第12話それからとこれから

 転がりこむように黒崎さんの家にお世話になるようになって一年がたとうとしていた。

 黒崎さんの家は今はなきご両親が残したものらしい。古いけどずっと人が住み続けていた温かみのようなものがあった。

 ただ漫画やDVD、フィギュアやおもちゃなどが乱雑に置かれていたので定期的に私が掃除をした。

 またあの人たちは放っておいたらインスタント食品ばかりたべているので必然的に食事の担当は私になった。

 なんせ珠美さんは玉子かけごはんばかり食べてるからね。

 玉子かけごはんさんは玉子かけごはんしかつくれないのだ。


 もとの家から私の荷物を運び出すとき自分の荷物があまりにも少ないのに驚いたものだ。

 やはりあの家は孝文が設計し、彼が住むように作られたものなのだ。



 智花はあの家に残ることになった。

 一応親権は彼が持つことになったが会うのは自由だった。

智花とは娘というより友達に近い感覚だ。

 彼女は大学をでるまであの家にいるといっていた。

 パパはお金だけはもっているからねと彼女は言った。

 智花は現実的だな。


 それに良星りょうせいはかわいいからねとも言っていた。

 良星とは孝文と彼と再婚したあの若い女との子供の名前だ。しかし生まれてきた赤ちゃんにはなんの罪もない。

 私も智花に見せてもらった写真をみて素直にかわいいと思った。

孝文と再婚した女性は地味で控え目でおとなしい従順な性格だと智花が言っていた。

 何でもはいはいと答え、自分というものがないんじゃないかなと智花は言っていた。

 さすがにお母さんとは呼べないので萌枝もえさんと名前で呼んでいるとも智花はつけ足した。

 あの家は急速にあの人たちのものになっていった。

 もちろん戻る気持ちは百パーセントないがその萌枝さんという人は私のいた形跡をきっと消したかったのだろう。そしてそれは成功している。



 私は朝は豊一さんと珠美さんのお弁当をつくり、彼らに持たせたあと仕事にでる。

 こっちに来てから私は外で働くようになった。外で働くのはそれなりにたいへんだが生きている実感がしてとても楽しい。

 私が働いているのはいろいろな事情で学校にいけなくなった子供たちが通うフリースクールだ。

 こう見えて私は小学校の教員の資格をもっているのよ。

 大学をでて、しばらくは小学校で働いていたこともあるの。

 働いてすぐに孝文と知り合い、智花が生まれたので教師生活はそんなに長くはなかったけどね。

 このフリースクールは孝文が懇意にしている人が主催している。

 孝文はこういうことにすごく熱心だ。

こだわりが強くわがままな所はあるが社会のことを真剣に思う真面目なところもある。

 人はいろんな側面があるものだ。

 私は財産なんかはいらないかわりにそこで働きたいと孝文に頼んだ。

 お金はこれからの智花や良星のために使ってほしい。


 仕事の帰り道、黒崎さんと合流して市役所に向かった。

 婚姻届けをだすためだ。

 どうにか生活も落ち着いたので私は再婚することになった。

 彼のプロポーズを受けたときまた私のようなおばさんでいいのと言ってしまった。

 その時だけ黒崎さんは少し怒った。

 もう二度と自分をそんな風に言わないでくださいと。


 私たちは婚姻届けと指輪をそれぞれのスマホで写真をとった。

 その写真をTwitterにアップする。


 雪

「私たちは結婚しました」


 黒崎麟太郎

「この度、雪さんと結婚しました」


 すぐにいいねとリプライが続いた。


 玉子かけごはん

「おめでとう!!これこらもよろしく!!」


 しまねこ小百合

「お二人つきあっていてのですね。おめでとうございます」


智フラワー

「再婚おめでとう」

 これは智花のアカウントだ。彼女はどこかから私のアカウントを見つけてフォローしていた。


 レーズンアイス

「黒崎どのおめでとうございます。我らの希望でごさる」


 綾瀬泣きこ

「雪さん、結婚おめでとう。また料理のレシピ教えてね」


 ラーメン五郎

「黒崎さんいつの間に‼️おめでとうございます‼️」


 矢野屋アケミ

「おめでとうございます。ウエディングドレスみたーい」


 通知が百件以上続く。

 家に帰ったらみんなに返信しなくちゃね。

 黒崎友希子となった私は豊一さんと手をつないで帰宅した。




終わり


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140文字の青い鳥は囁く 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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