フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~

はらくろ

第一章 二人の母

プロローグその1

「悪魔めっ! こ、殺さないだけありがたいと思え!」


 そんな酷い言葉を投げつけられながら、何かに叩きつけられたような物凄い衝撃を受ける。

 シーツに包まれたまま、この物語の主人公である彼は、馬に乗る男に投げ捨てられてしまった。

 捨て台詞を残したまま、その男は馬を走らせて逃げ帰っていく。


 多くの肉食獣や魔獣と呼ばれる凶暴な魔力を内包する獣までいる場所。

 ここは人間が寄り付かないほど危険な森の中。

 彼はそんな危険な場所に捨てられてしまった。

 幸い、柔らかなシーツにぐるぐる巻きにされていたことと、打ち所がよかったこともあり、大した怪我はなかったようだ。

 彼は生まれてまだ数か月。

 名前はまだない。

 やっと寝返りできる程度の体力しかない。


 彼は、全身の力を振り絞って数回寝返りを打ってみた。

 すると、シーツがぱらっと解けて外の景色が見えてきた。

 やっと息苦しさから解放された彼は、深呼吸をしてみた。

 部屋の中とは違い、生命力に溢れた気持ちのいい呼吸ができる。

 それと同時に、目の前にそびえ立つ樹齢数百年はありそうな大樹が彼の視界に入ってきた。


「僕、捨てられちゃったのかな? でも、これからどうすればいいんだろう。歩けないし……」


 『きゅるるる』と彼のお腹が可愛らしく鳴った。

 無理に動いたのと、まだ昼のおっぱいをもらっていなかったせいもあるだろう。

 彼を空腹感が襲ってくる。


「おなか、すいたな……」


 こんなに冷静でいられるのも、彼の異常性なのかもしれない。

 だがもう動けない。

 匍匐前進すらできる腕力もないのだ。

 かといって周りに落ちている枯れ葉を食べることなどできるわけもない。


 過酷な森の中では、この先どうしようかと悩む暇など与えてはくれなかったようだ。

 かさりと何かが枯草を踏んだような音が聞こえる。

 つんと鼻をつく獣臭さと同時に、複数の獣の唸り声が聞こえてきたのだ。


「い、いきなりクライマックスですか? 冗談じゃないですよ。お腹だってすいてるのに。っていうか、僕が捕食されちゃう側? ちょ、ちょっとまってってばっ! 美味しくないよ? おしっこちびっちゃってるし。 臭いからほら、あっちってってばっ」


