第26話 これが【悪魔】の正体?


「これが【悪魔】の正体?」


 俺がまみ上げたのは『小さな蜥蜴とかげ』だった。

 いや、翼がある。鳥だろうか?


 ――ピーッ!


 うん、やっぱり鳥だ。


「どうやら【竜】ドラゴンのようじゃな……」


 とは朔姫さくひめ。そう言って、俺には一瞥いちべつくれただけで――落ち着くのじゃ――と神月かみつきさんをなだめている。


なんだかんだで、やっぱり面倒見がいい……)


 それに、このままでは倉岩姉妹が泡を吹いて倒れてしまうだろう。

 早く手をつないだ方がいいと思い、俺が近づこうとすると、


「おぬしは、そこにれ」


 と朔姫。彼女の話によると、この【悪魔】――もとい【竜】ドラゴン――は人を疑心暗鬼にさせる力を持っているらしい。


 俺が持っている事で、その力を封じているようだ。

 そう言われると、菊花だりあも人を頼ればいいのに一人で行動していた。


 中等部へ行った時の様子からして、手伝ってくれる友達は居たはずだ。

 桜花ちえりさんも男性に対し、信用していない様子だった。


(この【竜】ドラゴン所為せいだったのか……) 


 例外があるとすれば、俺のような『神狩かみがり』の存在か、朔姫や神月さんのような【神】かそれに近い存在なのだろう。


「やっぱり、センパイはすごいです♡」


 とは菊花。どうやら、神月さんが落ち着いたようだ。

 大分、楽になったのだろう。


『こんな蜥蜴とかげに、いいようにだまされていたなんて……』


 とは桜花さん。ショックを受けている様子だ。

 倉岩姉妹は特に【神気しんき】の影響を受けやすい。


 それで標的ターゲットにされたのだろう。


 ――しかし、いったい何故なぜ


 朔姫は神月さんが落ち着いたのを確認すると、


「簡単な事じゃ……【神】は人から必要とされなければ存在できん」


 ――つまり、これも【神】という事だろうか?


 俺が首をかしげていると、


「西洋の方の【神】じゃろうな……」


 向こうではよく【竜】ドラゴンが悪として物語に登場するじゃろ?――と朔姫。

 確かに財宝を隠し持っていて、退治される印象イメージだ。


「本来の姿ではないかも知れぬ……じ曲げられたのかも知れん」


 八百万の【神】が居る日本とは違い、向こうは宗教同士の対立が激しい。

 色々と複雑だった事を思い出す。


「『信仰』を失なったのじゃろう……」


 他人事ではないのか、朔姫の口調はいつもと違った。

 ただ、彼女の場合は消えてしまう運命を受け入れるのだろう。


「菊花達を『恐怖』で縛る事で――『信仰』を集めていた――ということ?」


 俺の疑問に朔姫は――うむっ!――とうなずくと、


「結果、真に『恐怖』をつかさどる存在により、退治されてしまったがのう……」


 やれやれじゃ――そう言って肩をすくめた。


(なるほど、『恐怖』の対象が神月さんに移った訳か……)


 それで力を失ったようだ。なんとも情けない。

 けれど、分かった事もある。


 恐怖心を抱く事が、神月さんの力になるようだ。


(だから、俺なのか……)


 自分では欠けていると思っていた人間としての部分。

 しかし、それが彼女の助けになっているのであるなら――


(それは素直に嬉しい事だ……)


「神月さん、ありがとう――俺のために怒ってくれて……」


 俺と出会ってくれて――つい、そんな事を言ってしまった。

 ぱぁっ!――と花が咲くように神月さんが笑顔になる。


われが苦労してなだめたというのに……一瞬じゃと⁉」


 朔姫は驚愕きょうがくする。


「わ、私こそ……嫌われたかと思って……」


 と神月さんは言葉をらす。

 確かに、あらゆる存在に『恐怖』を与える、その力は厄介だろう。


 でも、結果的に皆を救った。


「少なくとも、俺は君を嫌ったりしないよ」


 優しい俺の女神様――つい口が滑ってしまった。

 こういう時、人は抑えていた気持ちや感情が出てしまうようだ。


 普段、絶対に言わないような事を言ってしまった。


われも……われにもっ! その言葉を所望するのじゃ!」


 と朔姫。流石さすがに恥ずかしいので勘弁して欲しい。


「また今度ね」


 俺が断ると、


かなばかりずるいのじゃ!」「ずるくありません!」


 何故なぜか二人は喧嘩ケンカを始めた。


『それよりも一旦、戻るわよ!』


 と桜花さん。確かに何時いつまでも、こんな山の中には居られない。


「そ、そうですね」


 菊花はそう言って、桜花さんを抱きかかえた。


(まぁ、誰も怪我をしなくて良かった……)


 事前に朔姫からは連絡をもらっていた。

 もし【悪魔】が俺に見えるのであれば――


「危険じゃから、逃げるのじゃぞ!」


 と指示を受けていた。逆に見えないのであれば、


「おぬしなら退治できるじゃろう」


 という話だ。どうやら『神狩かみがり』の力というのは俺が思っているよりも危険な力なのかも知れない。


(今回は運が良かっただけかも知れない……)


「二人とも、夕飯の準備があるし帰ろう」


 今日は俺が『カレー』を作るよ――と声を掛ける。すると、


「うむっ! そういう事なら仕方がないのう……」


 と朔姫。ピタリッ!――と喧嘩ケンカを止める。

 現金なモノだ。神月さんも呆れた様子だ。


「よいかっ! われの分は肉を多めにするのじゃ」


 肉をケチるでないぞ!――朔姫が俺に釘を刺す。

 以前、竹輪ちくわ加工肉ハムで代用した時の事を言っているのだろう。


「分かったよ……」


 俺は仕方なく返事をする。

 今日は奮発して、いい肉を買うとしよう。


「菊花達も食べて行くよね?」


 俺の問いに、


「はい!」「勿論もちろんよ!」


 と二人はうなずいた。


(あれ? 猫は『カレー』を食べても大丈夫なのか……)


 そんな疑問が浮かんだけれど、俺は口にはしなかった。

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