11_血の臭い

 心に穴が空いたような、そんな日々が続いた。


 この穴を何で埋め合わせればいいのだろう。

  

 いつか、時間が経てば穴は塞がって行くのだろうか。


 結婚式の招待状が届いた。数日後に教会で、桐原とあの男の結婚式が開かれる。


 正直、行くことははばかられた。


 結婚式のことは知らないほうが良かったかもしれない。


 招待されたからには、参加したほうがいいよな。


 ……行こう。


 行って、彼女の幸せな時間を祝おう。


 そして、あっという間に結婚式当日になった。部屋の棚からスーツを取り出し、着替えるとえりを整える。


 よし、行くか。


 電車が走り抜ける音がする。電車に揺られながら、鳶野は、なんとなくいつもと変わらない外の光景を眺めていた。


 すると、電車がいきなり止まった。


 社内でアナウンスが流れる。どうやら、人身事故で、緊急停止しているようだった。


 大丈夫か。早く動けばいいのだが。


 鳶野は腕時計の時間を見た。


 まだ、時間はある。焦ったところで仕方がない。


 動き出すのを気長にまとう。


 緊急停車した電車は、それから30分後、動き出した。ようやく電車が目的の駅までつくと、扉が開いた。


 やばい、予想以上に時間が、かかってしまった。


 これは、遅れてしまうかもしれない。


 駅から結婚式会場までは、まだ距離があった。急いで結婚式会場に向かう。


 ここが、結婚式会場か。


 鳶野は、結婚式会場の教会を眺めた。


 ガーンガーンガーン。


 風に揺られ、教会の鐘が不気味に音を立てる。鐘の音以外は、音はしない。静寂せいじゃくに包まれている。晴れ晴れしい日だというのに、空は曇り、太陽は雲に隠れ、薄っすらと輝いていた。

 

 嫌な予感がする。

 

 なんだ、この感じは。


 恐る恐る鳶野は、教会の扉に手をかけた。


 この先に、桐原たちがいる……。


 教会の扉を、開ける。


 すると、凄まじい臭いが鳶野の鼻をさす。


 血の匂いだ。


 鳶野は、教会の中を見渡した。


「な、何があったんだ。私が来る前に」


 彼の視界には、思わず目を背けたくなるような残酷な光景が広がっていた。至るところに何人か倒れており、床に真っ赤な血液が流れている。


 体を切り刻まれている。


 何者かに襲われた。


 おそらく、逃げる間もなく一瞬でやられている。


 こんなことが、できるのはダーカーか。


 ふと、桐原のことを思い出す。


 鳶野は、目を瞑った。最悪な光景が、頭をよぎる。


 もう嫌だ。これ以上、残酷な現実を見るのは。

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