 飢えた獣に言葉が通じるわけがない。

 いや、元々獣と話せるわけがない。

 徐々に近づいてくる獣臭さとその唸り声。


「……もうだめかもしんない」


 彼は絶望感に包まれてしまった。


 ▼


 事の始まりは、こんな感じ。

 彼は生まれつき変だった。

 一か月もしない間に、しゃべれるようになってしまったのだ。

 それは彼がまだ成熟していない声帯を無理やり使っただけのこと。

 普通はそんなことはできないはずなのだが、彼には記憶の奥にある知識があったのだ。

 それを考えられるほどの知能の高さ。

 それは傍から見たら、気持ち悪いほど異常だったのだ。

 彼の母親と侍女のクレアーナは彼がおかしいことよりも、成長の早さを喜んでくれた。

 会話できること自体おかしいのだろうが、それを受け入れてしまった二人。


 おしめを湿らせてしまうとこんな感じ。


「クレアーナ」

「どうしました? 坊ちゃま」

「おしっこしちゃった」

「あらあら。今、綺麗にしてあげますからね」


 お腹が空いたら泣くよりも先に。


「お腹すいたんだけど」

「あらあら。今、奥様を呼んできますね」

「ごめんね、クレアーナ」


 と、こんな感じだった。

 傍から見たら、異様な光景だろう。

 生後四月は経っていない赤子が不快を言葉で訴えて、侍女が世話をしてくれている。

 常識から考えたら、気味の悪いものだろう。

 おしめの交換が終わり、クレアーナは彼の頭を撫でてくれている。

 それはとても気持ちがよく、クレアーナを見ると彼女も嬉しそうにしている。


 そんな日常が壊れる日がやってきた。

 乱暴にドアが開けられた。

 クレアーナの手がびくっと跳ね上がる。

 彼女の表情は何かに怯えているようにも思えた。


「だから忌み子はすぐに処分しろと言ったのだ。双子が産まれたなどとは、我が家の恥以外何物でもないのだ。お前が懇願するからこれまで見ないふりをしていたが……」


 やたらと物騒な言葉を発しながら中年の男が入ってきた。

 眉間に皺を寄せ、醜悪な顔を歪ませながらその男は彼を覗き込んだ。

 話の内容から、この男が彼の父親なのだろう。

 怖かった。

 よく『物心つく前の子供は人の本質を見抜くことがある』と言われている。

 それは、その対象が自分にとって善か悪かを本能的に見抜いてしまうのかもしれない。

 彼の身体がその男を拒絶したかのように震え始めてしまう。

 これだけの敵意を向けてくるのだ。

 普通の赤子であれば、きっと泣いてしまうことだろう。

 クレアーナが彼の身の危険を感じたのか、彼を抱き上げて部屋の隅へ逃げてしまう。


「あなた、やめてください。この子は生きるのに一生懸命なのです。双子で産まれたからといって何が悪いのですか?」


 彼の母が男の足にすがりつくように、男を止めようとしていた。

 遠目でみると、男の全身が見えてくる。

 それは醜悪に太った、醜い豚のようにも思える。


「うるさい。双子の兄はこの国では忌み子なのだ。国を亡ぼすと昔から言われているのだ。我が家から産まれたと知られたら、兄に何を言われるか。我の立場も考えろっ!」

「ですが……」

「もう勘弁ならん。この場で斬り殺してくれる」

「やめてっ!」


 男は腰にあった長剣を抜いた。

 彼の母は、彼が殺されてしまうと思ったのだろう。

 すがりついていた腕に精いっぱいの力を込めて、男を止めようとする。

 男は母から逃れようと、母を蹴り飛ばしていた。

 彼を抱きしめているクレアーナの手がぶるぶると震えていた。

 彼は母が酷い扱いを受けているのにかちんときてきまった。

 だから普段気を付けていたことをすっかり忘れてしまったのである。


「誰ですか? この醜悪な豚は? 豚が人間の言葉を使うなんて信じられません。優しいクレアーナとママが怖がっているではないですか。美しいママを蹴るだなんて、許せません。謝りなさい。『ぶひぃ』と鳴いて謝るのです」

