第10話


***


 年が明けてからも見合いはどんどん潰され、成果を上げることも出来ず冬季休暇が終わった。学園に戻った私はすぐにベロニカとマリリンに捕まった。どうやらお見合いがどうなったか興味津々な様子。だけど、応援してくれていた彼女たちにいい報告はない。ありのままを話すと、二人はあからさまにがっかりした。


「何やってんのよ、相手が来ないなんて……バカじゃないの?」


 ベロニカは相変わらず口が悪い。フンッと鼻を鳴らして少し怒っているようにも見えた。


「私がおススメしたファッションが良くなかったのでしょうか?」


 マリリンは過剰に心配してくれたから、そんなことないよとフォローしておいた。まさか見合いを潰したのが皇太子殿下だなんて口が裂けても言えない、私は作り笑いをしながら「どうしてだろうね」とはぐらかしておいた。


「結局年明けもだめだったんだな」


 私たちの会話に口を挟んだのセオドアだった。いつもみたいなニコニコとした笑い顔、今はそれが憎らしい。セオドアの太もものあたりを強く叩くと、彼は笑ったまま「いたっ!」と大きな声をあげて、そのまま去って行く。どうやら、私の事をからかいたいだけだったみたい。私が頬を膨らましていると、マリリンは「そういえば」と声をあげる。


「セオドアくんも次男だったような気がするのですが……」


 その言葉に真っ先に前のめりになったのはベロニカだった。


「いいじゃない! アンタたち、幼馴染で仲いいし。しかも次男! ティナ、どうして今まで気づかなかったの?」

「いや、セオドアはちょっと……」


 私が言葉を逃がすと、二人は「えー! もったいない!」と耳が痛くなるくらい大きな声を出した。セオドアは確かに私の幼馴染、けれど、このゲームの攻略対象でもある。もしかしたらヒロインが狙うかもしれない。それに、私はアルフレッド同様何度もセオドアを攻略したから、彼の夢についてもよく知っていた。彼は最終学年になってから、優秀な兄に背中を押されるように「世界中を旅して、商売する」という夢を抱くようになる。だから、たとえ結婚したとしても我が家の家業を大事にしてくれるのか分からない。そんなことだから、セオドアは初めから頭になかった。でも、私が難色を示しているのに気づいているはずなのに、二人はどんどん迫ってくる。


「ちょっと聞いてきてみたらいいんじゃない?」

「そうですよ! セオドアくんに探りを入れてみましょうよ! もしかしたら、どこかに婿入りしたがっているかもしれませんよ!」


 そんな訳はないと思っているけれど……私は二人の勢いに負けて、翌日、昼食に誘うことにした。


***


「珍しいな、ティナから誘ってくるなんて。入学して初めてじゃないか?」

「いいじゃない、たまには」


 私たちはテラス席に来ていた。二人で注文したバゲットサンドにかじりつく。


「春季休暇が明けたら、私たちも最終学年じゃない?」


 冬季休暇と春季休暇の間はそう長くない。あっという間に修了式がやって来て、それが明けたら私たちは最終学年に進級する。


「そうだな、早いなー」

「セオドアは卒業したらどうするつもりなのかなって、気になって」


 セオドアは「うーん」と唸り声をあげる。


「多分父さんがやってる会社に入るんだろうけど……うちの兄さんって、優秀じゃん」

「そうね」


 あまり会ったことはないけれど、私はゲームを通してセオドアの兄の事はよく知っていた。王立学園、そして王立大学を首席で卒業した俊才。今はセオドアのお父様の会社で後継ぎとして働いていて、彼が入社して会社の業績がぐんと伸びたとも。そして、セオドアはそんな優秀な兄と自分を比較しては気後れしていることも。


「だから、会社に入ってもできることってないんだよな」

「何かセオドア自身がしたいことはないの?」

「うーん……どうしようか考えているところ」


 私は「フーン」と相槌を打った。そこで会話は止まってしまう。このままじゃだめだ、とりあえず、本題をサクッと切り出さないと。私は僅かに震える唇で、こう問いかけた。


「製薬会社って、興味ない?」

「製薬会社ぁ?」

「う、うちの会社なんだけど……」


 そこでセオドアがようやっと私が意図していることに気づいたらしい。驚いたように目を見開き、口元を隠す。


「な、なんだよ。お前もついにこの良い男の存在に気づいたって事か?」


 彼のからかってくるような口ぶりはとても軽いけれど、わずかに声音が震えていた。耳元がほんの少し赤みがさしていく。私は「セオドアが良ければ、なんだけど」と続けると、セオドアはそっぽ向いて黙ってしまった。顔を覗き込むと、目をつぶって何か考え込んでいるみたい。


「……まぁ、悪くないんじゃない?」

「え、ホント?!」


 その返事は思いがけないものだった。私は前のめりになる。


「ティナがどれだけ本気かによるけどさ、からかって言ってるなら怒るぞ、俺だって」


 いけるかもしれない、セオドア! このままイヴが来てもフラグが立たないように注意して、話を進めていけば……幸いなことに、私の父とセオドアのお父様は仲がいい。だから、とんとん拍子で進めば! そんな事を考えていた私の頭上に、真っ黒な影が差した。誰だろうと見上げると、そこにいたのは……。


「随分楽しそうな話をしてるんだな、ティナ」

「あ、アルフレッド! どうしてここに!?」


 赤い髪が私たちを見下ろしている。彼の背後には、なんだか赤い炎のような幻覚は見えていた。


「ティナを昼食に誘おうとしたら先に二人がここにいただけだ。それで、クーパー」

「なんだい、殿下」


 アルフレッドはセオドアに向かって、ビシッと指を差した。そして、テラス中に響き渡るようなよく通る声でこんなことを言うのだ。


「貴殿に決闘を申し込む!」

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