三節 「風の神殿 I」

翌日、風の神殿を探すためコンパスと地図を見ていた。

「今、どの辺にいるのかが分からないな。粒子探知を応用すれば地形ぐらいはわかるか?」

粒子探知を発動させ、周りの粒子の流れを確認する。50メートル圏内に魔物や魔獣は居ない。植物と動物は居るが、ものすごく静かだ。

「あった。これが風の神殿か」

約120メートル先にある洞窟、風の粒子が出ている所が恐らく風の神殿だ。そこを目指して歩き始めた。


「これが風の神殿?」

自然洞窟ではあるが人口洞窟でもある。入口に木々がありそれを挟むように神殿の入口があるように感じた。ここで止まっては何も始まらない。意を決して入る事にした。

「これが、風の神殿?まるで別の場所みたいだ」

扉の先はまるで異界だ。朝の筈なのに月が見えて月明かりが照らしている。神秘的、その言葉にふさわしい場所だ。

「ここが本当に人を拒んでいるとは思えない場所だな」

進め進むほど本当に不思議だ。森と洞窟を合わせたような場所でもあり所々、人工壁がある。更に奥に、広い部屋があるみたいだった。その奥の部屋には一本の大鎌おおがまがあった。

「この大鎌、風神の鎌か?」

触れようとすると

「待ちなさい」

声がして振り向き、刀を出して構えるとフードをした女性がいた。

「貴方、何しに来たの?」

おかしい。絶対におかしい。俺は周囲を確認してから入ったからここに俺以外の人がいること自体がおかしいのだ。

「答えないって事は鬼神かしら?」

「なぜ、鬼神の名を知っている」

その女はフードをしていても分かるぐらい不気味な笑みを浮かべていた。

「それはそうよ。暗黒刀あんこくとう 月夜つきよ の使用者と言えばわかるかしら?」

そう言われ背中が凍る気がした。あの刀の所有者は俺の中で憎い相手だと覚えているからだ。だが女ではなかったはず。そのはずだ。

「十六夜鏡夜だったかしら。名前はあってるかしら?」

「あってるが、あんたは?」

持っていた刀を強く握る。

「私?私の名前はカスミ。今の所は暗黒刀 月夜の使用者ではあるけどの方が優れているわ」

「あの方?」

そう言うと女はフードを取り、狂ったような笑みでこちらを見てくる。長い紫髪が揺れ恐ろしく感じる。

「えぇ!80年前に貴方が殺した人よ!私が生き返らせたの!素敵でしょう?それに、あの方と貴方の縁は切れてない。貴方が目覚めればあのお方もお目覚めになるの!」

「笑えないな。あの方って一体誰だよ?」

それを聞くと女は刀を抜きこちらに向いた。

「それを教えてしまえば、品が無いわ。それにあなたの腕を切り落とすように言われているもの。けどね?さっさと死んでくれない?欲しいのはあなたの力だけなの。だからさっさと死んで欲しいのよ」

「なら、今ここで殺せばいいだろ?」

「なんだ。命乞いぐらいはさせてあげようと思ったのに・・・そんなに死に急ぎたいの?なら殺してあげる!」

刀を突きさすように全身をして来たため、刀で受け止め横に流し腹を蹴る。女は転がるが、それでも俺を殺す為に刀を振る。

「こいつ、狂人かよ!」

倒されても吹き飛ばされても立ち上がり殺しにくる。気が狂ったかのように、ただ殺すことしか知らないかのようにこちらへ向かってくるのだ。このまま戦闘を続けるとまずいままで、この攻防を続ければ俺が押し負ける。

「なら、あの鎌なら!」

風神の鎌。あの武具であればこの状況を打開できる気がすると判断し攻撃を大きく弾き、女がふらついている間に鎌へ全力で走り触れる。


目の前が真っ暗になり声がする。

『貴様は何を望む』

「俺は、自分がどんな存在なのか知りたい」

『その先が地獄であってもか』

「もちろん、どんな運命だろうと神である以上変えることは出来る!」

『そうか、戦いの合間だけ力を貸そう。真の力を発揮出来るかどうかはお前次第だ』


「キャ!」

女はいつの間にか吹き飛ばされていた。それに決して正常ではない粒子の流れをしている。

「貴方、あの鎌にさわったのね。全く、厄介なことをしてくれるわ!」

刀が黒く光だして地面に刺すと魔獣が肉体を作り出現したのだ。

「私は失礼するわ。今の貴女を相手する程、強くは無いの」

魔獣を囮に逃げようとする女を止めようとしたが、この魔獣がそれをさせてくれないだろうと思った。

全長は20メートル程の魔獣に成長し、個としての存在が強大になっている。周りの粒子を魔獣が吸い上げ、こちらの粒子魔法を阻害そがいしてくる。けれどそんなものは俺には関係が無かった。体の内側から本来はありえないが、粒子が湧き出て来るような感覚だ。

「なんだこれ?これが鬼神の力か?」

内側から出る素粒子は完全に異常だ。だが、これのおかげで死ぬ程戦いやすいのは事実だ。改めて刀を構える。魔獣は咆哮ほうこうをして襲いかかってくるがその動き自体が遅く感じたのだ。攻撃を避けるのに移動をすると俺の体は早く動いてるように感じる。そうして後ろ足を攻撃をすると一度に何度も攻撃をしていた。

「この力、こういう使い方をするのかだから内側から粒子があるれるのか」

俺の周りにある粒子は自動的に、俺が切った相手を粒子斬撃で追撃をする効果がある。

「なら、これを利用して高速で動けばどうなる?」

魔獣が追い付けないであろうスピードで切り、更に粒子斬撃の追撃が来る。たったの30秒で魔獣は動かなくなってしまった。床全体に、血が広がっており、その上で全身の力が抜け気を失ってしまった。


声がして目が覚めると、月明かりの通る桜で覆われた森の中にいた。

「ここは、どこだ?さっきまで神殿にいたはずだ」

『ここは、お主の深層心理世界しんそうしんりせかい。粒子結界だ』

声が聞こえ振り返ると、白く長いコートを来て、フードをしている男がいた。

「あんたは、誰だ?」

『私は、鬼神。今は君の昔の姿を借りているようなものだ』

「昔の姿?俺はそんな格好は・・・」

その時、思い出した。十六夜鏡夜と言う人物が鬼神になった話を。

「やっぱりさっきのは鬼神の力だったのか」

『さっきお主が使ったのはの一部の能力だ』

時間加速。時魔法の能力で、世界全体に干渉するため使用者への代償が大きい魔法だと記憶している。

『お主のと身体の中ののお陰で時間干渉の代償に対して、耐性を獲得している』

「そもそも、あんたはなんで俺の前に現れた?何かあるから、俺の前にあらわれたのじゃないのか?」

『さすが、我を憑依ひょういさせるだけあって鋭いな。君に、我の力を渡す。我が君の前に現れて、力を与えるのは最後になるだろう。今回は、我を憑依では無く。真の鬼神になれることを祈ってるよ』

そう言い手を差し伸べられた。その手を取ると鬼神の体は、光体となり消え去っていった。


to be continued…

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