「…………」


 男は固まっていた。

 それはそうだろう。

 生まれて四月も経っていない赤子が悪態をついたのだ。

 幼少の頃から王家の一族というだけで、例え見た目が悪くとも、容姿を褒められ、美しいと称えられていたのだ。

 男が聞いた、初めての言葉。

 『醜悪な豚』、その言葉を聞いた男は冷や汗をかいた。

 我に返った男が発した言葉は、彼も知らない言葉が混ざっていた。


「こ、この美しい我に何を言う? い、忌み子の上に悪魔憑きかっ? こんなものの血で屋敷を汚すわけにはいかん」


 男が言った『悪魔憑き』とはどういう意味だろうか。

 男は腰に長剣を収めると、彼が寝ていたところからシーツを剥ぎ取り、唖然としている彼の母を振りほどいた。

 クレアーナの前に立つと、彼を彼女から引きはがした。

 シーツで彼を包むと、部屋から出ていく。


「あなた、やめて。お願い……」

「旦那様、やめてください……」

「大丈夫です。ママ、クレアーナ。いつか絶対に会いに来ます。こんな豚に負けないでください」


 二人の懇願を無視して男は屋敷の外へ出ていく。

 厩舎で馬にまたがり、城外へ馬を走らせた。

 城下を抜け、人里が遠のいていく。


 鬱蒼とした森の中へ入ると大樹の下へ包んだシーツごと彼を放り投げた。

 馬の高さから放り投げられたのだが、大樹の周りの枯れ葉とシーツの助けもあり、彼は大けがをするまでには至らなかったというわけなのだ。


 ▼


 こんな経緯で彼は捨てられてしまったのだ。

 こんな緊張感漂う場面でも彼のお腹は鳴ってしまう。

 お腹がへった。

 いやそれどころじゃないだろう。

 お腹を減らしたハイエナのような獣が数頭、こちらを睨んでよだれを垂らして一歩、また一歩と近づいてい来る。


 絶体絶命。


 今の彼を現す一番適した言葉だろう。

 仕方なく彼は、最後の力を振り絞って。


 両手を合わせて祈った。


「(来世は平和に暮らせますように。可愛い幼馴染がいたりしたら嬉しいな。綺麗なママだったな。またあんなママのところに生まれたいな……)」


 彼は諦めることに決めたのだった。


 そんなときだった。

 獣たちの唸り声が止まった。

 悲鳴を上げるように鳴きながら逃げて行ってしまったのだ。


『なんでしょう? 赤ちゃんのような匂いがするわ』


 女性の声みたいだ。

 その声の方向から、枯れ葉を踏むような足音が聞こえてくる。

 助かった。

 彼はそう思った。

 かといって助けを求めるわけにはいかない。

 あの男のように、気味悪がられてしまったら元も子もないのだ。


「……ふぇっ」


 警戒されないように、泣いてるふりをしてみた。


『あら? 泣き声が聞こえるわ。こっちみたいね』


 足音が二人分に聞こえる。

 近い。

 足音が止まった。

 最後の力を振り絞り、寝返りを打ってうつ伏せから仰向けになってみる。

 その女性と目が合った。


「…………(終わった。僕の人生これまでだ……)」 


 彼の目に映ったのは、口元から伸びていた長い牙。

 彼の知識にはない、先ほどの獣よりも更に大きな野犬に見える。

 彼は目を瞑った。

 心の中で手を合わせた。

 彼の記憶の奥にある知識に、こんなとき手を合わせるという偏ったものがそうさせたのだろう。

 十字を切らないで手を合わせるイメージだったのが、彼の知識にそういう習慣があったということなのだろうか。


 とにかく、彼はすべてを諦めた。


 鼻先でごろんと転がされた。

 そのとき彼のおなかが鳴ってしまう。

 きゅるるる…

 こんな状況でも鳴る自分の腹に恨めしさを感じた。


