第5話/7級冒険者

 依頼書を見ながら話をしていたら、証明タグが発行された。

 証明タグはジャックの手の平サイズで、名前と登録ギルドの名前。ーーここならブラードン城下町支部だ。ーーが彫られており、両端には穴が空けてある。

「紐を通してください。街門などでは身分証明として門番に見せるので出しやすく、落としにくい場所に装着してくださいね」

「分かりました」

「じゃあ、仮にこれでも通そうか」

 カークがカバンから紐を取り出しジャックの左手首に巻きつけると、あっという間に手首に装着できるように加工した。

「カーク……なんか手慣れてね?」

「小遣い稼ぎにつかの滑り止めを巻いているから」

「結構手広くやってるんだ」

 受付の男は口元をゆるませる。

「冒険者の間ではちょっとしたオシャレとして色紐を通してますよ」

「わあ! じゃあさ、組紐にしてみる?」

「組紐?」

「いろんな色紐を編んで、一本の紐にしたやつ」

 アニメ映画のワンシーンであったやつか! という言葉を飲みこむ。

「ありがとうございます。色々やってみます」

「色紐見に行こう!」

「待ちなさい。落ち着きなさい」

 駆け出しそうなカークを捕まえて、椅子に座らせる。


 懇々と叱っていたジャックははたから話しかけられた。

「あんた、7きゅうか?」

「え? ああ、そうだ」

 話しかけてきたのはジャックよりも少し背の高い少年だった。

「うっし! おれ、アレクサンドロスってんだ。7きゅう! パーティさがしちゅう! いっしょにくまねぇ?」

「いい、けど……。まだ武具とか注文したばっかだからさ、数日は戦闘できないぞ?」

「まちんなかでしごとするさ。さっきもみてたけど、あんた、じ がよめんだろ? じ がよめるやつがパーティにいないと ぼうけんしゃ って、つむらしいんだ。たのめねぇ?」

「ああ、街中だけならパーティ組んでみようか。俺はジャック。よろしくな」

「おう! おれはアレクサンドロス! 7きゅうのソロぼうけんしゃだ。せんし めざしてる。ぶきはまだ、ひろった きのぼう だけどな!」

「そっか、よろしくアレクサンドロス。俺も戦士志望だ」

「しぼう?」

「目指してるってことさ」


 ジャックとアレクサンドロスは仮のパーティ登録をすることにした。

 受付の男に良かったですね。と声をかけられ、二人は照れ臭そうに笑う。

「うん、まあ、ありがとう」

「ありがと。うけうけのにいちゃん」

な」

「おう。うけつけのにいちゃん」

「カーク。日暮れまでに終わりそうな依頼ってあるか?」

「んー。……これとか?」

 依頼書を見ながらジャックを待っていたカークは一つを指さす。

「ギルド内清掃。一日銀貨3枚」

「あ」

「よっしゃ! 受付のお兄さん、お願いします!」

「あああ……」

 受付のお兄さんは肩を落としてうつむく。

「はい、お願いします。掃除道具はこちらです……」

 お兄さんは二人を掃除道具置き場に案内する。意気揚々と掃除道具を受け取って掃除を開始した。

 座って待つカークは受付の奥でお小言を言われるお兄さんを見ていた。どうやら、取り下げ時間を忘れて発行していたようだ。

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