比良坂市決戦

 Side 木里 翔太郎


 早朝。


 比良坂市における重要な戦いがはじまった。


 敵の士気は低いとは言え、マトモにやり合っては被害が出る。


 最優先目標は敵の陸上戦艦旗艦である。


 同時に部隊内で恐怖政治を行っているらしい天王寺 イチゼンや黒鬼(ブラックオーガ)と呼ばれる特殊部隊を倒す、あるいは撤退に追い込む事を決定した。


 と言うのも両者を倒さないと降伏を受諾せずに徹底抗戦する可能性があるからだ。


 特に天王寺 イチゼン。


 調べた結果、政財界の大物の息子で親が裏から日本政府を仕切っている大物らしい。

 

 イチゼンもクズらしいが親である天王寺 ゴウトクもとんでもないクズである。


 なにしろ――俺達を戦場送りにしたり、核兵器で敵味方もろとも焼き払った張本人のようだ。


 しかもその責任を他者に擦り付ける形と言う徹底ぶりである。


 正真正銘のクソ野郎だ。


 今の政府や辞任して責任逃れした政治家どもも憎いがそんな奴がいたとは。


 だが今はそれよりも艦隊の方だ。


 旗艦を中心に円陣を組むように他の陸上戦艦が十分間隔を取るように配置されている。


 部隊の配置も互いが互いをカバーするように配置され、防衛戦を突破されてもある程度大丈夫なように工夫がなされている。


 クズはいるようだが相手の司令官は優秀らしい。


 それでもこの成し遂げなければならない。



  Side 比良坂市・武装勢力征伐艦隊提督(司令)


「敵襲です!」


「ECM(電波妨害)で正確な射撃は期待できません!」


 どうやら敵が来たようだ。

 私は落ち着いて対処する。


「構わん!! 艦砲射撃で出来るだけ数を減らす!! 撃ち漏らした敵の排除を優先させろ!!」


 不安要素は多いが長期戦に持ち込んで被害を多く出せば勝ち負けに関わらず、戦略的に此方の勝利だ。

 

 国家と武装勢力(比良坂市の人達)の真正面からの戦いなど本来はやる前から目に見えてる。


 それも正面切っての戦いなど本来は愚策でしかない。

 全ての武装勢力がこんな感じなら大国が第三国で武装勢力の相手に苦労などしないだろう。


 だが不安もある。

 

 相手にはヴァイスハイトの大部隊を何度も打ち破ったエースがいて、此方の士気は最低もいいところだ。


 大義名文も無いに等しい。


 だがそれでも戦いを放棄するワケにもいかん。


 肩書きに恥じぬよう務めを果たそう。


「敵空中戦艦確認!! 猛スピードで此方に接近!?」


「なに!?」


 ブリッジクルーに言われて驚いた。

 敵の無謀とも思える突撃。

 何を考えている。


「敵艦、遥か上空です!」


「ミサイル接近!」


「撃ち落とせ!!」


 私はすかさず迎撃を判断した。


「ミサイル爆発、レーダーが役に立ちません!!」


「スモークで視界も悪く、誤射の可能性も――」


 そこまで聞いて私は敵の目論見を悟った。


「やられた!! 敵は此方に直接降下してくるぞ!!」


 艦に被害報告が上がり始めたのはこのすぐ後だ。


 ただのパワードスーツならともかくパワーローダーは核動力でビーム兵器やレールガン、レーザー兵器などを標準装備したとんでも兵器だ。

 

 戦艦を一撃で葬ることは出来なくても片っ端から砲台や構造の脆い箇所を破壊するぐらいの事は出来る。

 

 艦内に突入されて白兵戦に持ち込まれたり、ブリッジを直接狙われでもすればそれだけでも終わる。


(それに我が艦を盾にすれば迂闊に味方も攻撃できない――そこまで計算していると考えていいだろう)

 

 私の油断と戦場を三次元的に考えられなかった私のミスだ。

 

「多少フォーメーションを崩して構わん!! 旗艦を後退させる!! 早々に旗艦を落とされては敗北したも同じだ!! 他の艦にも指示を飛ばせ!! 周辺の味方はミサイルセルへの着弾は絶対に阻止しろ!! 我々全員吹き飛ぶぞ!!」



 Side 木里 翔太郎


 パワーローダーを使っての空中戦艦からの降下。

 

