第7話ジャック・チョウ

「この近くよ」

「すぐにアポイントを取ってください」

「大丈夫なの?」

ブルックは不安な顔をしていた。


「大丈夫です。信じてください」

30分後、二人は6番街の

ジャック・チョウの事務所へ入った

そこは、高層ビルのワンフロアーを

占有する大きな会社だった

二人が社長室に通されると

ソファーに40歳近くの細身のメガネをかけた男が

タバコを口にくわえて座っていた。

ブルックを見るとうれしそうに笑ったが

亮の顔を見ると急に険しい顔になって睨みつけた


「久しぶりだな、ブルック。時間が無い、何のようだ?」

亮とブルックがソファーに座るとジャックが亮を指さした。

「ジャック、彼はリーさん」

「チャイニーズか?」

「いいえ、日本人です」

亮が言うと怪訝な顔をした。


「日本人なのにリーか、変なやつだ。それで用件は?」

「もう私に付きまとわないで欲しいの」

「何を言っている、このままじゃ売春女に

成り下がるだけだ俺のところへ戻って来い」


「私はどうしても歌手になりたいの」

「いつまで馬鹿な事言っている、

このまま俺の愛人でいて大学を卒業したら

うちの会社の取締役で雇ってやる」


「いや、もう嫌なの。私の夢はミュージシャン」

「あはは、6曲しか歌えないミュージシャンが何だ!

大人しく他人の物じゃなくて

俺の物を舐めていりゃ良いんだ」


ジャック・チョウは品無く話すと

ブルックの頭をつかんだ

「やめろ!」

亮はジャック・チョウの手をつかんだ


「いけませんね、女性を乱暴に扱っては」

「なんだお前は!ブルックやったのか?」

「やっていませんよ。どんな大きな会社の社長でも

男は品が無くてはいけません」


「うるさい!」

ジャック・チョウは亮の手を払った

「おい、日本人。このビルから出た後の命の保障はしない、

ニューヨークは恐い街だぞ」

「はい、わかっていますよ」

亮が笑うとジャック・チョウは凄い形相で

睨みつけた


「チョウさん、賭けをしませんか?」

「なんだ?」

「ブルックが10曲歌えたら

開放するって言うのはどうですか?」

「あはは、手を抜けば歌える」

「では、手を抜かないように観客をいれましょう。

もし観客からブーイングが出たら

ダメという具合で」


「もし観客がサクラだったら?」

「では観客を500人入れましょう。

あなたは場所を用意してください」

「わかった、ブルックそれで良いのか?」

「いいわ。もしダメだったら私はあなたの

奴隷になるわ。好きにして」


「いい覚悟だ、じゃあ明日の夜8時ブロードウはいに

 改装中のホールがあるそこを借りておく」

「あ、明日?」

ブルックは悲鳴を上げた。

「時間をかけて仕込みをされては困るんでね」

「わかりました、明日の8時に」

出ていく亮とブルックの二人の後姿をみて

ジャック・チョウは不適な笑みを浮かべていた。


「リー、どうしよう?」

「大丈夫、必ず10曲歌えるようにします」

「良くわからないけどありがとう」

「ブルックは唄う歌を決めてください」

「わかった」


「それと、今夜ジャネットと三人で食事をしましょう」

「OK、アパートに戻って楽譜取って来るわ」

「はい、気を付けて」

~~~~~~~~

亮はロイに電話を掛けた。

「ロイ、亮です」

「亮、久しぶりだな。心配していたぞ」

「すみません、命を狙われていました」

「知っている、FBIの友人に聞いた」

「迷惑かけませんでしたか?」

「いやいや、儲けさせてもらったよ。

友子がホローしてくれた」


「良かった」

「まあいい、いつ会える?」

「ニューヨーク来ていますので、

明日の夜8時にブロードウエイ

 に来てください。友人がライブをやります」

「なんだかわからんが、亮に会えるなら行くよ」

「はい、お待ちしています」

