きな価値があると思う。

 運営の方々は大変なご苦労があった事と察するが。


 この難コースに挑んだ全ての選手達(怪我などしてしまって本番を走れなかった選手も含めて)、ここに関わった全ての方々に拍手を送りたい。


 ちょっとシビアに色々書いてしまったけれど、②は「偉大な母達」について楽しく書いてみようと思う。

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