2-7

(失態だ。あまりにも、浅慮だった。目も当てられないほどの)

廊下に出て、ミコトは自分の行動を悔いていた。

――一般の生徒を巻き込んで、あまつさえ、軽率に催涙ガスを使って逃走を図るなど。

証拠をありありと残して、捕らえろとでも言っているようなものでしかない。

(俺だけならまだいい……しかし、これでは鶴木の人生を潰す可能性もある)

そもそも。

(……単独で、遂行できる任務だった。なぜ、俺は鶴木と行動を共にしてしまったんだ?)

ミコトは後悔する。背にしている生徒会室の扉から、尾蝶がこちらを見つめているかもしれないと思うだけで、ミコトは冷や汗が止まらなかった。

(……簡単な事だ。現状を解決できるが、ある)

懐の拳銃に手をやる。振り向いて、扉を開いて、――。

「天原終わったー?うわ、顔色悪ッ。あのカイチョー、あんたに一体何言ったわけ?」

そんな声が聞こえてきて、ミコトは我に返り、銃をしまう。

面白いものを見つけたかのように笑う花崎と、息をつく片瀬の姿がミコトの視界に入った。

「会長のお説教って、結構胃に来るよねー。わかるよ。俺も掲示物の書式ミスったとき、チクチク言われたもん……」

片瀬が労わるようにミコトの肩を揉みながら、しみじみと呟く。

「……ああ、そうだな」

「天原がシケた顔してるとなんか調子狂うわねー。しゃあないわね、あたしがゴリゴリ君奢ったげる!」

バンバン背中を叩いて来る花崎を、ミコトが不可解そうな顔でみつめる。

「何よ」

「……いや、二人は何故ここに居るのかと」

「べっつにぃ~。優等生の片瀬クンは知らないけど、あたしはただ、会長に弱味握られて、情けない顔の天原を見てやろうと思っただけだけど」

「いや、天原が心配だから、待ってたんだよ。俺も花崎もね」

そう片瀬が意地悪く笑いながら言うと、花崎はかっと顔を赤くして、眉を吊り上げた。

「ハァ!?あたしはただ帰りがけに生徒会室の前通っただけで、そこにたまたま情けない顔してる天原がいただけよ!わざわざ待ったわけないじゃん!!」

「はいはい。そうだね」

二人のやり取りを聞き流しながら、ミコトは唇を噛んだ。

(……自分の中で、何かが変わっている)

自分が錆びつく感覚。自分が自分でなくなるような錯覚を覚える。

鶴木を同行させたのも、花崎の声が聞こえて拳銃を抜けなかったのも、一介の女生徒である尾蝶の言葉が恐ろしく思えたのも、全ては、自分の中のが変わってしまったからだ。

警鐘が鳴る。このままでは自分は、きっと――。

(……現状を打開する方法が、今の俺には思いつかない……何か得られるものがあるまで連絡はするまいと決めていたが……)

ミコトは片瀬の手を払いのけると、おもむろに踵を返した。

「天原っ?」

「すまない、二人とも。少しばかり用事があるので、……失礼する」

かすれ気味の声で言って、ミコトはその場を去った。

「…………」

「何よアイツ、せっかく気遣ってやったってのに!」

憤慨する花崎の隣で、片瀬はミコトの後ろ姿をじっとみつめていた。


「……あんなに焦ってる天原、初めて見た」

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