~~~~~~~

亮は漢方薬を買ってジャネットの部屋

前で待った。

そこのジャネットが帰って来た。

「あら、ブルックは?」


「ちょっと楽譜を取りに自分の部屋に戻っています」

「ええっ、鍵を預けたのに・・・」

亮はブルックから預かった鍵を手渡した。

「持っているなら入っていれば良かったのに・・・」


「いいえ、女性の部屋ですから・・・」

亮がジャネットの部屋に入り

漢方薬と道具を並べて作業をしていると

ジャネットが鼻をつまんだ


「何?この臭い?」

「漢方薬です」

「カンポウ?」

「はい、自然の動物や植物から作る薬。

そしてこれがその材料」


「そう、何か身体によさそうね」

「それで手伝ってもらいたいんですけど」

「何をすればいいの?」

「薬研で薬をつぶしてください」


※薬研(ヤゲン)とは昔からある薬をすりつぶす臼

今でもスパイスを潰すのに東南アジアで使われている


亮は生薬の種類を分け重さを量って

ジャネットに薬を渡すとローラーでつぶした。

「これ面白い。あはは」

「ありがとう助かります」


「ところで何を作っているの?」

「ブルックの薬です」

「何、何?」

ジャネットは手を止めて亮に聞いた。

「声が出る薬です」

「凄い。私も欲しい」

「良いですよ」


亮はジャネットにジャック・チョウとの話を説明して

客を呼ばなくてはならない話をした。

「面白い、私も友達に声をかけてみる」

ジャネットはスマフォのインスタとツイッター

ライブの記事を載せた。


「お願いします、早く作って夕食を三人でしましょう」

「はい」

「僕がご馳走します」

「リー記憶が戻ったようね、こんな仕事が出来るんだから」

ジャネットは颯爽とした亮の態度に気がついて言った。


「はい、記憶が戻りました」

「名前は?」

「アキラ・ダンだけどみんなリョウと呼んでいる」

「OK、リョウね」

「はい」

ジャネットは仕事をしながら時々亮に

身体を近づけキスをした。


「ダンの仕事は何?」

「薬剤師です」

「へえ。どうしてニューヨークに来たの?観光?」

「友達のところに仕事で」

「ところで何処のホテルに泊まるの?」

「まだ。決めていないです」


「じゃあ、私のところに今夜も・・・・」

亮は少し考えて答えた。

「ごめん、ホテル探します」

「そう、記憶が戻らなければ良かったのに・・・」

ジャネットは悲しそうに亮を見つめた


「あっ、ブルックに連絡しなきゃ」

「私がしようか?」

「ちょっと聞きたい事があるから、

ジャネットが電話してください」

亮はジャネットに気を使った。

ジャネットはブルックとしばらく話をすると

亮に代わった


「調子はどう?」

「うん。一応10曲選んだわ。今その楽譜を作っている」

「僕の方ももうすぐだから夕食を一緒にしませんか?」

「ありがとう」

「ところでジャック・チョウはいつも

何処で食事をするんですか?」


「週末はLe Cirque で食事をするはず」

「女性と?」

「そうよ」

「今からじゃリザーブは無理かな?」

「たぶん」

そうか、レストランが決まったら連絡をします

「はい」

~~~~~~

亮はジョージに電話をかけた

「亮です」

「どうした?」

「Le Cirqueで今夜食事をしたいんですが」

「あそこは席を取るのは大変だぞ」


「そうですよね」

「何人だ?」

「六人です」

ジョージはすぐに返事をした

「OK、じゃあ今夜8時に行きなさい」


「えっ?大丈夫ですか」

「私はどこでも予約を取れるんだよ。あはは」

「ありがとうございます?」

「食に関する事なら何でも言ってくれ」

「それから今夜食事をするのはシンディ達です」

「おい、早くそれを言ってくれ。後で見に行く」


亮はシンディに電話を掛けた。

「シンディ今夜の食事の場所決まりました。

Le Cirqueで8時に」

「うふふ、あそこは美味しいわ。

モニカとケイトも一緒でいいのね」


「はい」

「OK、ちょっと遅れるかも知れないけど」

「お願いします」


「誰と話をしていたの?」

ジャネットが心配そうに聞いた

「友達」

「女性でしょう」

ジャネットにシンディの大きな声が聞こえていた

「そうです。

今夜食事を一緒にする約束したので紹介します」


「美人?」

「はい、かなり」


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