07_試練の始まり

「光の球に近づくということがどういうことか分かったんじゃないか。どうだ。怖気づいたか」


 玉座に座る人物は、ほくそ笑みながら黒瀬に言った。


「僕には……まだ、生きてやらなければならないことがある。救いたい人がいる。思いを伝えたい人がいる。ここで、死ぬ訳にはいかない。やるさ。光の球にこの手で触れてやる!」


 黒瀬は、玉座に座る人物の様子にむっとして答えた。だけど、黒瀬の手は、恐怖で震えていた。


「いっちょ前のことを言っておきながら、身体は、震えているではないか。まあ、いい。挑むがいい。光の球に触れて自らの過去を乗り越えてみろ」


「ああ!」


 黒瀬は、まっすぐ光の球を見ると、拳を握りしめ一歩ずつ踏み出し、過去の痛みの中を突き進む。


 この試練を乗り越えてみせる。そして、必ず朱音を一花を救い出す。


 一歩歩み出すたびに、今まで感じた痛みが止めどなく黒瀬の身体を駆け巡っていく。気を抜かば、心があっという間に折れてしまう程の痛みだ。


 光の球に近づくに連れて、痛みが増していく。まるで、過去の痛みが波となって押し寄せて来るように。

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