第21話 夕美の想いと優奈の想い

ある日のバイト中、私はオーナーに尋ねた。


薄々気付いてはいるものの確信はないけど…




「あの、オーナーって彼女いるんですか?」

「えっ?彼女いないよ。…気になる子はいるけど…」

「気になる子?」

「うん。まあ…気になる子と言うより好きな子かな?」

「そうなんですね」

「どうして?」


「い、いいえ。聞いてみただけです。みんな謎なんで彼女の事とかって…男の子同士は話すだろうけど」


「まあ確かに、そうだね」




その日のバイト先に夕美が来てくれた。



私は夕美の様子を見ながら普段通りバイトする。




「佑史さん」と、夕美。


「何?」と、オーナー。


「あの…ここのバイトのスタッフの人と出掛けたりするのって可能なんですか?」


「うん、大丈夫だよ。お店のルールさえ、きちんと守ってもらえれば。誰か出掛けたい人いるの?」


「…それは…」


「協力するよ」


「…いいえ…えっと…あの…佑史さんと出掛けたいんです…」


「えっ?俺?」

「…はい…」


《夕美!良く言った!凄いよ!偉い!》

《…だけど…佑史さんにとって私が気になる感じだし》





でも私には無理だ


だけど…


もし 夕美が


佑史さんの想いに気付いたら


私達の関係は


崩れちゃうのかな…?


正直……


それだけは避けたい……





「………………」


「す、すみません!突然過ぎますよね?ごめんなさい!あの!忘れて下さい!優奈、私、帰るね?」



「えっ!?夕美!?ちょっと…!」



夕美は足早に、お店を後に帰って行った。




「…夕美…」


「優奈ちゃん」

「は、はい」

「夕美ちゃんの連絡先教えてもらって良いかな?」

「えっ?」



「本当なら相手側からもらって、本人同士でやり取りしないといけないんだけど、優奈ちゃんが間に入ってもらえれば大丈夫だから。俺の連絡先、教えてもらって良いから」



「分かりました」


「それに、俺も色々と今後の予定あるし宜しくね」

「はい」



私は夕美にオーナーの連絡先を教えておいた。




ある日の学校での事だった。



「優奈」

「何?」

「昨日、佑史さんと出掛けたんだけど」


「佑史さん?あー、オーナーの事だね。普段呼ばないから。それで、出掛けたんだね。連絡交換は出来ているだろうし、私が色々と聞くのもと思って」


「それとなく想い伝えたら、好きな人いるって言われちゃった…。薄々、気付いていたみたいで」


「…そうか…だけど、まだチャンスはあるんじゃないかな?」


「…それは…どうかな?」


「えっ?」


「好きな人は…私もかなわない相手だから」

「かなわない相手?」

「みんなから好かれる女の子なんだ」


「そうなんだ。でも、彼女がオーナーの事、何とも思ってないならいけそうなんじゃない?」


「…うん…どうかな…?聞かれたら聞きたいけど、聞くの怖いから」


「そうなんだ」


「ねえ、優奈は今のバイト先に好きな人いたりするの?」


「えっ?私?いないよ」

「本当に?」


「うん。借金返す事しか考えてないから。確かに今年こそはと思っていたけど、それ所じゃないかな?」


「そうか」


「うん」



その日のバイト先でオーナーと残っている時の事だった。



「優奈ちゃん」

「はい」

「優奈ちゃんに、お願いがあるんだ」

「お願いですか?」

「うん」

「今度出掛けて欲しいんだ俺と」


「えっ?オーナー、私よりも好きな人誘った方が…夕美も話していたけど…なんかみんなから好かれている女の子みたいで」


「そうだね…。いつもみんなに笑顔を振りまいてくれて、まるで太陽みたいな女の子で人気者だよ」


「そうなんですね」

「…ねえ優奈ちゃん、誰だと思ってる?」

「えっ?誰って…いや全く分からないですけど…」

「優奈ちゃん以外、誰がいるの?」



「…えっ…?」



「誰からも人気あるのは優奈ちゃん以外に誰もいないと思うよ?」


「…オーナー?」




《えっ…?それって…もしかして…オーナーが私の事…》


《まさかとは思ったけど…》



「夕美ちゃんの事あるかもしれないけど出かける事くらいは良いと思うよ」


「…夕美は…知っているんですか?オーナーが私の事…」


「気付いているんじゃないかな?」



「………………」



何となく分かる気がした。


夕美が私に好きな人聞いたり


私もかなわない相手だから―――と、言った事が………





「オーナー…私…お気持ちは嬉しいんですけど……行けません……」


「…優奈ちゃん?…それは…夕美ちゃんの事があるから?」


「それもあるし…私……無理なんです…」

「えっ?」


「バイト先の人と出かけるというのは私の中では…好きな人にならない限り無理だし…楽しめなくて…プライベートとバイトを一緒にしたくないっていうか…公私混同したくなくて…」



「結構、厳しいんだね」

「えっ?」


「その気持ち分からなくはないけど…恋愛くらいしても良いんじゃないかな?」


「…好きに…なれないんです…」


「…えっ?」


「気付かないだけかもしれないけど、恋愛したいって気持ちにならなくて好きな人いないからかな?だから…恋しているみんなが羨ましくて…」


「…優奈ちゃん…」


「私…恋愛向いてないんだと思います。だから…恋のキューピット役が性にあっているんだと思います」


「そっか…」

「だから…ごめんなさい…」

「分かった。今回は一旦引き下がる」

「…すみません…」






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