 襟元が咥えられて浮遊感を感じた。

 その野犬はそのまま歩いていく。

 森の奥へ奥へと進んでいくようだ。


「(このまま巣まで運んで子犬の餌にでもされちゃうのかな。お願いだから苦しまないようにしてほしい)」


 そんなことを思いながら恐怖から目を開けられないまま、なすがままにするしかなかった。


 枯れ葉の積まれたところにその野犬は座り込んだ。

 あぁ、これが最後か、と彼は思ったのだが。


『さっきの音、きっとおなかがすいてるのね。でもどうしましょう。あ、もしかしたらまだ出るかもしれないわ』


 おかしい、なぜかこの野犬の言っていることがわかってしまう。

 彼を食べるようなつもりはないようだ。

 それどころか、彼がおなかをすかせていることに困っているようにも取れる。

 またちょっとした浮遊感を感じると、目の前から少しだけいい匂いがしてくる。

 恐る恐る目を開けると、彼の目に入ってきたのはその野犬のお腹あたり。

 人間とは違うのだが、目の前にあるのは慣れ親しんだいつものあれ。

 背に腹は替えられず、それを口に含んで吸いついた。

 そこから出てくる、甘くて口の中に広がる濃厚な味。

 無我夢中で彼は吸い続ける。


『死んだあの子にそっくりね。まるであの子が帰ってきたみたい……』


 この野犬も子供を亡くしているのだろう。

 だが、そんなことより、今までに味わったことのない旨み。

 『五臓六腑に染み渡る』そんなフレーズが頭に浮かんだ。

 彼を産んでくれた母には悪いが、これほどの母乳には負けるだろう。

 そう思ってしまうほど、一心不乱に吸い続けたのだった。


 おなかいっぱいになって、ころんと寝っ転がってしまう。

 野犬は彼の顔を優しく舐めてくれていた。

 それは彼の母が額にキスをしてくれた感触によく似ていた。

 野犬とは思えないいい匂い。

 外の寒さからは思えないほどの温かさ。

 おなかがいっぱいになった安心感から、眠くなってしまって意識を手放してしまった。


 ▼


 彼が目を覚ますと、外は雪景色だった。

 というか、ここは外なのだが、全く寒さを感じない。

 暖かな少し緑がかった毛に包まれているせいか、外の寒さが全く気にならない。

 相変わらずのいい匂い。

 恐ろしく鋭い牙を持つ口元から、柔らかい舌が彼の顔を優しく撫でてくれているのだ。

 その上から見える、優し気な眼差し。

 最初思っていた恐怖感は、今は全く感じられなかった。

 彼女(と言っていいのかわからないが)の口元から感じる息も、いい匂いに思えてくる。

 まるで昨日までと同じ、母に抱かれているかのような安心感があった。


『起きたみたいね。おなかいっぱいになったのかしら? 人間の赤ちゃんにわたしのを与えても、大丈夫だったのかしら?』


 彼は恐る恐る返事をすることにした。

 あれだけの美味しい食事を与えてもらったのだ。

 感謝の言葉を返さないわけにいかないのだった。


「はい。おいしかったです」

『えっ? わたしの言っていることがわかるの?』

「はい。なぜかわかります」

『でもおかしいわね。亡くなったあの子も、こんな赤ちゃんだったのだけれど、話すことはできなかったのよ?』

「僕はおかしいみたいです。悪魔憑きだって捨てられてしまったので……」

『『悪魔付き』言葉は聞いたことはあるのだけれど、どういう意味だったかしら? ……大変だったわね。わたしの赤ちゃんも、少し前にね、病気で死んでしまったの。悲しくて、何も考えられなくて。そんなとき、あなたを見つけたの。久しぶりにおっぱいをあげたときね、あの子が帰ってきたみたいで、ちょっとだけ嬉しかったのよ』

