3-4

「……喫茶店の略。結構、一駅先の喫茶店なら、うっさい教師の目もないし、快適に過ごせると思うんだけど」

「確かに、東山先生赴任してきてから生徒指導厳しくなったもんね。割と駅前のカフェとかでつかまっちゃったって言ってたやつ居たし……天原はどう思う?」

 片瀬に振られて、ミコトは渋い顔をし、再び腕を組んだ。

「しかし、校則では放課後の寄り道は禁止されているが」

「え~?天原ミコトともあろーものが、ビビってるわけ?」

「……俺は怯えてなどいない」

 渋い顔をさらに険しくさせて、ミコトは反論した。

「大丈夫だよ。怒られるときは三人一緒だし。それに、学校帰りに寄り道するくらいで、停学とか退学になるとかじゃないしさ。一駅先なら、きっとばれないよ」

 片瀬に説得されたミコトは、多少態度を軟化させて、

「……わかった。しかし、迅速に、慎重に行動するべきだ。さしあたって、偵察活動などの隠密行動に経験のある俺が指揮を執るべきだと提案する」

 そういつも通りのむっつりした表情でのたまった。

 これまたいつも通り、片瀬は苦笑し、花崎は眉をひそめる。

「出た、天原のミリオタ中二病発言」

 ジトッと花崎に半目を向けられながら言われた言葉に、ミコトは首を傾げた。 


 その日の放課後、三人は早速、一駅先の喫茶店でテスト勉強を始めた。

 そうして、開始三十分ほどで。

「飽きたーー!何で、こんな小難しい数学の問題解かなきゃいけないの!?」

 花崎が大の字で椅子にふんぞり返ってわめきだした。

「……まだ三〇分ほどしか経っていないが」

 喫茶店に来る途中で購入した古典の問題集と格闘していたミコトが顔を上げて、そう言った。

「これはそろそろ糖分補給タイムを挟まないとやってらんねーわ。片瀬もそう思うでしょ」

「そうだね。せっかくだし、飲み物以外も何か頼もうか」

 そう言いながら、筆記具と問題集を脇に避け、片瀬はメニューを開いた。

「あたしチョコパフェにしよっかなー」

「俺はパンケーキにしようかな。天原は?」

「片瀬と同じものにしよう。君の推奨するものは、間違いがない」

「ははっ、ありがと。じゃ、注文しちゃうよ」

 丁度近くを通った店員を呼び止め、まとめて片瀬が注文している間、不意に花崎が口を開く。

「ねー、天原、あんたってさ、休みの日とか何してんの?」

「きみ……」

「機密事項だ、はナシ。休みの日何してるくらいいいじゃん」

 先手を打たれ、ミコトは視線を彷徨わせた。

(……定期報告や銃の手入れは適切な解答とは言えないだろう。高校生らしい解答……)

 すこしの間をおいて、ミコトは口を開いた。

「読書だ」

「読書。……どんな本読むの?」

「軍事雑誌や世界情勢を知るための各国の情報誌を読んだりする」

 転校したときの自己紹介と同じ内容を言って、その場を潜り抜けようとしたが。

「他は?」

 追及され、ミコトは困りきった。

「……高校生らしく過ごしている」

「高校生らしくって?」

「君が想像しているようなことだ」

「煙に撒くな。具体的に教えなさいよ」

「……」

 ミコトが無言のまま目を逸らすと、注文を終えた片瀬が助け舟を出した。

「あんまり天原を困らせないであげなよ。それぞれプライベートなことなんだから」

「や、だって友達なんだからさ、多少パーソナルな部分を知っておくのもいいかなって」

「だからって根掘り葉掘り聞くのはよくないと思うけどな」

「言うほど聞いてないでしょ。べつにクレカの番号引き出してるわけでもあるまいし……こんくらい、コミュニケーションの一環じゃない」

「まあ、そうかもしれないけど……」

 二人の会話を聞きながら、ミコトは考える。

(あまり秘匿していると、確かに不審に思われるか……) 

 ミコトは意を決して口を開いた。

「俺は、休日になると銃の手入れと武装の点検をしている」

「……あ〜、ぽいわねえ。ミリヲタだもんね、アンタ」

 驚いた様子で少し黙ってから、再度口を開いて嬉しげに花崎が相槌を打つ。

「何を笑っている。俺はおかしいことを言ったのか?」

「べっつに~」

 ニコニコと嬉しそうな表情を浮かべる花崎に、ミコトは首を傾げた。

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