「鬼滅の刃」から貰う力

 誰一人として気づかなかったと思うけど、先日のヒルクライムレースの時、俺、耳にお洒落してたんだぜ。ピアスは付ける勇気はちょっと無いから、シールなんだけどさ。

 カナヲの刀のつばを形取ったシール。カナヲってのは、あの名作「鬼滅の刃」に出てくる炭治郎と同期生の女の子な。

 鍔ってのは、刀の刃と手で持つ部分の間に付いてる金具なんだけど、鬼滅隊の剣士達が鬼退治に使っている日輪刀は各人、刃の色も鍔の形も違うんだ。


 俺、マンガとかあんまり読まないんだけど、「鬼滅の刃」はハマっちまったな。友達に借りたんだけど全二十三巻読んで、そのうちの特に気に入った四冊を購入までしちまった。アニメも公開されたのは全部観たし、無限列車編の映画も観に行ったし。


 その世界観とか、刺さる言葉とか、大切にしたいものとか、自己鍛錬の仕方とか、好きなものや学びが色々あって、マンガ見ながらトレーニング燃えて出来る! みたいな。炭治郎みたいに強く優しくなりたいって真面目に思ったり。俺、小学生かよ。


 シールは鬼滅隊の柱と炭治郎の同期生の物がセットになって入ってるんだ。俺が一番好きなのは炭治郎で、炭治郎の刀の鍔と、煉獄さんが死んじゃってから炭治郎が使ってた炎の鍔は決戦用にとってある。

 今回は、何となくカナヲでいこうって。カナヲの生い立ちとか成長とかにも惹かれるものがあるぜ。


「鬼滅の刃」の中に好きな場面とか好きな言葉が色々あるんだけど、その中から一つだけ書いておきたいと思うんだ。漫画の単行本の中で第一巻が一番好きなんだけど、その中のワンシーン。

 炭治郎が鱗滝うろこだきさんの元に来ての修行中、行き詰まりを感じている時に錆兎さびとっていう少年が現れて二人の決闘が始まるんだ。炭治郎が真剣なのに対して錆兎は木刀。炭治郎は一瞬にして錆兎の木刀を顎にくらって気絶してしまう。

 そこに真菰まこもっていう少女が現れて、炭治郎がガバッと目を覚ますんだ。で、俺が好きなのがその時のシーンだ。


「さっきの見たか? 凄い一撃だった 無駄な動きが少しもない 本当に綺麗だった‼︎

あんなふうになりたい俺も なれるかな? あんなふうに‥‥‥」


 キラキラと目を輝かせて、すっごく興奮して、初対面の少女に向かってそう言うんだ。

 これこれ、俺が大切だと思うのはこういうキラキラした気持ち。

 それが自分を開花させてくれる源だと思うんだよね。


 で、真菰は炭治郎に色々教えてくれる。

「全集中の呼吸はね‥‥‥」

 人間のまま鬼のように強くなる方法。

「よくわからない。どうやったらできるかな」という炭治郎に対する真菰の答えは。

「死ぬほど鍛える 結局 それ以外に できること ないと思うよ」

 炭治郎は死ぬほと鍛えて強くなっていった。

 何だよ、ただの根性物語じゃんって思わないでくれよ。戦いの極意、強くなる為に大切なものが至る所に散りばめられていて、俺にとってはスポーツ教書でもあるんだ。


 俺がまだ大学生で自転車競技を始めてから一年位の時かな? レースの移動中のバスの中でブルースウィルス主演のラストボーイスカウトっていう映画を観てたんだ。そのラストシーンで「人はその気になれば強くなれる」っていう言葉が出てきて、妙にその言葉が刺さってさ。よっしゃ! その気になって頑張るぞ! って燃えたんだ。

 俺、単純だから。その気になるの得意なのかも。

 映画の内容よりも、とにかくその言葉だけはもう何十年(?)も心の中に残り続けてるんだ。


 人間って、その気になれば相当の所まで強くなれるもんだ。生きてるうちにどこまで強くなれるんだろう。強くだけじゃなくて、目指したいのはだ。

 そのキーとなるのがさっき書いただと思ってさ。歳をとってもそういう気持ちが持てるように、俺は自ら仕掛けていくように心掛けている。

 ちょっとした事だけど、このエッセイを書く事も、耳にお洒落をする事もそうさ。


 本当は炭治郎のトレードマークの、あの代々受け継がれてきた耳飾りを付けてみたいって思ったりするけど、あれは大き過ぎて重たそうだし、何かに引っ掛けたら耳千切れそうだからちょっとやめとくわ。

 カナヲの鍔のシールを付けてからもう十日以上経つけれど、まだ剥がれてないんだ。使い捨てなのに長持ちするぜ。なんかカナヲの強い心がしがみついて、俺に力を与え続けてくれているような気持ちになってくるな。

 また次に耳にお洒落をするのが楽しみだぜ。次は誰の鍔のシールにしようかな?

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