「僕ももう駄目だと思ったんです」

『食べられちゃうと思った?』

「は、はい」

『馬鹿ね。そんな野蛮な犬と一緒にしないでちょうだい』

「はい」

『わたしはフェルリーダ。リーダって呼んでね。あなた、お名前は?』

「僕には名前がありません。実は──」


 彼はあの家であったことを彼女に話した。

 彼は自分の身にあったことをなぜか目の前の優しい彼女に話してしまうのだった。

 話しやすかった。

 話すことで、胸の内をぶちまけることで、なんとなく気持ちが楽になっていくのを感じる。

 彼が話し終わるまで、彼女はしっかり聞いてくれたのだ。


『そう。それは残酷な話ね。双子のお兄ちゃんに産まれたというだけで、そんな扱いを受けてしまうのね。なんという愚かな行為でしょう……』

「僕も、あんな醜い豚の血が流れているかと思うと、ぞっとします……」

『あらあら、言うわね。でも、どうしましょう。そのまま戻ったとしても、どうされるかわからないわね。……おばさんと一緒にくる?』

「いいんですか?」

『えぇ。まだおっぱいも出るみたいだし。あの子が帰ってきたみたいで、わたしも嬉しいのよ。でも、名前がないと不便ね。死んだあの子と同じ名前で呼んでもいいかしら?』

「はい」

『そう。あなたは、今日からフェムルードよ。ルードと呼ばせてもらうわ。人間だけどわたしの息子。それでいいかしら?』

「お母さん……」

『ありがとう。またそんな風に呼ばれるなんて、思ってもみなかったわ……』


 ▼


 ルードと名づけられた彼は、新しい母、リーダに咥えられて彼女の住処へ運んでもらった。

 そこは犬の住処とは思えないほど文明的で、清潔な環境だった。

 母ひとりしか住んでいないように思えるのだが、暖かな温泉が湧き出ていて雨露が凌げるような屋根がある住処だった。

 この母は物凄く頭がいいのだろう。

 そう思えてしまうほど、あちこちに手が加えられていた。

 家と思われる場所には、滑らかに削られた床板が存在している。

 岩の積まれた露天風呂のような場所もある。

 湧き水と源泉から引かれた湯が混ざっていて、温かく温度調整がされていた。

 母に咥えられて、肌着を脱がしてもらうと、牙があたらないように甘噛みされて湯へ連れて行ってもらう。

 浅く作られたそこは、ルードが沈むような深さではなく、寒い冬でも温まれるくらいに快適な場所になっていた。

 こうした習慣があったから、きっと獣臭さが全くなかったのだろう。

 どう考えてもただの犬には見えない。

 まるで人間以上の知的な種族に思えてくるのだ。

 湯から上がると、どこから集めてきたのだろうか。

 清潔な布が部屋に積まれていて、そこから一枚持ってくると器用にルードの身体を拭いてくれるのだ。

 その手際は、クレアーナに負けないほどのものだった。

 どう見ても犬の前足なのだが、それを器用に使い、口も使って何不自由なくルードの世話をしているのだ。


「お母さん」

『何かしら、ルード』

「お母さんの毛の色をね、青くしたらね」

『青くしたら?』

「まるで僕が知ってる『フェンリル』みたいだなって思ったんだよね」

『あら、よく知ってるのね。でもちょっと違うのよ。わたしたちのような女はね、フェンリラって呼ばれているの。フェンリルは青い毛をした男性の呼び名なのよ』


 ルードはそれは驚いた。

 ルードの知識では伝説の魔獣。

 北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物のはずなのだ。

 それがこの世界にも存在している。

 確かにリーダの身体は大きい。

 軽く二メートルはあるだろうか。


「そういえば、お母さん」

『何かしら?』

「お父さんにあたる人はいないの?」

『そうね。隠していても仕方がないわね。あのね、赤ちゃんが死んでしまったときに、いなくなってしまったのよ。勝手な人だったわ。怒鳴るだけ怒鳴って、消えてしまったの』

「どこの世界にも、だらしない男っているんだね。あの豚みたいに」

『そうね。困っちゃうわね』


 この光景は、他の人が見たら異様な光景だっただろう。

 この世界でも伝説と言われていてもおかしくないフェンリラと、人間の赤ちゃんが笑いあっているのだから。


 暗くならないうちに、リーダはルードに晩御飯をあげる。

 もちろんフェンリラであるリーダの母乳だ。

 伝説の魔獣の栄養価たっぷり、ルードにとって美味なる最高のごはん。

 美味しいごはんが、これほど幸せになれるなんて思ってもみなかった。

 ルードが夢中で吸い付いているのをリーダは嬉しそうに見守る。

 飲み終わったあたりで前足を使い、器用にルードにげっぷをさせる。

 おなかいっぱいになり、おなかを上にして満足したルードはリーダに抱かれて眠るのだ。


 こうしてリーダに抱かれているとき、不思議と嫌な匂いがしない。

 リーダに会う前に襲われそうになった獣から漂っていた『獣臭さ』が全くないのである。

 それどころか、あの部屋で生みの母に抱かれていたときのような、安心できるいい香り。

 綺麗な毛並みとその感触。

 ルードの記憶の奥にある、とあるキーワードが浮かんでくるのだ。


「(あぁ、これが『モフモフ』ってやつなんだね。気持ちいいわ……)」


 そんな心地よさを感じながら、ルードは眠りに落ちていくのだった。

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