第7話:好きになっちゃったから

 渚たちがラブホテルに入ってから一時間後。


「ちょっと渚先輩!」


 渚がベッドに腰掛けていると、むっとした口調で名前を呼ばれた。

 ベッドがきしむ。

 渚はぼんやりと横を見やる。

 すると結衣が張りのある乳房を揺らして、起き上がってきて抗議してきた。

 

「どこがえっちが下手なんですか! めちゃくちゃ上手いじゃないですか!」

「…………」


 渚は無言で結衣を見つめる。

 一方で結衣はいまだ興奮冷めやらぬと言った様子で「私、初めてなのにイっちゃいましたよ!? 初めては痛いだけで気持ち良くないって聞いていたのに!」と捲し立ててきた。


「……なんで?」


 そんな結衣にいまだ呆然自失のまま渚は問いかける。


「ん? どうかしましたか、先輩?」

「……なんで初めてだったのに、あんなことしたのさ?」

「あんなことって?」

「エッチが下手なのか確かめてあげますよって……」

「ああ。だって先輩ってとても可愛い顔をしてるじゃないですか」


 結衣が微笑みながら顔を寄せてきた。

 渚は逃げないものの、どうにも結衣の微笑みが苦手だった。

 コンパの時といい、今といい、どうにも馬鹿にされているような気がするからだ。


「こんな可愛い系男性アイドルみたいな顔をしてるのに、なんで彼女を寝取られたんだろうって。やっぱりえっちが下手なのかなと思うと、どうしても確かめたくなったんです」

「……経験もないのに上手いか下手なのかなんて分からないと思うけど?」

「そうでしょうか。気持ちのいいえっちって相手のことをどれだけ思いやって、一緒に昇り詰められるかがポイントじゃないですか。そこさえ掴んでいれば、初めてでも『ああ、この人、自分のことしか考えてないな』とか『焦り過ぎだな』ぐらい分かりますよ?」


 へぇといまだぼんやり気味なまま渚が感心していると、結衣が「まぁ、保健の先生の受け売りなんですけどね」と、可愛らしい舌をちょろっと出してネタ晴らししてきた。


「そういう意味でも渚先輩のえっちはとても満足のいくものでした! 自信を持っていいと思います」

「……ありがとう」

「でもそうなると何が原因で彼女さんを寝取られるのか気になりますね」


 結衣が乳房を持ち上げるようにして腕組みをする。

 その様子に渚はますます疑問が湧いてきた。


「神戸さん、やっぱり僕、分からないよ」

「そうですね。私も先輩の寝取られの秘密が分かりません」

「そうじゃなくて。なんでそんなことの為に大切な初体験を僕としたの?」

 

 乱れたベッドシーツの一点を赤く彩る破瓜の血は、結衣がさっきまで清廉潔白な乙女だったことの証だ。

 渚はなんとも言いようのない罪悪感に責められる。

 古い考えかもしれないが、渚は女性のそれを神聖なものと考えていた。

 だからこそ結衣がそんなつまらないことで初めてを失ったのが理解できない。


「そんなの決まってるじゃないですか。先輩のことを好きになっちゃったからですよ」


 しかし、結衣はあっけらかんと言い放った。


「あれ、もしかして先輩、私がただ先輩のえっちが下手なのかどうなのかを知りたくて身体を重ねたと思ってます? 私がそんなアホな子だと?」

「そういうわけじゃないけど……でも、僕、大学生になってから何人もの女の子と付き合って、その度に寝取られてきた情けない奴なんだよ?」

「それがいいんじゃないですかっ!」

「……はい?」


 思ってもいなかった結衣の言葉に思わずたじろぐ渚。

 結衣は立ち上がると、薄い陰毛に包まれた股間を隠そうともせず、渚を諭すように力説を始めた。

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