第1話 「大騒動」



いつも何かが頭の片隅かたすみに引っかかってた。

別に私生活で不便してるわけじゃない。

母が2年前に他界した時にたくさんの遺産が手もとに入ったから金銭面で苦労無し。

人間関係も普通、友人がいてクラスメイトとの仲も普通。

苦労も不便も無いけど、何かが足りない。

今日もそんな感情を抱えながら、あと少ししか通うことのない学校へ向かう。



教室に着くと、友人の1人がすぐこちらへ向かって歩いて来た。


「紅、おはよ」

美沙みさじゃん、何か用でも?』

「今日も相変わらず私への対応雑じゃん」


席につきながらいつものようなやりとりを続けてると


「おはよ〜」

ことおは』


後ろの席の友人が2人揃い、教室内もだいぶにぎやかになってきた。


窓際の席は風通しも良く、いつもより少しざわついてるクラスを不思議に思っているとHRより少し早い時刻にも関わらず担任が来た。


いつもであれば空気の読めない担任がデカイ声で意気揚々と挨拶をしながら入ってくるのだが、今日はキモいぐらいに静かだ。


クラスのみんなもさすがに何かを感じ取ったのか、自然と静かになりそれぞれ席へと着く。


「…皆揃ってるな?えー、このクラスの1人である齋藤美穂さいとうみほさんだが…昨日学校から下校した姿を最後に消息を絶っている」


まさかそんな話が飛び出てくるなんて思いもよらなかったのもあり、教室内は軽くパニックだ。


美穂が親に黙ってどっか行くなんてある?

家出だったり?

もしかして誘拐じゃない?


真面目で平凡というのが美穂の印象だ。

非行に走ったり家出なんてまずありえないといことは誰もが思っている。


何人かがスマホを操作しているところを見ると、きっと美穂にメッセージを送っているのであろう。


その後、担任が今日はこのクラスは下校することになったと告げた。

担任が出ていくとクラス内はさらに騒がしくなる。


「ねえ琴、美穂が家出なんてすると思う?」

「無いでしょ。…異能者いのうしゃが、関わってるのかなぁ?」


ざわつくクラス


きっと普通なら心配したりするんだろうけど、私別になんとも思わない。

帰っていいと言われたので鞄を持ち琴と美沙に一言告げる。


『帰るね』


相変わらずだとでも言うような少し呆れた表情の2人を残してさっさと歩いていく。



登校してすぐの下校となり、思ったよりも今日の予定が何もない。

家に帰っても特にやることもなく、一度自宅に戻り着替えてからリュックを背負いまた外へ


適当に歩いていると少し先に公園が見えたので、そこのベンチへ行き一旦座る。


[何してる?]

[困ってる?困ってる?]


どこからか吹いてきた風と共に、楽しそうな声が耳に入ってきた。


老若男女の様々な声が風に乗って聞こえてくるから勝手に風の声だと思っているが、実際のところ正体不明だ。


『楽しそうだね』

[来るよ]

[2人来るよ]


誰が来るんだよ


ザワザワと背筋を嫌なものが這っていく。

それと同時に確信する。

クラスを騒がせた事件の犯人が近くにいるのだろう。

私は別に美穂に関する事件に興味はないし、それについて知りたいとも思わない。


[後ろにいるよ]


2人分の足音が聞こえてくる。


関わりたくない、絶対後ろを向いてたまるもんか。


今関わるのは非常によろしくないので、ベンチから立ち上がり出口へ向かう。


「ねぇ!」


かなりデカイ声で呼びかけてきやがった。

だけど、ここで反応すれば完全アウトだ。


名前を呼ばれたわけでもなければ顔見知りでもないので、完全無視で歩き去ろうと足を進める。





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