第13話 復 帰

ある日の夕方店に一人の男の子がオーナーの前に現れた



「あの!これで彼女を戻して頂けないでしょうか?」

「…これ…もしかして署名?」


「はい。男女問わず、ここの店を利用していた人達から全て協力してもらいました。他の人も沢山協力してくれて」



「分かった。預かっておくよ」


「預かるだけじゃ駄目です!すぐに戻して下さい!もしかすると情報収集しているかもしれないですけど戸西 優奈さんは、大人の人達に連れて行かれたんです。沢山の目撃情報もあります!」




「………………」




「それに、雪渡君狙いの彼女・室矢馬さんは、即クビにして辞めさせるべきです!でないと営業は難しいと思います。クビにした所で油断は出来ないかもしれませんが、雪渡君に近付く女の子や仲良くしている人は全て優奈さんと同じ事件に巻き込まれてます」



「………………」



「優奈さんは、みんなから人気あるし、ここのスタッフも人気だし、利用者もみんな良い人達だから、ここの店はなくてはならない場所です」



「分かった。検討するよ」


「お願いします」





次の日―――




「優奈、ちょっと」



雪渡に呼ばれ屋上に行く。



「どうしたの?」

「クビ撤回になった」

「えっ?」


「ただ、まだすぐにバイトされないけど、今、令ニさんとオーナーが色々動いている」


「そうか…」




「お前を戻して欲しいって署名を預かったらしいんだ。そして、彼女は辞めさせるべきだって言われたらしい」


「そうなんだ」


「取り敢えず、みんなお前と会って謝りたいらしいから」


「大丈夫だよ。分かってくれれば良いから」


「お前は良くても、みんなが納得いかないっつーの!ハッキリ分かったら、また連絡する」


「うん…分かった」





ある日の放課後の事だった。



「じゃあねー、優奈ちゃん」

「うん、またねー」



クラスメイトは次々に帰って行く。




「よし!終了!」




バンッと私の机を叩く人影。



ビクッ



「うわっ!びっくりした!ゆ、雪渡っ!いきなり何!?驚くじゃん!」


「付き合え!」


「えっ!?何?突然過ぎんだけど!?」




グイッと肩を抱き寄せる雪渡。


ドキッ




「どうせ、そのまま帰るんだろう?戸西 優奈さん」

「当たり前じゃん!」

「淋しい放課後」

「う、うるさいなっ!」



「ちなみに付き合わないとお前が言った所で今日は強制だからな!」


「強制っ!?やだ!何、考えてんの?」




私の両頬を摘む雪渡。




「てめーこそ、変に勘違いするのは辞めろよ。バーカ」


「ムカつく!!」


 

私達は騒ぎつつ、私は雪渡につれられるまま、肩を並べて歩く。




そして――――



「どうぞ」

「えっ?ここは?」

「良いから入れよ!」



私は渋々入る。




パーーン




パーーン



パーーン




クラッカーが鳴り響く。



「な、何?」

「おかえりーー」

「おかえりなさい」




顔馴染みのメンバーが私を迎え入れた。




「優奈ちゃん、疑ってごめんね」と、亜理宮君。


「俺も疑っていたから本当ごめん」と、緖喜田君。


「俺もオーナーでありながら、優奈ちゃんを嫌な思いさせてごめん」


「優奈、俺も悪かったな」と、雪渡。




「いいえ、私の不注意だし、自分自身も情けないと思っていたから…私こそ、すみませんでした。みんなにはご迷惑、ご心配、おかけしました」



「明日から、ここも新規オープンするから、今日は優奈ちゃんの歓迎会と俺達だけでパーティしようと思って、雪渡に連れて来るように頼んでいたんだ」


オーナーが言った。




「本当は、あんな事になる前に歓迎会の話、出ていたんだけど」と、亜理宮君。



「つまり、そういう事」と、緖喜田君。




私達は久しぶりの再会と、みんなとの時間を楽しんだ。




「そういや、雪渡と優奈ちゃんっていつから名前?」


亜理宮君が尋ねた。



「別に付き合っているとかじゃないんだろ?」


緖喜田君。



「付き合っていたら優奈ちゃんの雰囲気変わるやろ?」


砂都中君が言った。




「あのねーー、砂都中君、それ意外に失礼だよ!」


私が言った。



「えっ!?じゃあ、実は付きおうてるん?」


砂都中君。




「付き合ってないから!」


「まあ、もし付きおうてても、優奈ちゃんの人気は変わらへんのとちゃうん?優奈ちゃん、アイドルやし」



「だよな〜」と、緖喜田君。


「優奈ちゃん、この際、俺達の事、名字抜きにした方がええんちゃう?」


「あー、それ思った。俺達、優奈ちゃんなのに緖喜田君とか、亜理宮君とか砂都中君とかって呼ぶから他人行儀っぽい!」


緖喜田君。




「いやいや、呼んでも良いものかな?って考えるし」


「全然、名前呼びなよ。つーか、むしろ、そっちがいいし!」


緖喜田君。




「そう?」


「だってバイト仲間で年も変わらないんだぜ?」


緖喜田君。



「何、何?何の話?」と、雪渡。


「名前の話」と、緖喜田君。


「名前?」と、雪渡。



「俺達。みんな優奈ちゃんだけど、優奈ちゃんはみんなの事を名字で呼ぶから、下の名前でって話していた所」


緖喜田君。




「あー、そうすれば良いじゃん!つーか、その方が良いだろう?オープンにちなんで俺は変わらねーけど、優奈以外に呼び方ねーし」



「あんたから、“優奈ちゃん”って言われると調子狂うし!」


「逆に、“雪渡君”って言われるこっちも調子狂うし!」



「二人はそのままで、ええと思うで」


「確かに」と、緖喜田君。


「二人は、喧嘩友達だからね」と、亜理宮君。


「そうそう」と、緖喜田君。


「見てて面白いからね〜」と、オーナー。


「明日から、また、賑わうだろうな?」と、令ニさん




私達のパーティは、まだまだ続く。













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