2-21

「この学園は、尾蝶家が運営する教育機関のひとつですが、幾つかの企業から資金提供を受けており、学園運営の資金源の一部となっています。つまり、学園にとってスポンサーの意向はとても重要なものになります。そして、わが校の生徒の中にその企業の役員の子息令嬢がいることも事実です」

 静謐を守りながら、生徒たちは尾蝶の言葉に耳を傾け続ける。

「その生徒たちが問題を起こしたとしても、企業が不利益を被ることになれば、学園は資金援助を打ち切られることもあります。その為、企業や世間体のために、問題を隠蔽したり、揉み消したりする教師もいるでしょう。ですが、そうして生まれた歪みは、取り返しのつかない事態を招く結果となりました。――先ほど矢吹先生が仰った、三原ミカさんの件です。彼女の尊い命が失われたというのに、我々学園側は、問題の揉み消しを図りました。――加害生徒に、先ほど説明したスポンサー企業の子息令嬢がいたことが発覚したためです」

 壇上で泣きじゃくる矢吹と、俯いて呼吸を整えている御宅田を支えながら、ミコトは生徒や教職員の動揺が一斉に走ったのを見逃さなかった。

「のちに直接伺った際、遺族の方々は多額の賠償金を学校から支払われ、口留めのようなことをされたとお聞きしました。謝罪も金も要らない、娘を返せと、泣き叫ぶ三原さんのご両親の姿は今でも忘れられません。……当時気づかなかった自分の愚鈍さに、激しい怒りを覚えました」

 あくまで冷静で、声色に変化がなかった尾蝶だったが、かすかなゆらぎをみせる。

「正義感から行動をした女生徒を、一部の生徒たちが執拗な嫌がらせを行い、精神的に追いつめ、自殺にまで追い込んでしまった。これは、一人の少女の命を奪った、許されざる犯罪行為です。そして、このような重大な事実に関わらず、知っている者は、ほんの一握りしか居ないのです。今、話を聞いている皆さんの中に、心当たりがある方もいるでしょう。彼女を追い詰め、死へと至らしめた生徒たち――いいえ。が、この中には居るはずです」

 殺人犯、というワードに生徒達の顔色が変わる。

「いじめは、加害者側にとっては大した罪にならないと考えている人もいるかもしれません。自殺したところで、勝手に死んだだけ、とすら思うかもしれません。――ですが、その行為は、殺人に等しいのです。人の心を殺し、そして人生すら奪う。そんな人間が罰も受けずにのうのうと生きているなど、あってはならないことでしょう?」

 その言葉に、御宅田は肯定する様に、ぎゅっと拳を握った。

「――徹底調査の末、もし学園に資金提供していた企業の関係者の生徒が虐めを行っていたと言う事が確定すれば、即刻該当の企業には我が学園のスポンサーから退いていただきます。マスコミの方々から追及があれば、事実も公表させて頂く所存です」

「か、勝手な事ばかり言うな!そんなことがまかり通るとでも思っているのか!?」

「訴えられたらどうするつもりだ!」

「そんな事実があったと露呈すれば学園のイメージダウンにも繋がるぞ!」

「裁判になれば、徹底的に戦います。イメージダウンは、身から出た錆。自業自得というものです」

 尾蝶はぴしゃりと反論を叩き潰し、続ける。

「無論ですが。教職員への調査も行います。花崎さんへの脅迫・そして三原さんの自殺隠蔽に関わった教員も調べ上げ、相応の処分を下しますので。覚悟しておいてください――これは決定事項です。理事長からの許可も取っております」

 冷ややかな目で一瞥しながら尾蝶が言うと、わめきちらしていた教職員たちが水を打ったように静かになる。

「良い判断だとワタシは思いマス!学園はクリーンに、そして生徒たちの善い学び舎であるべきデース!ワタシからも協力しマス」

 静まり返った講堂内に再びラジャブの声と彼の拍手の音が響く。

「資金提供を打ち止めにしようと思っていマシたが、御宅田クンの勇気ある行動に免じて、寄付金を増額しまショウ」

 ラジャブがそう言うと、尾蝶は「ありがとうございます」と深々とお辞儀を一つ。

「――御宅田アツシくんの勇気ある行動で、この学園は今日から変わっていきます。白華学園は、文字通り真白いままで、美しい花を咲かせ続けるような生徒たちを育む学園にしていきたい。そう願っています。どうか、皆さんもご協力ください。――以上です。ご清聴、ありがとうございました」

 尾蝶が言い終わると、数人の拍手が響き渡り、そして、それは段々と大きいものになった。

「御宅田。前を向け――君の、報復の結果だ」

 ミコトの言葉を聞いているのかいないのか、御宅田は嗚咽を漏らしながら、膝をついてわあっと泣き出した。

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