第25話 どっちがいいですか?


「あの……良かったのでしょうか?」


 とは菊花だりあ

 神月かみつきさんは落ち着いているのか【神気】を押えているようだ。


 お陰で、人前で手をつなぐ必要はなくなった。


 ――もしかして『プレゼント』の効果かな?


朔姫さくひめが居ると、会えない可能性があるからね」


 と俺は答える。

 彼女がヤル気を出すと、会いたい相手に会えない可能性が出て来る。


 俺達は今、神月さんが――【悪魔】の場所を知っているかも――という事で、その場所に向かっていた。


 なんとその場所は俺達の住む寮の裏山らしい。

 小さなやしろがあるそうだ。


 そんな所に隠れるなんて――ホントに【悪魔】なのか?――とうたがいたくなってくる。


 心配する菊花達には『確認するだけだ』と伝えていた。

 しかし、俺としては――早めに倒した方がいい――という考えだ。


 二人は割り切っているようだけれど、十代の女の子である。

 そこまで強くはないだろう。


(一刻も早く、解決すべきだ……)


 朔姫にはスマホで連絡をしておいた。

 正直、彼女は戦いの【神】ではない。


 【悪魔】に対する手段としては弱い気がする。


むしろ『神狩かみがり』である俺の……」


 ――おっと、つい声に出してしまった。


 慌てて口を押えると、神月さんが笑った。

 どうやら彼女には、俺の考えがお見通しらしい。


「神月さんは不安じゃないの?」


 今更、くのも可笑おかしな話だれけれど、俺は確認する。すると、


「一度……【神】や【悪魔】に対しては、言いたい事があるんです!」


 神月さんは強気に答えた。俺は朔姫の事を思い浮かべる。そして、


「確かに……」


 と同意した。まぁ、彼女の場合は言った所で――


(自分の都合のいいように解釈してしまうのだけれど……)



    ◇    ◇    ◇



 やがて寮へ着くと、菊花は【魔女】の格好へと着替えた。

 俺と神月さんは部屋にかばんを置いて来る。


「塩でも持って行った方がいいんだろうか?」


 そんな俺の台詞セリフに、


『そんなんで倒せたら、苦労しないわよ……』


 と桜花ちえりさん。それはそうだ。

 一方、神月さんは『かま』と『なた』と手に持っていた。


「どっちがいいですか?」


 とかれたので『なた』を選ぶ。

 これで【悪魔】を『れ』という事だろうか?


(まさかね……)


 俺達は神月さんの案内で寮の裏から山へと入る。

 以前、俺が神月さんを探すために入った道だ。


 草や木々の枝が伸び放題となっていた。

 どうやら、これを刈るための道具だったらしい。


 神月さんが邪魔な草木を手早く刈って行くので、俺もそれを真似まねした。

 やはり、島暮らしは頼もしい。


 島に住んでいるだけあって、菊花も山道は平気なようだ。

 いくつかの分かれ道をて、俺達はようややしろ辿たどり着く。


 正直『疲れた』というのが本音だ。

 このままやしろを調べてもいいのだけれど――


ひどい状況だな……」


 以前は島の『守り神』をまつって、こういう小さなやしろいくつもあったらしい。

 今となっては見る影もない。


 俺と神月さんは互いに視線を合わせ、うなずくと草刈りを始めた。

 寮で草刈りを散々さんざんったのでれたモノだ。


 やしろの周囲だけだったけれど、ぐに終わる。


「さて、どうするか……」


 壊すのは簡単だ――というか、すでに壊れているようなモノだ。

 ホントに【悪魔】が居るのかもうたがわしい。


 しかし、神月さんの話によると以前、朔姫が――この辺りから、変な気配を感じるのじゃ――と言っていたそうだ。


 取りえず、菊花に声を掛けてもらおう。

 なにか反応があるかも知れない。


 そう思って一旦、菊花達のいる場所まで戻ろうとした時だった。

 神月さんの場合は見上げているだけで、表情はそれほど変わらない。


 けれど、菊花の場合は明らかにおびえているようだ。

 明らかになにか居るのだろう。


 残念ながら、俺にはなにも見えなかった。


「えっと、なにか居る?」


 小声で神月さんに確認すると、


「よくわれの居場所が分かったなぁ――と言っています」


 少し声色を真似まねて教えてくれる。

 やっぱり、神月さんは可愛いなぁ――と思ってしまった。


「センパイ、危ないです!」


 とは菊花。そう言われても俺には分からない。


「いえ、私の彼氏です!」


 神月さんが唐突とうとつに声を上げる。


 恐らく、【悪魔】とやらが俺に対し――『真実の愛』の相手か?――みたいな事を問いただしているのだろう。


「いや、俺が彼女の運命の相手だ!」


 と言ってみる。これも作戦の一つなのだけれど――


(空中に向かって、俺はなにさけんでいるのだろう……)


 普通に恥ずかしくなってくる。


「センパイ……けてくださいっ!」


 とは菊花。【悪魔】が俺になにかしようとしたのだろうか?

 同時に神月さんの様子が変わる。


 菊花と桜花さんがおびえて尻餅を突いた。

 効果は絶大だ。


 かつて、良くないモノを『島から遠ざけた』という神月さんの【神気しんき】。

 恐らく【悪魔】にも効くはずだ。


(後で皆に謝らないと……)


「【悪魔】はどうなった?」


 俺の問いに、


やしろの中へ入ったようじゃぞ」


 と朔姫。いつの間にか追い付いたようだ。

 平然と歩いて現れる。


「ヒカル君の身体をうばうだなんて許せません!」


 とは神月さん。【悪魔】がなにか言ったようだ。

 相当、怒ってらっしゃる。


 彼女をなだめるべきなのだろうけど、今はやしろを探った方が良さそうだ。

 逃げた――という事は、今は【悪魔】にとって不利な状況なのだろう。


(いや、【悪魔】かすらもあやしい……)


 俺はやしろを壊さないように、扉を開けた。

 そして、中でうずくまっていたソレをまみ上げた。


「これが【悪魔】の正体?」

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