2-12

「なにをする」

「バッカじゃないの!? アンタってホントいつの時代のドコの国に生きてるわけ!? 万年内戦地かなんかで育ってきたの?!」

「そうだが?俺が物心ついたころには、既に武装グループによるゲリラ戦が日常茶飯事で――」

 再びパァン、という音を立てて、ミコトの頭に花崎の上履きが叩き込まれる。

「片瀬!! コイツビョーキよ! ビョーキ! 心の病!」

 ミコトを指差しながら、片瀬に向かって叫ぶ花崎を尻目に、ミコトは頭をさすりながら立ち上がる。

「……戦争でも使われるような爆弾の可能性が非常に高い。下手に刺激すれば、学校ごと吹き飛ぶ可能性もある」

「アンタ、自分が何を言ってるか分かってる? 救急車呼ぶ?」

「……だから、君たちには有事の際、生徒たちの統率を取ってもらいたい」

 ミコトは真剣な顔で花崎を見つめたが、彼女は呆れたように首を振った。

「重症だわ……なんで私がアンタの妄想に付き合わなくちゃいけないの?」

 くだらないとばかりに花崎は前を向こうとしたが、ミコトはいまだ真剣な面持ちを崩していない。

「……天原、なんか心当たりでもあるの?」

 片瀬がおずおずと尋ねると、ミコトはうなずく。

「昨日、不登校の生徒の御宅田アツシと接触した。彼は卓越したIT技術を持っており、兵器の売買を行っている闇サイトにアクセスしていた可能性が高い」

「え!? 御宅田が!?」

 片瀬がすっとんきょうな声を上げると、周りのクラスメイトたちがそろってミコトたちの方を向いた。

 ひそひそと何か話していたり、皆落ち着かない様子で。

「……確かに御宅田は結構PCに詳しかったけどさ……生徒会の仕事とかで、手伝って貰ったりしたこともあったけど……」

 さきほどより声を潜めて、片瀬はバツの悪そうな顔をしながら言った。

「……俺がこの学校に来る前、御宅田に何かあったのか? 今の――皆のこの態度に繋がるような、何かが」

 声を潜ませていったミコトの言葉に、二人は押し黙る。

「教えて欲しい。何があったんだ」

 重ねて尋ねるミコトに苦い顔をした片瀬が口を開く。

「もし……その立てこもり事件が本当だったとして、警察に通報したらいいんじゃないか? ――そこまで、関わり合いになる必要、ないんじゃないかな……危ないし」

 いくぶんか、言葉を選んでいる様子で片瀬は問う。

 その問い掛けに、ミコトはすぐに口を開いた。

「楽しい学園マニュアルに書いてあった。『困っている友達がいたら助けてあげよう』と」

 それを聞くや、片瀬と花崎は目を丸くする――そうして、しばらくして花崎は大きくため息をついた。

「アンタ、ホントにバカね。相当アタマおかしいわ。アタマのネジ、何本飛んでんだか」

「そこまで罵倒されるいわれはないが」

 多少ムッとして、ミコトは反論した。に対して、花崎はニヤリと笑う。

「――二限目の授業は矢吹ちゃんの担当だからどうせ自習よ。教室テキトーに抜け出して、屋上集合。責任は生徒会所属の片瀬がとる」

「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな勝手に――」

「困ってる友達がいたら助けてあげよう。でしょ!」

「いや、それはそうだけど……」

 片瀬は花崎に気圧されて、ため息交じりに続ける。

「わ、わかったよ。全く、強引だな……」

「じゃ、そういうことで! 詳細はそのときに。そろそろ授業始まるわよ。あたしはブレーン担当だから、体力回復を……」

 花崎は自分の席に座りなおすと、そのまま机に突っ伏して寝てしまった。

 その様子を呆然と見つめてから、ミコトは片瀬に視線をやる。

 彼もまた唖然としている様子で、少しばかりミコトは眉を下げてから、口を開いた。

「片瀬。巻き込んでしまってすまない」

 ミコトが申し訳なさげにそう言うと、片瀬はいつも通りの微笑みを浮かべた。

「いいよいいよ。いつも一人でガンガン行っちゃう天原に頼られるの、俺的には結構嬉しいしさ」

「……ありがとう」

「ま、天原のためなら会長の御小言くらい、いくらでも聞いてやれるって」

 悪戯っぽく笑って、片瀬もまた次の授業の準備を始めた。

(これが『周囲を頼る』ということだろうか)

 任務の為の情報収集、間接的だが、その助力も得ることができた。

 だが、それだけでなく――それ以上に。

(友達を作れと言ったゴロウさんの言葉の意味が、分かってきた気がする……)

 前にいるただの高校生たちの背中が、やけに頼もしくミコトには映った気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る