第6話 うむっ! 青春じゃのう……


 その日の夕飯は『焼き魚』に『肉じゃが』、『味噌汁』に『金平』と和食だった。

 正直、こういうのでいい。


「うむっ! よめに来て欲しいじゃと……」


 誰もなにも言っていないのに、


「困ったのじゃ♡」


 朔姫さくひめは両手を頬に当て、恥じらう仕草をする。


 ――どうあつかうのが正しいのだろう?


 結局、その後は俺の話ばかりしたような気がする。神月かみつきさんはあまり自分の事を話したくないようだったし、朔姫に関しては言っている意味が分からない。


 食事はとどこおりなく終わり、その後はお風呂の説明を改めて聞いた。

 基本的にお風呂に入りたい場合はボイラーでお湯を沸かす必要があるそうだ。


 時間が掛かるので面倒なのと光熱費も発生する。

 今は温かくなったので、シャワーだけを使っているそうだ。


 この口振りから二人は長く、この寮に住んでいるらしい。

 お互いに使用する時間帯を決めると、今度は『掃除』当番を決めた。


 更に『ゴミ出し』『トイレ掃除』と分担が決まって行く。

 食費を節約するため、食事は今日のように一緒に食べる事にした。


 最初はどうなるのかと思ったけれど、二人は俺を受け入れてくれたようだ。

 ただ想定していたよりも、面倒な事に巻き込まれた気もする。


(けれど、これはこれで楽しそうだ……)


 問題があるとすれば、俺の財布事情だろう。

 校則でバイトは禁止されていないけれど、学校ヘは報告しなければならない。


 また島であるため、学生が出来るバイトは実質、限られていた。

 基本的に夏休みまで待ち、短期のバイトを探すしかない。


(それはそれで、競争になりそうだ……)


 こういう場合、余所者よそものはコネがないので苦労する。



    ◇    ◇    ◇



 ――翌日の朝――


 朝食のパンを分けてもらい、神月さん達と一緒に食べた。

 お金がない事を相談すると、


「うむっ! いいバイトがあれば紹介してやるのじゃ……」


 朔姫は言ってくれたけれど、当分は節約が必要だ。


「ありがとう、俺もネットで探してみるよ……」


 と返す。しかし、そう上手くは行かなかった。

 午前中に探してみたのだけれど、やはり学生向けのバイトは無いようだ。


 お昼は俺が『うどん』を用意した。

 今日は暑いので、冷たい方がいいだろう。


 出汁だしを取って『麺つゆ』を割る。後は薬味を用意するだけだ。

 朔姫が冷蔵庫にある残り物を出してくれた。


「バイトは見付かりそうかのう?」


 と朔姫の問いに――難しいよ――と俺は首を横に振る。

 なにかいいバイトがないか、改めて二人に聞いてみた。


 けれど、心当たりは無いようだ。

 二人共、お金には困っていないので、そんなモノだろう。


「新聞配達ではダメなのかのう?」


 朔姫の言葉に――そういうのは年寄がすでにやってるよ――と俺は返す。

 そもそも今時、新聞を取っている家は少ない。


「では、ネットで動画配信じゃな!」


 と朔姫。俺は首を横に振ると、


「ああいうのは仲間と一緒に毎日更新しないと……」


 そこまで稼げないよ――と答えた。

 それに学校へ報告するのか微妙びみょうな所だ。


 むしろ、下手に炎上すると学校にも迷惑が掛かる可能性があった。

 教師の受けは、あまり良くないだろう。


「では、絵や文章を投稿するのはどうじゃ?」


 そう言って朔姫は――ずずず――とお茶をすすった。


「出来たら、相談してないよ」


 俺は苦笑する。多分、その時間でバイトをした方がもうかるだろう。

 基本はコンビニでバイトなのだろうけど、島では数が少ない。


 更に四月が終わったばかりなので、時期も悪い。

 すでにバイトの募集は終わっていた。


 やはり夏休みまで待って、短期のバイトをするしかない。

 落ち込んでいると――クイクイ――神月さんが俺のそでを引っ張った。


なに? 神月さん……」


 いい案があるのだろうか?

 俺が彼女を見詰めると、少し恥ずかしそうにした後、


「自給自足をするのはどうかしら?」


 と聞いてくる。なるほど、お金が掛かるのは食費だ。

 悪くない手かも知れない。


「山で山菜を取って、海で釣りをすればいいのか……」


 庭に畑を作ってもいいのだろうか?――正直、その発想はなかった。

 いや、折角せっかく島に来たのだから、もっと島の暮らしを楽しむべきだ。


「ありがとう、神月さん」


 俺は神月さんの手を握った。

 すると、彼女は顔を赤くしてうつむいてしまう。


 俺はいきおいで手を握った事を反省した。

 なんだか、急に俺まで恥ずかしくなる。


「あ、あのさ……」


 俺は手を離すと、頬をきながら、


「この島の事、教えてもらってもいいかな?」


 島に来たばかりの俺は、山や海の事には詳しくない。

 いや、それは言い訳だ。


 GWゴールデンウィーク中なので、クラスメイトに声を掛ける手もあった。

 きっと教えてくれる奴もいるだろう。


 それでも、神月さんにお願いしたのは下心があったからだ。

 彼女の事を知りたい。仲良くなりたい。


 無意識にそんな事を考えていたのだろう。

 だからさきに、彼女にお願いしてしまったのだ。


 神月さんは戸惑いつつも、


「私で……いいの?」


 と聞いてくる。


「神月さんがいいんだ!」


 俺が声を上げると、彼女は少しだけ嬉しそうにした。

 そして、そんな俺達の様子を見て、


「うむっ! 青春じゃのう……」


 と朔姫は顔をニヤニヤとさせるのだった。

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