一時の平穏

恋路の決断

Side 木里 翔太郎


 あれから数日。


 日本はともかく比良坂市は平和だった。


 そんな状況だからか比良坂市に行き場を無くした難民が押し寄せてきていた。


 日本政府側の自衛隊も比良坂市ばかりに構っておられず、治安維持に奔走している始末だ。


 俺達は比良坂市の自衛隊の人間や暇を余していた建築業の人間達と一緒に急遽パワーローダーを使用して難民向けの施設を作ったり炊き出しの手伝いなどをしていた。


 大変ではあるが、命のやり取りをやるよりかはいい。


 とても感謝されて、平時の災害派遣の自衛隊はこんな感じだったのかななどと思った。


 今はレギンレイヴ艦内のラウンジで休憩している。


「お疲れ様――」 


「お疲れ手毬」


 一人休憩をしていると手毬がやってきた。

 

「パワーローダーって凄いわね」


「ああ。俺達でも力仕事が楽に出来るなんてな」


「まあね――細かい部分はやはり専門家任せになるけど」


「だな」


 戦闘以外でのパワーローダーの使用は慣れない部分が多いがそれでも命のやり取りするよりかはいいしやり甲斐も感じられた。


 こう言う使い方が一番だろう。


「・・・・・・ねえ、これからどうしようか?」


「なんだ急に?」


「比良坂市の情勢も落ち着いたし、このまま場の流れに任せて戦うのもどうかなって思ってるの」


「・・・・・・だな」


 本音を言えば心の奥底で自分達を地獄に叩き込んだ連中に復讐したいと言う気持ちはある。

 だがこのまま戦いを求め続けるのも間違いなのだろうとも思う。


 難しい問題である。


 だが――


「だけど迫り来る火の粉は振り払うぞ」


「それに関しては同意よ」


 銃口を突きつけられて黙って殺される程、俺と手毬はお人好しではない。


「日本がこの先にどうなるかも分からないんだ。ある一定の備えはしておいた方がいいだろう」


「やっぱりそうなるわね」


 日本は今紛争地帯で治安は最悪と言って良い。

 

「それに場の流れとは言え、この状況を作ったのには少なからず俺達にも責任があるだろう」


「そうね・・・・・・」


「悪いな手毬。本当は戦いを降りたい。戦いなんかやめて真っ当に生きる道を探したいけど・・・・・・」


「ううん――分かってるから――」


 そして手毬は俺に顔を近づけ、俺もそれに応えて、キスをした。


 これが俺達の答えだ。


 その答えは明確に、ハッキリと言葉では言い現せない。


 だけど分かっているのは一つ。


 幸せな人生を歩む時は俺の傍には手毬がいる。


 それが答えなのだ。 


 



 Side 荒木 将一


 一先ずやるべき事はやり終えた感はある。


 油断は出来ないが暫くは安全だろう。


 まあ問題はあるがな。


 自分の女性関係についてだ。


 本野 真清。


 愛坂 マナ。


 朝倉 梨子。


 この三人の中から誰か。


 戦いも一段落して考える余裕が出来たワケだ。


 なので俺は腹を括ろうと考えた。





 Side 朝倉 梨子


 最初は耳を疑った。


 嬉しかった。


 戸惑いもした。


 困惑もした。


 色々な感情がごちゃ混ぜになって大量の涙を流した。


 その事でマナと真清の二人に告げた。


 二人は納得などしていないだろう。


 涙を沢山流して。


 無理に笑顔を作って祝福してくれた。


 あの様子だと一晩中泣き明かすつもりなんだろう。


 私達の悪口も沢山言うんだろう。


 だけど私と将一はその全てを受け入れる。


 それが選ばれた者の務めだから。





 Side 本野 真清


 とても悔しい。


 悔しくて悔しくてたまらない。


 だけど――将一は私達が考えている以上に立派で、好きになって良かった人だった。


 それはマナも同じ気持ちだ。


 私達の事を考えてくれた上での苦渋の決断なんだと思う。


 ・・・・・・見つけられるかな。


 私の新しい恋。


 私自身をぶつけられる相手。


 

 


 Side 愛坂 マナ


 戦場送りにされて、泣いた事は沢山あったけど。


 今回はそれ以上に泣いた。


 だけど将一君も辛かったんだと思う。


 私達の事をちゃんと考えた上での決断だと思うの。


 だけど、それでも辛くて悲しい。


 真清さんの言う通り、相手――見つかるといいな。





 Side 荒木 将一


 翌日。

 

 レギンレイヴの艦内にて。


 俺は何故かシュミレーターで二対一の戦いをしていた。


 まあ専用のポッドに入って、身体を動かして操作する大きなゲーム機みたいなマシンだと思えば良い。


 戦闘フィールドは桜舞い散る比良坂学園。

 こう言う設定も出来たんだ。


 そこで俺はブラックウォーリア―を身に纏い、戦っている。


 相手は――


『ごめん、将一! こうでもしないと未練とかそう言うの断ち切れそうにもないから』 


『真清さんの言う通り! ごめんなさい!』


 本野 真清。

 愛坂 マナの二人。

 二人とも全力全開で真っ正面からぶつかってくる。


 何度も何度も勝とうが負けようがシュミレーターを続行する。

 だけどそれを俺は応えた。

 

 何度も何度も勝ちや負けを繰り返し、やがて――


『私も参戦する!! 勿論将一の味方として』


 梨子も参戦した。


『分かった!! だけど手を抜いたら承知しないんだから!!』


 マナの呼びかけに梨子は『当然じゃない』と返した。

 

 そこから先も馬鹿みたいに何度も何度も勝ち負けの戦いを続けた。

 

 時間の感覚など狂う程に。


 やがて――


「梨子、ちゃんと大切にしなさいよ」


「分かってるわよ真清――マナもちゃんといい男見つけなさいよ」


「うん、まだ吹っ切れた感じしないけど、大分楽になった。幸せにね梨子」

 

 と、地面に倒れ込みながら語り掛け合う三人の少女たち。


「私達馬鹿みたい。なにやってるんだろう私達」


 真清がそう言うと三人とも笑い始めた。

 

 宮里先生も泣いて笑って俺達を祝福してくれた。


「死ぬんじゃないわよ。死んだら私が将一をとるんだから」


 と、真清が


「そうだよ、梨子。だからさっさと子供作って幸せな家庭を築きなさい」


 そしてマナがそう続ける。


「なんだかんだでアナタ達、まだ吹っ切れてないじゃない」


 梨子が笑ってそう言うが――


「当然よ。でなきゃ本気で好きにならないわよ」


 真清がそう言う。


「だよね。また今回みたいに馬鹿みたいにケンカしたいね」


 などどマナが言った。


「そうね。それも良いわね」


 梨子も同意する。


 最後に泣き笑いだった。

  

 俺も泣き笑いしてきた。


 自惚れかも知れないけど、なんていい女達に恵まれたんだと思う。


 この後悔も嬉しさも一生忘れる事はないだろう。


 真清、マナ、良い相手見つけろよ――


 俺は梨子を幸せにするよ。

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