十節「刀の完全体」

レグルスたちのお陰で思ったより早い段階で久崎の言っていた桜の木の元へ迎えることとなった。

「本当に良かったのか?」

車の助手席に座る俺はレグルスにそう聞いたのだ。

「良いさ、別にな。なんだって恩人になる人だ恩の前払いとでも思ってくれ」

そういわれ納得せざるなかったのだ。


しばらく道を走り街から離れると山道に入っていた。

「そういえばあの桜の木の元へ一人で来るつもりだったのか?」

「そのつもりだった。ロウラスで教えてくれた友人がいてな。地図ももらっていたからそれを見ながら行くつもりだったよ」

「そうだったのか。でもそれだと時間が掛かったのではないのか?」

「確かに掛かるだろうな。けどそれも旅の一種だと思うし」

すると彼は「そうか」と短く返事を返したのだった。

彼のお陰で随分と早くに桜の丘のふもとまでこれたのだ。

「この先は車では進めない。歩いて行かないといけないぞ」

「わかったありがとう。あとは俺一人でいいよ」

「本当か?なら無事に帰ってきてくれ。今の私達には君が必要だからね」

そういいその場を離れて桜の木々を歩いて行ったのだ。


桜の木々を抜けた先には俺にとってはすごく懐かしい桜の咲いた大樹があった。

「この大樹・・・やっぱり俺の生まれた都のやつだ・・・」

俺は生まれ育ちもこの大樹を中心として栄えていたみやこで生活していた。隠れた都と言ってもいいだろう。観光客や貿易で誰かが来ることもひっそりと暮らしていたのを覚えている。

「でも、ここにいた仲のいい人たちのことを覚えてないんだよな・・・」

幼少期の記憶がほとんど無いのだ。両親の事もおぼろげになっているし・・・

「さて少し探し物をしますか・・・」

自分の刀の原型に当たるものを探すことにした。今使っている刀も使えないこともないのだが全力を出すにはさやつばが足りないのだった。鞘に関しては風の神殿の時に気が付いたら手元にあったことを覚えている。

「結局、この鞘を使うような戦闘方法じゃないしな・・・」

どちらかというと剣を持っている立ち回りといったほうが正しい。だから久崎の話を聞いて頷いたもの、本当に必要なのか?と思っている自分もいた。けれど、今より強くなって記憶を取り戻すのであれば必要だろうなとも思っている。

「あれこれ考えるより行動するほうが性に合ってるか・・・」

俺はこの大樹に触れ目を閉じた。すると、見覚えのある景色が広がった。

「あれは・・・俺の家・・・?」

この辺にあった家々の中ではそれなりにいい家に住んでいたので自分の家と認識するまでにそこまで時間は掛からなかった。

「久々ね、十六夜鏡夜君」

声がした方へ振り向くと見覚えのある白髪の女性がいた。

「あんたは・・・もしかして白野か?」

「嬉しいね、ともに高めあった親友にこうやって覚えられているのは。私の名前は白野はくの真樹まき。白銀の剣の使い手であり。鬼神を止める切り札になるはずだった者とでも言っておこうか」

彼女は俺に手を差し出して握手を求めていた。その握手を返すと彼女の記憶とアレスとの記憶も蘇るように流れてくる。

「だから、アレスの記憶が不完全だったのか・・・」

「私とアレスと君は幼馴染でありライバルだからね。それに君はこんなところでくたばるような人じゃないことを誰よりも知っているからね」

「お前に言われると違和感あるなその言葉・・・けど、こうして殺したにも関わらづ信頼されているってのは俺も恵まれてるんだな・・・」

「あぁ、だから私がここに居るのかもしれないしね」

そう言って彼女は俺の刀に手を当てて桜をため込んだ。

「私の剣の能力は物質特価なのは覚えているよね?その特性のせいで君の刀の修復役として選ばれてしまった。まぁ、ここに居るのは意識だけだが・・・」

「そうか、それでもお前に再会できたのは俺はうれしいぜ、あのお女王様がこうして俺の隣にいるんだからな」

「まったく皮肉かい?アレスもそうだが君も懲りないな」

俺の刀は先程取り戻した記憶の中にあった刀に近づいていき鍔も鞘も知っているものになったのだ。

「これで元通りだ。さ、戻るんだ。私ももう限界だからな」

彼女の体は少しづつ薄くなっていきこちらに笑みを浮かべていた。

「なぁ、また会えるか?」

「もちろん、君が望むならアレスと三人でまた、剣術訓練でもしよう。私もしたいからな」

その言葉を最後に彼女は消えてしまった。意識が引き戻されて先程いた大樹の近くで目を覚ます。刀を確認すると鞘も鍔もあるため成功したのだろう。

「あいつらしいな・・・なら俺もちゃんとしないとな」

俺は立ち上がり自分の家に墓参りをしてその場を後にしたのだった。


to be continued...

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鬼神 神々にとっての人類史 坂月霞 @1341kyouya

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