11_ダーカーの罠

 あの時、両親をダーカーに殺された時と同じね。


 両親を失い、出雲と出会った時の事を思い出す紅園。闇に沈みながら、迫りくるダーカーを眺める。


 真っ二つに、割れたダーカーの頭からは、唾液がこぼれ落ち、強い酸性で地面を溶かす。


 臭そうな白い息を吐き、紅園を食そうと近づく。


 地面の影に身体が浸っていて動けない。もう出雲は、いない。あの時みたいに、出雲が助けに来てくれる訳じゃない。私だけでなんとかしないと。


 紅園が、身体に力を入れ地面の影から抜け出そうとした時、聞き覚えのある声が彼女の耳に入る。


「私なら、ここにいるよ。朱音」


 何者かが、紅園の気持ちを読んで言葉をかけた。


「この声は、まさか、そんなはずが……だって、彼女は影の世界に連れていかれたんだから」

 

 紅園は、動揺しつつ顔を上げ、声のした方を向いた。

 

「佳織さん……」


 紅園は、視線の先の衝撃的な光景に驚愕の表情を浮かべる。彼女の視線の先には、出雲佳織がいた。だけど、その姿は、紅園が知る以前の出雲ではなかった。


 ダーカーの身体の一部が変形し、出雲の顔が浮かび上がっていた。出雲は、不気味な笑顔を浮かべて紅園を見つめている。


「な、なんで……何が起こっているの」


「朱音、心配しないで。私は、あなたの知る出雲佳織よ。私達は、一つになれる。だから、あなたのその頭を食わせて」


 出雲との思わぬ再会と言葉に、紅園は冷静さを失い、過呼吸になる。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」


 冷静さを失った彼女は、目の前の出来事を理解することで精一杯せいいっぱいで、ダーカーから逃げ出す余裕がなかった。


 彼女がダーカーに。そんな、そんなことって。佳織さんは、私のあこがれ。私を救ってくれた救世主きゅうせいしゅなのに、こんな出会い方ってあんまりよ。


「朱音、死んで」


 ダーカーは、紅園にそう一言言うと、混乱している朱音に頭の巨大な口をすさまじい速度で接近させる。


 死ぬ。


 思わず、紅園が目を閉じる。


「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!」


 目を閉じた直後、苦しそうなダーカーの叫びが周囲にとどろいた。そして、黒瀬の声がした。


「朱音、しっかりしろ!動揺するなんて、君らしくないよ」


 恐る恐る、紅園が目を開けると、ダーカーの恐ろしげな頭部が切断され地面に転がっている。その近くには、短剣を片手に持つ黒瀬が立っていた。





 

 


 


 

 

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