17_思い出

 紅園は、禍々まがまがしい光を宿した鎌をダーカーのコアに振り下ろした。彼女の全身全霊ぜんしんぜんれいを込めた一撃が、ダーカーのコアに炸裂さくれつし、すさまじい轟音ごうおんが響き渡る。 


「朱音……」


 悲しげな出雲の声が響く。

 紅園の中で、出雲との日々が頭の中に思い出される。彼女の瞳から、涙が溢れ、風に流されていく。


 ーーー


 両親をダーカーに殺された当初は、絶えず紅園は、悲しく寂しい日々を過ごしていた。近くに、いるのが当たり前。そう思っていた。当たり前過ぎて、失うことを考えることすらしてこなかった。時々、彼女の脳内に、ダーカーが両親を襲った日の事が何度も再生される。その度に、胸が引き裂かれそうな気持ちに襲われた。


 彼女は、暗い過去が思い出されて、現実と向き合うことが辛く感じた時は、決まってマンションのベランダから夜空に浮かぶ星々を眺め気持ちを落ち着かせていた。


「大丈夫、朱音?慣れない日々だけど、きっと時間が解決してくれるわ」


 出雲は、寂しげな表情を浮かべ夜空をぼんやり眺める紅園を心配して声をかけた。


「私は、なんのために生きているのかなって考えてるの。つらくて、しんどくて、逃げ出したくて、そんな思いをしてまで私は、生き続ける意味があるのかな」


「私は、朱音がいなくなっちゃたら嫌かな。生きる意味なんて考えるだけ無駄よ。だって、簡単にできたり失ったりするものだから」


「じゃあ、この辛い気持ちをどうしたらいいの?」


 紅園は、胸に両手をあて、強く握りしめる。


「時間がきっと解決してくれるわ。どんなものだって永遠に続くことはありえない。いつか終わりがくる。朱音のその気持ちも次第に薄れていく」


 出雲は、優しい目つきで紅園に話しかけた。だけど、紅園は、そんな彼女の言葉に反発した。


「どうしてそんなことが分かるの!佳織さんに、私の気持ちなんて分かるはずがない!」


 すると、出雲は、笑顔を浮かべて一言こう言った。


「私も同じだから。小さい時、ダーカーに両親の命を奪われてとてもつらかった」

  

 紅園は、目を見開き驚くと、下を見て言った。


「ごめんなさい。私、佳織さんも辛い思いをしていたのに。決めつけて、感情の赴くままに自分勝手なことを言ってしまって」


 出雲は、首を横に振った。


「佳織でいいよ。自分の辛いしんどくて気持ちをどこに向けたらいいのか迷っているなら、私に、その気持ちをぶつけて。何度だって聞くわ。だから、一緒にこれから頑張りましょう。約束ね」


 出雲は、紅園に小指を前に突き出した。


「うん、分かったわ。佳織。頑張ってみる」


 紅園も小指を出し、彼女の小指に巻きつける。二人はお互いの過去を知り、強い友情が芽生えた。何より、同じ境遇きょうぐうの相手が側にいてくれて、苦しんでいるのは一人ではないと感じることができた。


 ーーー


 今まで歩んできた出雲との日々が、どうしようもなく紅園の頭の中を駆け巡った。


 本当なら、出雲との日々を取り戻したい。だけど、やりたいこととやらなければならないことは違うから、私は、影隠師としてあなたのコアを破壊する。


 紅園は、鎌を強く握りしめ、ダーカーのコアを破壊しようと渾身こんしんの力を込める。


「さよなら……佳織」


 彼女がそう呟くと、ダーカーのコアは罅が入り爆風を伴いながら、激しく砕け散る。コアが砕け散ると同時に、ダーカーの巨体は光の粒子りゅうしとなっていつの間にか晴れ渡った空に消えていく。


 空へと消えていく神々こうごうしい光を、見つめる紅園。その近くで、ダーカーの肉片と思われる影が怪しげにうごめく。紅園は、光の粒子に気を取られ、影の存在に気づいてはいなかった。





 



 

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