12_覚醒した力

 紅園は、切断されたダーカーの頭が地面に転がっているのを見て、黒瀬が短剣でダーカーの首を切り裂いたのだと理解した。


「その剣、影の力を感じる。あなたは、影力えいりょくを使えたの?」


 紅園は、黒瀬の力を垣間見かいまみて、驚きの表情を浮かべながら彼に問いかける。


「僕も正直分からないんだ。変な空間で変な人物に話しかけられて、気付いたときには、力が使えるようになっていた」


 黒瀬は、右手を頭にやり、紅園に答えた。


「なにそれ、そんな話初めて聞いたわ。それが真実だとしても、簡単に影力を使えるもんじゃない」


 紅園が話していると、黒瀬の後ろから甲高いダーカーの叫び声がとどろいた。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!」


 甲高いダーカーの叫び声を聞いても、黒瀬は冷静にゆっくりとダーカーの方を見た。


「やっぱり、さっきの攻撃じゃ、倒せなかったか」

 

 黒瀬は、影力が目覚め、不思議とダーカーに対する恐怖がなくなっていた。影力で作り出した短剣を片手にダーカーの方へ歩き出す。


「待って、あなたじゃ、あのダーカーは倒せないと思う。いくらなんでも一人じゃ無謀むぼうすぎる。それにあのダーカーは……」


「あのダーカーは、君にとって大切な人なんだね。さっき、ダーカーと話していたのを見てた」


 黒瀬は立ち止まると、言った。


「ええ、私をダーカーから救ってくれた人なの。影隠師になったのもあの人がきっかけ」


「どうしてあんな変わり果てた姿に?」


「分からない。彼女は、影の世界に連れて行かれたそこで、ダーカーに姿を変えられたのかもしれない」


「酷い話だな……」


 黒瀬が、話している最中、ダーカーの腕が伸びて彼の顔面にものすごい勢いで直進する。腕の先には、ナイフのように鋭く変形した手がついている。一秒もかからない間に、彼の顔面を貫ける距離まで接近した。


「遅い」


 黒瀬には、ダーカーの攻撃がゆっくりと直進していくように見えた。彼の中に眠っていた力が、身体能力を飛躍的ひやくてきに向上させていた。


 鋭く尖ったダーカーの手がたどり着く前に、黒瀬は咄嗟とっさに身体を動かして回避すると、持っていた短剣を振る。


「あの攻撃をかわした……」


 紅園は、黒瀬の実力を目の当たりにして呟いた。


 ダーカーの手は、黒瀬の横を勢いよく通り過ぎた直後、黒瀬の短剣によって切断され地面に落下する。


「朱音、ごめん。僕は生き残るため、このダーカーを倒さなければならない」


 黒瀬はまっすぐ、ダーカーの方を見ると短剣を構える。そんな黒瀬をダーカーは大きな口から白い息を吐きながら悠然ゆうぜんと眺めていた。




 


  

 

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