 ECM、電波攪乱のための特注ミサイルにスモーク。 


 どうにか艦砲射撃の雨を交い潜り、敵の懐に潜り込んで敵の旗艦を潜り込む事が出来た。


 旗艦は慌てて後退をはじめる。


 打ち合わせ通り陸上戦艦を撃沈せずに張り付きながら戦う。


 念のため砲台やCIWS(機銃)、レーダー設備を破壊。


 日本の陸上戦艦はイージス艦の設計データーを流用した急増品であるため、武装の配置もイージス艦とほぼ同じだ。


 ミサイルの保管庫を破壊すれば大爆発を起こし、動力炉と誘爆して大惨事を起こすので放置する。


 すぐにパワーローダーや戦闘ヘリ、戦車部隊などがやってくる。


 だが戦闘ヘリや戦車部隊は火力はあるせいで外せば味方の艦に被害が出るため、攻撃できずにいて他の味方に破壊されていく。


 パワーローダー部隊が接近戦を仕掛けてくるがその前にビームライフルで撃ち落とす。


『敵艦の一隻が攻撃を開始!!』


 遅れて雪代 マイナから緊急通信が入る。


「天王寺だな・・・・・・味方もろとも俺達を吹き飛ばすつもりか」


 ある意味最悪の想定だ。

 旗艦から慌てて離れる。

 同時に味方を引き連れて後方の密集しているパワーローダー部隊に突撃。

   

 そして――敵の旗艦は轟沈して大爆発を起こす。



 Side 天王寺 イチゼン


『あいつらも勝利のために貢献できて本望だろうよ!』


『ですが指揮系統に混乱が――』


『構うか!! 後は弱った彼奴らにトドメを刺せば――』


 これでこの前の屈辱を晴らせる。


 此方にはパワーローダー部隊に戦車、戦闘ヘリ、ブラックオーガ隊もいる。

 万が一があっても楽勝で勝てる筈だ。


『敵部隊!! 来ます!!』


『なッ?』


 敵のパワーローダー部隊が猛スピードで此方に突っ込んでくる。


『撃て撃て!! 撃ち落とせ!!』

 

 相手は左右に別れた。

 小賢しい手を。

 一体も相手を殺せず、此方の数がドンドン減っていく。


 この役立たずどもが!?

 

『は、速すぎる!?』


『照準がおいつかな――』


『ええい!! ブラックオーガの連中は何をしてる!?』  

  

『既に敵の部隊と交戦中です!!』


『絶対にここで殺せ!! でなきゃ俺が殺してやる!!』


 こうなりゃアレを使ってやる!!

 負けるよりかはいい。



 Side 木里 翔太郎


『敵艦確認!! ありゃ真っ当な船じゃ無いぞ!? 後ろに積んでるのは大陸間弾道ミサイルか!?』


 天王寺 イチゼンの背後にいる陸上戦艦に目をやる。

 そこの後部には巨大なサイズのミサイル――いや? ロケット? などが置かれていた。


『もしかしなくても大量破壊兵器です!! 核の可能性すらあります!!』


 雪代 マイナさんの言う通りだな。

 こいつらなら本当にやりかねない。


『部隊の配置からして比良坂市に直接撃ち込む感じだな。でなきゃ核兵器じゃない高威力のミサイルだ』


「そんな考察している場合じゃないわよ!」


 手毬の言う通りだ。


『ああ、止めないと――艦のブリッジを破壊するか、取り付いて弾頭を処理するかだな』


「しかも既に発射準備が――」


『ミサイルの発射角度から計算して――目標は比良坂市です!!』

 

 雪代 マイナさんが最悪の事態を裏付けしてくれた。


『最悪だ!!』


「止めないと!!」


『その役割は俺達に任せな――』


「その声は――」


 聞き覚えのある声だ。

 確か赤い零戦二型を身に纏っていた傭兵の声だ。


『新しい雇い主に恵まれてな。自衛隊全員が全員クズだらけじゃないってことらしい。ミサイルの方は此方に任せて安心して暴れろ』


『分かった!!』

 

 続いて味方部隊が駆けつけてくる。

 確か敵の艦隊の前面に展開していた思わしき連中も駆けつけて来ている。

『これは一体どう言う事だ?』と思うとプレラーティ博士から通信が入った。


『敵部隊は降伏を選んだよ。一部は此方に加勢してきている。問答無用で旗艦を吹き飛ばしたのが決定打だったみたいね。これが良い知らせ』


『てことは悪い知らせもあるのか』


『敵の増援が此方に迫ってきている。ブラックオーガの連中と同じパワーローダーを随伴してね』


『そいつらも比良坂市を――』


『と、考えてもいいだろう』


 状況が好転しているのか悪くなっているのか分からない状況だなおい。


 ここから第二ラウンドのようだ。

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