レースに込められたメッセージ

 スゲーーー!!!

 書きてぇーーー!!!


 わりぃな。今回はまた男言葉で書かせてもらうぜ。



「全日本自転車ロードレース男子エリート」

 美ヶ原ヒルクライムレースの帰り道、車の助手席に座って、スマホでライブ観戦。


 白熱のレース、しっかり観たい、運転手にも観てもらわなきゃ、とラスト二周はスーパーの駐車場に入って観戦だ。

 今回のレースは広島の森林公園のサイクリングロード。

 12.3km×15周の184.5kmで行われていた。


 これはもう、ノンフィクションの小説として残したくなるようなレースだったぜ。

「書きてぇ」って思っても、ノンフィクションを書くのって敷居高そうだよな。色々と許可が必要そうだし、色々調べなきゃ書けなそうだし、実際に話を聞いたりしなきゃならなそうだし。だから書けないけど。


 ロードレースって、理不尽な事がいっぱいあってさ。一番強い選手が勝つ事が凄く難しい競技なんだ。

 選手同士の暗黙の了解は色々あっても、ルール違反ではない駆け引きがあったり。チーム戦である事もレースを難しい物にしてるんだ。

 今回のレースも一つのチームの人数はマチマチで、十人出ているチームも有れば、一人で参戦している選手もいる。


 今回、一人で参戦している選手の中に、世界最高峰のワールドチームに所属している新城幸也選手がいたんだ。

 このエッセイの第四章「ジロ開幕!」でも書いた選手。この選手は実名だぜ。有名人だから「ユキヤ」って書くけど。


 勿論優勝候補ナンバーワンの選手だ。だけど頼れるチームの選手は誰もいない。一人参戦でもそんなにマークされない選手なら、レースを作らなくて良いし、どこかのチームを利用して上手く立ち回れるから不利とは限らない。

 だけど、ユキヤの場合は一人なのに全部のチームからマークされるわけで。最悪一人対百十五人にもなり得る。


 ヨーロッパを主戦場としているユキヤはスケジュールの都合上、全日本選手権に出場できる機会は少ない。

 そんな不利な条件でも、今回はその機会を得て強行スケジュールで帰国した。

「日本チャンピオンジャージでヨーロッパのレースを走りたい!」

 それだけの為に。いくら不利な条件でも、勝つ為だけにやってきた。


 ーーーあ、俺、直接インタビューとかしてないから。発信されてる信頼出来る情報を見て、自分が見た物と合わせて書かせてもらってる。ーーー


 そのユキヤが完璧にレースを支配して優勝したんだ。

「残り50kmはガチンコで思いっきり日本選手とやり合えて楽しかった」って言葉が聞けた。


 最後の局面は、強力な一人の選手の逃げから始まっていた。その逃げを吸収する為にプロトンのスピードは上がり、人数を減らしていく。

 逃げが吸収されて、絞られたプロトンの中でも人数を残して圧倒的有利な展開を作り出した一つのチームがあった。

 そして最後は、そのチーム対ユキヤの勝負となった。


 ユキヤの望んでいた通りの、みんなが積極的にオフェンスに回る攻撃的な展開、力と力をぶつけあっての勝利に、理不尽な物は何も無かった。

 誰もが納得のチャンピオンが誕生し、一番強い者が勝利したレースだった。


 最後の最後までハラハラさせる勝負をした表彰台の二位三位に立った同じチームの選手は、頂点に立っている選手へのリスペクトを口にした。

 幸也さんが全日本に出場すると聞いて嬉しくて、勝負する為にチームで頑張ってトレーニングを積んできた。

 幸也さんと真剣勝負ができて刺激になった。

 幸也さんは強かった。‥‥‥と。


 最終局面でユキヤの望む展開になったのは、出場選手達のユキヤへのリスペクトから生まれた物でもあったように思う。


 そしてユキヤがいるこんなに素晴らしい全日本のレースだったからこそ、優勝候補に挙げられながらも力を出し切れずにレースを終えた選手達の言葉も胸に刺さった。


 そんな優勝候補に挙げられていた選手達だけでなく、ここに向けて全力を尽くしてきた選手達一人一人の全日本が終わった。

 決して満足のいく走りや結果が出せなかった選手も多いと思うけれど、この素晴らしい全日本のレースを作り上げた全ての選手達に拍手を送りたい。


 俺は今回、ユキヤが残してくれたものは日本のロードレース界にとって一つの凄く大きな財産だって思ってるんだ。

 彼の歩んできた軌跡をレースで示し、その走りそのものが、レースの中に込められたメッセージのように思えた。



「書きてぇ!」って思わせる走り。


 思えば、フミ(※)とユキヤが出場した2019年の全日本選手権での彼らの走りが、俺が小説を書き始める最終的な押しになったんだった。

 それまで溜め込んでいた「書きてぇ!」って思っていた事と、俺が大好きな自転車ロードレースの事を一緒に詰め込んだ。そしてそれを本にした。


 ふうこの「本気×本気」に登場する史也フミヤにはフミとユキヤのイメージや、彼らのエピソードを少しアレンジした物を入れたんだ。


 前にも書いたけど、このカクヨムの中で、ふうこが書いている小説の中で一番読んでもらってる「リスペクト」は2021年のジロでのユキヤの走りを観て、「書きてぇ!」って思って書いた。

 ここでは大地ダイチにユキヤのイメージを入れ込んだ。


 あっ、フミヤやダイチはフミでもユキヤでもない別の人間だけどな。



 そして今回。

 書けないけど、ノンフィクションの小説を書くならば、題名はこんな感じかな。


『4時間36分28秒 レースに込められたメッセージ』


 第一章は「ロストバゲージ」でスタートする。出だしはこんな感じかな?


 ☆☆☆


「バーレーンのチームのサイトからXSのジャージを購入した方で明日の午前中までに広島にお越しになれる方、どなたかいらっしゃいませんでしょうか?」


 全日本自転車ロード、個人タイムトライアル前日の新城幸也選手のツイート。

 ギャグなんかではない。

 強行スケジュールで大会直前に帰国したユキヤは、スーツケースがロストバゲージとなり、着用予定のチームウエアが手元に無いというトラブルに巻き込まれていた。


 こういう事は頻繁に起こるトラブルだ。海外と日本を往来する事には様々なリスクが伴う。

 遠征準備に始まり、時差、気候の違い、コロナ禍での規制、などなど。体力や気力を奪われる要素は沢山ある。


 増してや今回、ユキヤは直前のステージレースで想定していたスケジュールを大きく狂わされていた。

「ギリギリまで悩みましたが‥‥‥


 ☆


 小説のメインは4時間36分28秒に及んだレースそのものだ。

 有力チームや個人の作戦、スタート前とスタートしてから、レース中に揺れ動く選手達の心の言葉を場面場面で随所に散りばめていく。

 そしてレースを終えて様々な選手達が感じた思い、最後はレース終了後にユキヤが発した言葉で締めくくる。


「全日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパを走る」という事の意味は?

 それを見た若い子達に思ってほしい事とは?

 このレースを一緒に走った日本選手達への思いは?


 ☆☆☆


 このレースを観て、俺もユキヤから素晴らしいメッセージを受け取ったと思ってる。

 だけど、悔しいけど、このレースを一緒に走った選手達とは、その受け取ったメッセージの濃さが全然違うと思うんだ。彼らが羨ましい限りだぜ。


 ユキヤがこのレースを走ってくれた事。

 誰もがリスペクトしている選手が、これからの一年間、全日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパを走る事。

 嬉しくて仕方がないぜ!


 七月一日に始まるツール・ド・フランス。残念ながらユキヤはメンバーに選ばれなかったけれど、最終リザーブには入っているらしい。

 直前に体調を崩す選手がいたりしたら、まだ出場する可能性はあるのしれない。


 ツールに出場できなくても、ユキヤは八月一九日から始まる世界三大ステージレースの一つである「ブエルタ・ア・エスパーニャ」への出場をほのめかすコメントを残したらしい。


 ユキヤが全日本チャンピオンジャージを着て走るグランツールが楽しみで仕方がないぜ!



 最後に風羽のひとりごとを書かせてもらうぜ。


 何処かの出版社から声が掛かったりしねーかな?

「このノンフィクションの小説を書いてみませんか?」

 なんて。


 あっ、これ、ただのな。



 ※フミ:実名。別府史之。

 世界の五大クラシック、三大グランツール、世界選手権、オリンピックの世界十大ロードレースすべてを完走した元プロサイクリスト。

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